有罪道具温故知新 第3回「原子おはじき」
私事ではありますが、昨日THS(※1)に行ってきました。
まぁこういったイベントに関係者枠で気軽に行けるのは博物館職員の特権ですね。
いやぁ、今年も多数の人やロボット、宇宙人でごったがえしてました。
年々実際の生身で来場される方が減っていってるという印象が無くはないんですが、やはりこういうのは生身で体験してこそ……と考える方もやっぱり多いということなんでしょうかね。
多くの電子カタログや(今後日の目を見るかは分からない)試供品ひみつ道具等を大量に受け取りながら見る新型ひみつ道具の展示や体験は本当に素晴らしく、まさにこういったリアルイベントでしか体験できない醍醐味ですね。
まぁ、各社ブースの職員はあんまり私にきて欲しくない感じでしたけどね……出来れば別館とは縁がない方が良いですから。
さて、そんなTHSと同時に開催されているイベントは皆さんご存知ですか?
そう!勿論TGS(※2)ですね!!こちらも同じ日に参加してきました。
流石にひみつ道具博物館はTGSと関係が無いのでこちらはお知り合いのメディア関係の方の付き添いという形で、ですが。こちらも勿論大盛況でした。
ハツメイカー(※3)以降のひみつ道具の発展に合わせてゲーム業界もより多方面になり、インディーゲーム(※4)も割合を増し、今まで見たことのないゲームも大量!!観て飽きない、遊んで飽きない夢の時間でしたよ……!
今回はイベント開催中の特別編として、発売停止や回収騒ぎにはなっていないのですが個人的に好きなゲーム……もとい遊戯ひみつ道具について取り上げます。
※1 THS
トーキョーひみつ道具ショウ。
ひみつ道具が一般に販売されるようになってから開催された日本最大級のひみつ道具展示イベント。ひみつ道具販売会社、一部のひみつ道具職人が既存ひみつ道具の展示・販売だけでなく新たなひみつ道具の発表等も行う。
今年のキャッチフレーズは「ひみつ道具は、まだ止まらない」
※2 TGS
トーキョーゲームショウ。THSより歴史の長い日本最大級のゲーム展示イベント。
※3 ハツメイカー
2125年に発売されたひみつ道具。要望に合わせたひみつ道具の設計図を提供してくれる。本来ならひみつ道具の作成はひみつ道具職人等の免許が必要だが、ハツメイカーの提供するひみつ道具はフルメタルを使用せずに作れる為免許は必要なく、幅広い層がオリジナルひみつ道具を作っていた。今でも微量ながらバージョンアップされており、ファンによるハツメイカーオンリーイベントが開催されている。
※4 インディーゲーム
少人数低予算で作成されたゲームのこと。昔はインターネットでの配信による提供が主流だったが、今ではインディゲームそれぞれで独自ハードが出せるようになった。
因みに現在「インディーゲーム」と宣伝をするにはIESA(Indie Entertainment Supplier's Association)から許諾を受けなくてはならない。
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皆さんはバトルロイヤルゲームというジャンルをご存じですか?
