有罪道具温故知新 第5回「むだ時間とりもどしポンプ」

「歳月人を待たず」という昔の言葉をご存じですか?

人が何をしようと時というのは止まらず刻々と進んでいくという意味なんだそうです。

ご存じかとは思いますが昔は時を止める方法も遅くする方法もなく、本当に時の流れに身を任せるしかありませんでした。

……しかし、現代では時というのは個人個人で自由に操ることが容易に可能であり、時は私たち人類を流すことも縛ることもできなくなりました。

体感時間も驚時機や時間ナガナガ光線でいくらでも変わるし、タイムマシンで過去や未来へ自由に行き来することができるのが当たり前になったそんな時代に「歳月人を待たず」というのは……まぁ古めかしいジョークにしかなりませんね。

さて、今回はそんな時間に関する販売中止となったひみつ道具をご紹介するのですが……読む前にクイズを一つ出します制限時間は10分。

Q.以下文字列の中に

一文字だけ異なる文字が含まれています。

分かった方へ:そのまま読み続けてください。

分からずに10分経過した人ヘ:その時もそのまま読み続けて下さい。

時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時時

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分かろうが分からなかろうが、今回ご紹介するひみつ道具の話を進めていきますね。

驚時機や時門等の時の流れを操作するタイプのひみつ道具って本当に凄い発明でしてね。というのもあのサイズで時間を止めるのってひみつ道具が開発された初期の頃は不可能だったんですよ。時というのをいくらでも操作できるような現代でも理論としては同じなのですが時の流れを止めたり遅くしたりするには莫大なエネルギーが必要であり、いかにそのエネルギーを出せるかがひみつ道具の進化の過程として重要でした。

無論、開発初期はそのようなエネルギーを簡易的に出す方法はほとんど無く、「時を容易に止めることは不可能」と言われていました。

それを最初に可能にしたひみつ道具が今回ご紹介する「むだ時間とりもどしポンプ」になります。

「むだ時間とりもどしポンプ」は使用者が今まで人生で発生した無駄な時間の累計時間分時を止めることが出来るという画期的なひみつ道具でした。

先ほどお伝えしたエネルギーをこのひみつ道具では一応解決しています。というのもエネルギーを使用者自ら提供するという方法ですね。

付属されているペダルを足で踏むと、「時間風船」が膨らんでいきます。この風船はペダルを踏んだ際に発生するエネルギーを蓄えており、溜めれば貯めるほどその分だけ自分以外の時を止めることができます。

勿論長時間止めるのにはそれなりのエネルギーが必要となるので、ペダルは踏めば踏むほど力が必要となります。とは言え子供でも10時間くらいは止めれるほどのエネルギーは溜めれるとは思いますが。

ある程度溜めたら風船のコックを開けます。すると……それ以降に訪れるのはあなただけの時間です!ゆっくり休むもよし!急いで仕事をするもよし!自分の足で取り戻した自分以外は止まった時間が取り戻せるのです!
……と言っても現代人には珍しくもない時間ですがね。

これが発売された時はタイムマシン等の時間移動の手段はあっても時間停止等のひみつ道具はありませんでした。そんな斬新なひみつ道具だったこともあってか当時は凄い売れ行きだったそうです。


さて、ではこれが何で販売中止となったのかをお話しなくてはなりませんね。とはいえ、このひみつ道具の販売中止理由は非常にややこしいんですがね……。よくある理由とは違うので。

時間が止まることによって犯罪が急増した?

いいえ、この頃にはタイムテレビもあった為そんな数時間時を止めてまで犯罪をしようとする人はほとんどいませんでした。

時間が止まることによって社会に悪影響が出始めた?

いいえ、皆時間を有効活用していたので悪影響はありませんでした。

このひみつ道具の販売中止理由。それはとある訴えがあり、そのまま裁判沙汰になったからなんです。


このひみつ道具の仕組みをもう一度思い出してみましょう。

・ペダルを踏めば踏むほど今まで無駄にしてきた時間分エネルギーが風船に溜まり、コックを開けるとそのエネルギー分時間が止まる。

この仕組みのどこが問題だったかというと……「今まで無駄にしてきた時間」というところでして。

皆さんは今まで無駄にしてきた時間ってありましたか?

会社で昼寝してしまった?でもそれは自身の体を休めたのだから無駄な時間ではないのでは?

積み上げてきたプロジェクトが白紙になった?でもそれは自分の経験にはなったから無駄な時間ではないのでは?

ボーッと空を眺めてた?

でもその間も目は空いて空気を吸いながら心臓を動かしていたのだから無駄ではないのでは?

