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浮世絵の真贋を科学的に鑑定できるか

ヤフオクに浮世絵はたくさん出品されます。
それでも、そのほとんどは幕末と明治の浮世絵だからそんなに高い値はつきません。
1枚1万以下が多く、3枚続きなら3万円以下です。
ところが北斎や歌麿のように有名な絵師の浮世絵や、有名な浮世絵がヤフオクに出ることがよくあります。
例えば下のような出品です。

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浮世絵をよく知っている人は、この浮世絵は印刷の線や文字がはっきりしているので復刻だと分かります。
処が浮世絵に詳しくない人はどう判断すればよいのでしょうか?
ヤフオクでは本物は本物と記述しなければなりません。
本物と記述して偽物だったら払い戻ししなければなりません。
そこで説明欄を読むと下のように出ています。

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「正真正銘の本物だ、入札しよう」と慌ててはいけません。
ちゃんと見ましょう。


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龍香堂版と書いてあり、復刻木版画と出ています。
つまり本物の復刻版ということです。
復刻版に本物があるのかは分かりませんが、龍香堂版の本物だということです。
浮世絵に偽物があるとしたら印刷だけでしょう。
浮世絵は木版画なので木版画である以上偽物ではなく復刻なのです。
但し、明治時代に復刻としない、大量の偽物としての木版画は作られました。
これらは復刻としないで本物として世に出したために偽物とされています。
しかし、それらも木版画である以上、偽物ではなく復刻になるのです。
ただ、この出品のように製作がはっきりしている(龍香堂版というように)のが正式な復刻版とするのなら、確かに本物の復刻版と言っても間違いではないのですが、おかしくもあります。
基本的に復刻版は飾って楽しむものです。
浮世絵としての価値を求めるものではありません。
細かいことを気にしないのであれば家庭用のジェットプリンターで印刷したのを飾っても良いのです。
そしてこの出品は読みづらく書いてあるとはいえ、復刻の文字が入っているからまだましなのです。
酷い出品になると本物と書いてあり、それはちゃんとした版元で出している復刻だから本物だという言い訳のものもあります。
もしこのようなものを落札してしまったらあきらめるしかありません。
ヤフオクは何もしてくれませんし、警察も何もしてくれません。
ヤフオクも警察も真贋までは判断できないというスタンスですから。
ヤフオクの場合、詐欺と認められるのは落札したのに落札品が送られてこなかったときだけです。
私が北斎の『凱風快晴』を落札した時がまさにそれでした。

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上の画像で出品されていました。
浮世絵は木版画なのでたまに木目が写る浮世絵があります。
この北斎の
『凱風快晴』がまさにそれにあたります。

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赤丸の中の木目が江戸時代のオリジナルか復刻かの決め手になります。
この木目がはっきり出ている浮世絵ほど初摺りに近く、かすれていればいるほど後摺りです。
復刻にはこの木目がありません。  復刻☟

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それ故、木目が写り込んでいる浮世絵はオリジナルか復刻かはっきりわかります。
ただ、木目がある浮世絵はそんなにありません。
私は出品してある写真を見て木目があったから間違いなく本物だと確信して落札しました。
ところが、あまりにも安く落札したので(74,800円)、落札してから木目が正しいのか本物の
『凱風快晴』をネットで探しては比べていました。
するとアメリカのメトロ美術館にある
『凱風快晴』が何もかも、木目までそっくりでした。
おかしいと思い、この出品者の他の作品も調べると、みんなそっくりでした。
つまり、他からコピー貼り付けして載せていたのでした。
出品者の住所を調べると9Fとなっているのに、そこの番地には平屋しか建っていないし、周り5キロも最高4階建てのビルしかありませんでした。
9階建て以上の建物なんてなかったのです。
電話をかけると使われていないというアナウンス。
完全に詐欺です。
そこで、すぐにヤフオクに簡単決済をしないで下さいと頼むと、相手が商品を送ってしまったからそれはできないといいます(メールで書いてきます)。
警察に行くと、相手が送ってきているのだから詐欺にはならない、真贋は警察ではしないと言われました。
この様子はユーチューブにも載せました。

