森の中を歩いているとお菓子の家を見つけた

くらい暗い森の中

この道はけもの道

細くてとぎれとぎれ

寒くてひもじくて足は棒

町ははるか遠く、帰れそうにない

藪をかきわけて明かりを見つけた、それはお菓子の家

ドアをノックすると中から出てきたのは最新型のおじいちゃん

ブリキでできた体、笑顔まで金属光沢

歓迎されて中に入るとおいしいお茶とお菓子

私は夢中でほおばって体がぬくもりを取り戻していくのを感じた

今夜は泊っていくかい?

二つ返事でベッドにもぐりこむ

窓の外、カラスの噂話

あの旅人は殺されるだろう

おこぼれに目玉をいただこう、いや肝臓のほうがうまい

静かに、刃物を研ぐ音がする

いびきをかいて寝ておるな、とおじいさんの独り言

私はいびきをかく真似をする

階段を上がってくる音がする

このままでは、このままでは

とっさに手が伸びた漬物石を枕に乗せ私はベッドの下へ

ドアが乱暴に開け放たれる

振り下ろされる鎌、キイーンという無機質な音が思ったより大きい

どこだ、どこだ、どこだ、声は私の名前を呼ぶ

名乗った記憶はない、なぜ名前を知っている?

私は逃げるタイミングを失い、ブリキの狩人とただ二人

刃こぼれした鎌が月の光を反射して、目が合った

みつけたぞ、と確かにその怪物は私の名前を口にする

胸倉をつかまれベッドの下から引きずりだされる

鎌を振り上げて、振り下ろす

私の血しぶきがブリキの体に降る

無機質な手が私の体を貫き、まだ動いている心臓が取り出される

最新型のおじいさんは心臓を飲み込んだ

ブリキの体は血が通ってゆく

皮膚は透き通り、血管が、動脈が、静脈が

みるみるうちに体がぬくもりを取り戻してゆく

ブリキの体は人間の体になった

それは私だった






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