人間の無駄な時間とはなんなのか。使用者の無駄な時間を計測している機能はあるのか?ただ単に時間が止まるだけのひみつ道具で「むだな時間を取り戻せる」という嘘をついているんじゃないか。

そんな声がどんどん高まり、ひみつ道具法(※1)違反として裁判での訴えが始まったんです。

というのもひみつ道具法にはこのような記載があります。

「ひみつ道具の効果機能に関しては何人と雖も虚偽又は誇大の広告を為すことを得ず」

まぁ行ってしまえば誇大広告や虚偽報告を禁ずるというものですね。今回はこの「むだ時間とりもどしポンプ」という名前や説明の「むだ時間」というのが虚偽であるという訴えです。

不思議なもんですよね、止まってる時間の大元がなんであれ時が止まるという画期的な発明ですよ?裁判を起こす意味が分からない……と思う方も多いと思います。
これはあくまで憶測ですが、訴えた団体を他のひみつ道具販売会社が支援していた……という噂もあります。まぁこの時を止めるエネルギーの活用方法はこのひみつ道具を開発、販売していた時空デパート独自の技術でしたから……そういうことが起きていてもおかしくはない……かもしれませんね。

この裁判は非常に長引きました。何故なら両者とも無駄な時間と無駄じゃない時間の線引きが出来ないまま時間が過ぎていったからです。原告側はポンプを踏み続けたら風船に溜まる時間が今までの寿命時間を超える=むだ時間は嘘であるという方法を取ろうとしたけど、どんな力自慢でも6ヶ月以上のポンプが重すぎる為検証が不可だったそうです。

また、被告側もむだな時間の定義が提出された資料に記載されていないことについて返答ができなかったりと、両者ともどもむだな時間なのかそうじゃないのかの線引きを決めれないという「無駄な時間」が流れていきました。

それでも裁判は続きます。

デバッグを担当した人に証言を得たり、ほとんど暇つぶしをしたことがないという人を招集したりと様々な手段を取りましたが……結局のところ無駄な時間というものの線引きは出来ませんでした。

そんな裁判の結果を待つまでもなく、「むだ時間とりもどしポンプ」は販売を中止しました。裁判が起きた時点で既に風評被害のようなもんですからね。販売会社であった時空デパート(※2)にとってもこのまま売り続けてよいことはないという判断を取った……というわけでしょう。

販売中止によって起訴も取り下げられ、無駄な時間といってもよい裁判も終わりました。

※1 ひみつ道具法
今までの法律では対処できないほどひみつ道具の多様性が進んでいったことにより制定された法律。
大部分は既存の法律の引用だったりする。

※2 時空デパート
主にタイムマシンと取り換えパーツを販売していたデパート。
未来デパートに吸収された為、現在は存在しない。


さて、今更ですが最初に出したクイズの答えを発表します。答えは

『「分からずに10分経過した人ヘ」のへがカタカナだった』でした。

あまりにもめちゃくちゃなひっかけ問題ですが、この問題は当博物館で「むだ時間とりもどしポンプ」と共に展示されてるものです。

つまりこの問題を解く間の時間が無駄だったかどうかをこのポンプで見てみるという体感展示品としているわけですね。皆さんは何分間無駄にしたと思いますか?是非来館して確かめてみてください。

つづく

※追記

そういえば裁判で論争になった無駄な時間を判定する機能。その後当博物館に収められた正式な設計図を基に分解してみると入っていました。しかし、何故か当時以上のテクノロジーが一部含まれていました。恐らく開発者がタイムマシンを使用して(※3)未来の技術を模倣した為、それを秘密裏にするために裁判ではぼかしたんでしょうね。
裁判でももちろん設計図は提出されていましたが、ここまで詳細ではない……所謂簡易版を提出していたみたいですから誰も気付いてなかったみたいですね。

ただ、このシステムは完全じゃなかった為今現在グレードアップ液等を使用してポンプを踏み続けると簡単に自分の寿命以上の時間を止めることが出来ます。これは使用者が無駄だと思った時間が全て計測されるので「人類史の今までもこれからも全て無駄だ」と思えば風船は永遠に膨らむんだそうです。もしかしたら開発者が言いたかったことは、そういうことなのかもしれませんね。

※3 開発者のタイムマシン使用
航時法でひみつ道具職人の時間移動は禁止されています。
理由はここに挙げた通り、時間移動で未来の技術を模倣したり、過去の自分に最新技術を伝えることにより手柄の横取りが行えてしまう為。
そのため今ではひみつ道具職人の免許更新の際はタイムセンサーで時間移動をしてないかも調べられる。


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