商品は外国から送られてくるので(おそらく中国)このように警察に行ったりヤフオクに何回もメールを出している間も届きませんでした。
しかし、ヤフーかんたん決済は、受取連絡をしなくても、商品を送ったとされれば、時間が経つと自動的に決済をされてしまい、されてしまいました。
完全な詐欺なのでほかにも騙された人がいないか調べると何百件、数千万円も被害がありました。
これらの被害を見つけたのは、私の落札決済が行われる前だったので、証拠となる大量の詐欺をプリントし、ヤフオク、警察に訴えたのですが、結果は同じでした。

プリントしたのは、下のようなものが25枚でした。これだけ詐欺があったのです(およそ300~400件)。

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ヤフオクには詐欺などのことを報告するコーナーがありますが、全く役に立ちません。
担当者がどうしようもなく無能だとマニュアルで終わらせられます。
ちょっと思考力を使えば詐欺だと小学生でもわかるのに。
決済をされた後、ヤフーに全ての証拠をプリントして送りました。

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上のは画像が消えていますが50万円以上まで引き上げるために詐欺グループが捨てIDで入札しているのが分かります。
下もそうです。
落札金額50万円と85万円。恐らく落札した人は泣き寝入りです。
ヤフオクが弁償したのならヤフオクが取り締まり、ここで詐欺は終わったはずですから。
でも、ここから私が止めるまでずっと詐欺は続きました。
詐欺を見つけるのは簡単です。
担当者がちゃんとしてれば解決できます。

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下の国芳の骸骨が何回も出ていました。

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私の場合は、なんだかんだでこれはヤフーに弁償させましたけどね。
またヤフーに弁償させたことにより、ヤフオク側も詐欺師の出品はみんな停止中にしましたので、それ以後はほとんど詐欺出品が無くなったのです。
ヤフオクは素晴らしい場所なので私もことを大きくしようとは思いませんでした。
反応が無ければ文春か新潮にこのネタを送ろうとは考えましたが。
私がユーチューブなので騒いだので、この詐欺師グループはその後詐欺出品は無くなりました。
詐欺出品者から送られてきたのは、思った通り大きく印刷した掛け軸でした。
それも横に刷らないといけないのに縦に刷られていたので掛け軸としても使えない代物でした。

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このような詐欺は浮世絵ではもうないと思います(私が定期的に見張っているのですが1回出品されましたがすぐに止めていました)。
しかし、他の美術品ではたくさんあるようです。
浮世絵は私が見張っていると詐欺師グループも思っているでしょう。
ただ、これは明快な詐欺ですが、詐欺とは言えない、詐欺まがいのも良くあります。
下のような例です。

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説明には『専門ではないので、時代感ありますが、専門知識の限りがありまして、具体的な時代が判断できません。申し訳ございません。画像でご確認とご判断くださいます様お願いいたします。
所定鑑定機関が定まっていないことから、当方では真作保証は致しておりません。』と書いてあります。
このように真贋は落札者が判断してくれというのが浮世絵では時々あります。
この出品者、このような浮世絵をたくさん出品しているので『具体的な判断ができません』なんて言うことがあるわけがないのですが、落札者に責任を押し付けます。
勿論浮世絵に詳しい人は引っ掛からないレベルの浮世絵です。
ただ、最近写楽が出品され、これは判断に迷いましたし、そういう人が多かったと思います。
noteにも載せました。