今でも人気のあるゲームジャンルなので知ってる方も多いとは思いますが……まぁゲームをあまりプレイしない方もいらっしゃるかもしれないので、一応説明しますね。
バトルロイヤルゲームとはざっくり説明すると「多人数が何かしらのバトルをし、最終的に勝者を一人だけ決める」って感じのゲームです。
大昔に有名だった作品ですと「PUBG」や「フォートナイト」とかですかね。最近ですと「AFG」とかもそうですね。ちょっと古めではありますが。
上空から広大なフィールドに着陸し、様々な武器を手に入れてその武器で他のプレイヤーを倒して最終的に最後の一人になるまでやるという……。
そんなバトルロイヤルゲーム(以下「バトロワゲーム」と表記)なのですが、その多くは出てきた当初は家庭用ゲーム機で遊ぶものでした。というのも当時ゲームを遊ぶ方法として存在したゲームセンター(※5)ではあまりバトロワゲームが遊べることは多くなかったんです。
当時のスペックでは家庭用ゲーム機でも広大な島一つくらいはフィールドとして用意できたので、ゲームセンターに行かなくても充分に楽しめた……基本プレイ無料のゲームが多く、1プレイ毎に金銭が必要なゲームセンターでは武が悪かった……とまぁ語っている文言もありますが……
※5 ゲームセンター
今では遊戯ひみつ道具のレンタルが主になっているが、当時はぬいぐるみ等を得るための遊戯機「UFOキャッチャー」やゲームセンターでしか遊べない体感ゲームが置いてあるのが主流の施設。
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そんなバトロワゲーム、2040年ごろは下火だったと言えるでしょう。
技術も進化し、体感型バトロワゲーム等も出てはいたのですが……実際に体を長時間動かす必要がある為、こんな言い方はあれですが普段ゲームしかしないような人では体力が持たなかったりということもあり、あまり人気は出ませんでした。体を動かすバトロワゲームならサバイバルゲーム(※6)をやればよいというのもありましたしね。
そんな少しバトロワゲームが伸び悩んでいた2040年代にひっそりと稼働した遊戯ひみつ道具がありました。それが「原子おはじき」です。
原子おはじきは「珍品堂(※7)」と言う会社が出した筐体で、恐らく皆さんもちらっと聞き覚えはあるんじゃないかな……まぁ名前の通り「原子でおはじきをする」ゲームなんですけどね。
※6 サバイバルゲーム
実際に体を動かし武器を持ち戦闘を行う遊び。大昔はエアソフトガンと呼ばれる疑似的な拳銃を使用していたが、現在はドリームガン等のひみつ道具を使う場合が多い。
※7 珍品堂
現在でも営業している古道具屋シェア率No.2のお店。
この頃は古道具モチーフのひみつ道具の販売も行っていた。
原子おはじき以外には「糸なし糸電話」や「だるまおとしハンマー」等が主な商品。
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まず「おはじき」について解説をしますね。
「おはじき」とはガラス製の平たい円のようなもので奈良時代から遊ばれていた玩具です。
日本には古くからあるものなので、珍品堂も「おはじき」をひみつ道具にアレンジした物を考えたのですが……なかなかうまくは行きませんでした。おはじきはもう2000年代にはほぼほぼ遊ばれる機会も失われていましたし、アレンジしようにもルールも薄れかけていたような時代でしたし、致し方ないといえば致し方ないです。珍品堂もとりあえずルールの見直しから初めて行きました。
ルール……といったものが正確にあるわけではないですが、まぁ最低限のルールは残されていました。それは「おはじきをはじいてほかの配置されているおはじきに当てると、置いてあるおはじきをゲットできる」というのと「おはじきを大量に所持している人が勝利する」という二つのルールでした。
このおはじきのルールに改めて珍品堂は目を付けました。ルールをより丁寧に整理してみると以下になります
・ランダムにおはじきが配置されている
・自機(おはじき)を動かし、他のおはじきに当てる
・当てるとおはじきをゲットする
・おはじきを一番多く持ったプレイヤーが勝利する
さて、ここでさっきお話したバトロワゲームのジャンルも振り返ってみましょう。
・ランダムに武器やアイテムが配置されている
・自機を動かし、武器やアイテムを探す
・武器やアイテムをゲットすると強くなる
・必然的に一番強い武器やアイテムを多く持ったプレイヤーが勝利する
……そう、実は「バトロワゲームとおはじきは似ている」ということに珍品堂は気づいたのです。
古道具を愛してやまない珍品堂はすぐさま数十年愛されたバトロワゲームと数百年愛されたおはじきの合体策を考えました。
おはじきをバトロワに組み込むうえで少し難点だったのがプレイヤーおはじき同士の衝突です。バトロワにあったバトル性をおはじきに組み込めるのか?