本物なら1000万円ですから、本物なら私も最後まで入札をしたかもしれませんが、私は復刻だと思いました。
本物ならヤフオクに出品しないでしょうという理由が一番です。
写楽の本物ならちゃんとしたオークション(真贋を保証してくれる)に出品できますからヤフオクに出品するわけがないのです。
そしてちゃんとしたオークションなら1000万円くらいの値になったはずです。
私の予想では、この写楽は浮世絵専門店に持って行って「おそらく復刻だろうが確定はできない」と言われたのだと思います。
それでヤフオクに出品したのだと思います。
何しろ、宮沢賢治が持っていた写楽で、新聞にそのことが大きく載っていたのですから、本物と思う人も多かったでしょう。
実は、浮世絵(ほとんどの美術品も)は現在大暴落中なのです。
その原因はヤフオクです。
そしてこれは浮世絵だけにとどまりません。
すべての美術品がそうなのです。
だから『なんでも鑑定団』にネットで落札したという古美術が出て、そのほとんどが本物だったという現象が続出しているのです。
何故、ネットオークション、いわゆるヤフオクにそれだけ大量の美術品が出るかと言いますと、古美術品の鑑定は出どころのはっきりしたものでない限り本物扱いはされないのです。
つまり、ちゃんとしたオークションで買うか銀座の老舗の画廊で買わない美術品はみんな偽物扱いの値段になってしまうのです。
その中で、浮世絵だけは真贋が浮世絵専門店なら判断できますので鑑定ができる古美術品ではあります。
それでも、浮世絵が大量に出品されるのですからおかしい? となってしまいます。
この大量に浮世絵が出品される理由は二つあります。
一つは、浮世絵コレクタ―が亡くなりその遺品の浮世絵を引き継いだ人が、とりあえず近くの古美術屋に売ってしまい、それを古美術屋が売れればいいとしてヤフオクに『100円から~』として出品されるので、安い価格で落札されてしまうことです。
ヤフオクに『100円から~』で出品する人は浮世絵の真贋も価格もどうでも良いのです。売れればいいから、高く落札されればその浮世絵が価値があったのかと分かるし、安ければ価値がなかったのだと思うだけです。
何しろ、仕入れ値は数十枚をまとめて1~2万円くらいで仕入れているからだと思うからです。
今、美術品の代替わりが盛んにおこなわれています。
戦後を支えた日本の高度成長の立役者が高齢になり、次々亡くなり、それを引き継ぐものがその価値を分からないのでまとめて古美術屋に売ってしまうからです。
これは明治時代に廃藩置県、廃仏毀釈が行われたので、たくさんの美術品が骨董屋に出回ったのと同じです。
おそらく戦後の一時期もそうだったと思います。
しかし、この平和な時期に古美術品の暴落が始まったのはネットオークションが原因なのです。
だからヤフオクの古美術品はプロがたくさん落札します。
そしてその落札価格は時価の3分の1が目安なのです。
もちろん、人気作や流通性が早いのは2分の1までプロは落札します。
つまりこれはどういうことかというと『
大量に浮世絵が出品される理由』のもう一つになるのです。
ヤフオクで3分の1でプロが買っているのだから、浮世絵専門店に浮世絵を売りに行っても時価の3分の1以下でしか買ってくれないということです。
それならばヤフオクに出品した方が高く売れる可能性があると考えヤフオクに出品されるわけです。
ただ、代替わりもいずれ終了します。
その時から、また適正価格に戻っていくでしょう。
そして、浮世絵ほど価格が安定している古美術品はなかなかないのです。
浮世絵は世界的な美術品であるから、日本で売れなくても世界で売れます。
また、真贋が分かるので安心して買えます。
でも、その真贋が分かる人とは誰なのか?
これは『なんでも鑑定団』を見ている人はよくわかっていると思いますが、扱っている人、つまりそれをビジネスにしている目利きと言われる人たちです。
つまり、浮世絵商なら浮世絵の真贋は直ぐに分かります。
私だってある程度は分かるのですから、毎日真剣勝負をしている浮世絵商は真贋など朝飯前なのです。
ところが、100%分かるかというと、それは違うのです。
浮世絵商は商売人です。
だから、極端に言うと偽物でも市場価格がついているものは本物としてしまうこともあるのです。
つまり真贋よりも市場価格の方が重要なのです。
それに、浮世絵の偽物を作ったのも浮世絵商ですから。
明治時代にお雇い外国人の通称ベンケーさんが歌麿を通常の10倍で買いまくり歌麿が無くなってきたので、ベンケーさんに歌麿を売っていた浮世絵商が歌麿の偽物を作りベンケイさんに見せると通常の10分の1で買ったのです。
これが偽物浮世絵の始まりで、その後たくさんの偽物が造られました。
モネは浮世絵収集した印象派の画家として有名ですが、モネが大家の仲間入りをしたときに値段の高い古浮世絵を買おうとしたのですが、あまりにも偽物が出回っていたので、浮世絵の目利きに見てもらい買っていたそうです。
これらの偽物浮世絵も現代では100年経っているのですから、本物と見分けるのは大変です。
特に外国人が大量に買った古浮世絵にはそれこそ大量の偽物が混じっていた可能性もあるのです。
私は海外の浮世絵ディーラーにどピンクの歌麿をたくさん見せてもらったことがありました。
そのディーラーは自慢顔で初摺りの歌麿だと言いました。
また、人気の浮世絵(1000万円以上)の浮世絵を知人から見せてもらったことがあるのですが(ちゃんとした浮世絵専門店で買った)500万円で買ったその浮世絵は見た目は本物でしたが紙が違っていました。
しかし、本物として浮世絵商の間では流通してしまったので、誰も復刻版だとは言わないのです。それが業界のルールなのでしょう。
つまり、浮世絵商というのは浮世絵に芸術は求めていなくて、あくまでもビジネスの商品として浮世絵を見ているのです。

さて、ここからが本題です。
それでは浮世絵の真贋の鑑定100%は不可能なのかというと、いずれ科学的に真贋が分かる日が来ると思うのです。
その真贋の見分け方は簡単です。
浮世絵の和紙を科学的に調べれば良いだけです。
浮世絵の和紙は時代とともに変化しています。
特に赤絵という明治に出版された浮世絵は外国の紙だったので、それまでの江戸の和紙とは全く違います。
私が江戸時代の浮世絵か復刻か見るのに一番、重要視しているのが浮世絵を裏から見ることです。
江戸時代の浮世絵の和紙は薄いので裏からも絵柄がはっきり見えますが、復刻版の多くは和紙が厚いために裏から見える絵がはっきりしません。
それに赤絵以降の和紙は水につけると直ぐに破けてしまいます。
これを科学的にすべて時代別に検査し、和紙のデーターを作れば、それを検索するアプリなどを作ってもらえば1分もかからず真贋が判明するのです。
これは政府が援助して1万枚以上の浮世絵を持つ美術館に協力してもらい、データーを集めればできることです。
そして、その研究機関が鑑定書を発行すれば、高額な浮世絵がヤフオクに出ても、誰もが安心に参加できるのです。
浮世絵がヤフオクで200万円以上の価格で落札されることはありません。
だいたい、ヤフオクで高額な美術品を落札するのは誰もが不安に思えます。
最近、伊東深水の掛け軸がヤフオクで出品されました。

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実は、これ「1000円から~」で一度出品されたのですが16万円くらいで取り消されたのです。
そして最低70万円に変え、改めて出品されたのです。

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何しろ鑑定書付きなので出品者もさすがに70万円以下はありえないと思ったのでしょう。

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まあ、この鑑定書が信頼置けるものなら、正規の銀座のギャラリーや有名なオークションに出品すればヤフオクよりは高い値が付くと思ってしまうのですが。
この東美鑑定評価機構というのは鑑定を株式会社東京美術倶楽部に委託しているそうです。
東京美術倶楽部のホームページを見ると『原則として、まとまった10点以上の美術品について評価いたします。
評価料は最初の1点目は5万円、2点目からは1点につき1万円となります。(税別)
なお、出張査定等、別途費用がかかる場合もあります。』と記してあります。
そして、『詳細についてのご説明は一切いたしません。』と書かれています。
その詳細が分からなければ真贋の判定がどのように行われたか確実性はありません。
もしこの鑑定書に対して信頼を業界が持っているとしたら、ヤフオクに出品しなくても適正価格でオークションかギャラリーが引き取るはずです。
つまり、まだ鑑定書というのは色々な機関で発行していますが業界で信頼されている鑑定書はないということなのでしょう。
しかし、浮世絵の和紙を科学的に鑑定するのなら、目利きよりも信頼できるのです。
1枚1万円で鑑定してもらえるならば、写楽が本物なら絶対に鑑定して、それを添付すれば誰もが安心してヤフオクに参加できるわけです。
そうならば高額な浮世絵でもヤフオクに出品されていきます。
しかし、そのようになると、今でも苦しい浮世絵商がつぶれてしまいます。
とは言っても、現在でも浮世絵の専門店で買うよりヤフオクで買う方が面白いという人が増えているのですから、これは時代だと思うしかないのでしょう。

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