おはじきの基本動作ははじくしかないので操作でバトル性を出すのは難しいし、勝敗を純粋に所持しているおはじきの数で決めるのは最終決戦でのドキドキもあまりないため却下となりました。
バトロワゲームの多くは武器毎に性能が違った為所持数で決まらなかったので、できればおはじきにも性能の違いやレア度に相当したものを付けるべきでした。
しかし、おはじきとなるとそれが出来なかった。
というのは珍品堂はおはじきの優劣をあまりつけたくなかったんですね。劣のおはじき
をゲームとはいえ生みたくないというのは、まぁ確かに分からなくはないです。
よって実際のおはじきではなく、何か別のものをおはじきとして遊ぶ方式にすれば優劣がつけれてよいんじゃないかという結論にいたりました。
そして、そのおはじきではない「何か」に結果的に「原子」が収まりました。
物質の構成単位として出される原子は原子核と電子で構成されています。
その原子核同士がぶつかると核融合反応というのが発生し非常に大きなエネルギーが発生します。このエネルギーをプレイヤーのパワーとして認識するようにしたのが原子おはじきのパワーバランスになります。
おはじきの優劣を決めるよりかは自然でもう決まっている原子核のエネルギー優劣を利用した方が楽だし、何より原子について文句を言う人がいませんからね。
後当時の技術力で簡単に遊具にしやすい技術のみで完成させられるのも大きいですが。
こうして原子おはじきが完成し各地のゲームセンターに配置されて行きました。
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原子おはじきは当時にしてみたら大き目な筐体で中華テーブルサイズの円柱にドーム状の装置がくっついた形状でした。
この頃は原子をオンラインで動かすという原理はなかったので、オフラインの対戦のみにしたのが大きくなった原因と言われています。
ゲームをプレイする人は筐体にお金を入れてドームに設置されたレンズを覗きます。すると自プレイヤーである水素原子がいます。
プレイヤーは手元にあるレバー2本を使って水素原子を操作します。左のレバーで向きを決め右のレバーではじく強さを決めるというおはじきスタイルで進んでいきます。
レバー上部のボタンを押すとゲームスタート。広大なフィールドから行きたい場所を選ぶとそこに自プレイヤー原子が飛んでいきます。
後は普通におはじき基バトロワゲームと同様探索をしていきほかの配置されているおはじき原子に当たっていきます。あたることにより核融合が発生し、よりパワーのある原子に成長していきます。
そして他のプレイヤーが近づいてきたらバトル開始です。操作はおはじきスタイルなので一度はじいたら止まるまではじくことはできません。
原子おはじきはオリジナルのルールとして通常のおはじきのターン制を廃止しており、はじけるタイミングだったらはじいてよいことになっていたので、バトルはさながら早打ち対決のような緊張感がありました。
外したらやられるかもしれない。しかし、先にはじかないと危ないかも……。
そしてプレイヤー同士のおはじきがぶつかったらエネルギーが高い方が勝利となり、核融合後の原子おはじきを操作できます。
最終的に最後の一原子になれば勝者となり、電子ポイントを得ることが出来ました。電子ポイントで自機の見た目を変更することができ、次のプレイに引き継ぐことが出来ました。
さて、そんな最新バトロワゲームだったのですが……まぁなぜか流行らなかったです。
理由は全く不明ですが……あまりにも古い印象が強かったのが原因だったんじゃないでしょうか。
前時代的な巨大な筐体、前時代的なローカルのみの対戦、そして一番前時代的な「おはじき」というスタイル……すべてがあまりそそるものではなかった……という悲しい想定しか残念ながらできません。
一応あんな小さな装置で核融合が発生出来てしかも遊べちゃうというのは凄く最新な技術だったのですが……
原子おはじきは先ほども書いた通り、オンラインというシステムを使用してなかったのでサービス終了等の憂き目にはなりませんでした。まぁ原子取り換えサービス等は終了していますが……
原子おはじきはひみつ道具博物館の遊戯館にて展示されており、実は年に一度大会も開かれてたりします。当時の人気はなかったけど、後から触れる人にとっては逆にあたらしかったのかもしれません。去年の大会はなんと17歳の子が優勝していました。
今回は発売中止などはされず、後に人気が回復したひみつ道具を紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
すべてのひみつ道具が少なくとも後年愛されるものになってほしい。そう願うばかりですね。
つづく
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