原稿整理
「伝えたいことがある」
これが全ての始まりだった。うねるような道のりを越えて、あなたは言葉の山を抱えてやってきた。グツグツと音を立てる出汁の入った鍋を置いてあなたは言う。
「全て美味しいから、全て食べて欲しい。この出汁で煮ると美味しいはず」
言葉の山は素材ひとつ一つを見ると美味しそうに思えたが、全てを入れると味どうしを殺しそうに思えた。私はコックとして、主となる味を決めて、いくつかの情報を間引いた。
グツグツと音をたてた鍋は、あなたの情熱だった。その情熱は、食す人にとっては熱すぎて避けられてしまう。私はあえて、少し冷ましてその料理を差し出す事に決めた。
鍋に、適量で材料を入れた。煮込む順番は、伝えたい事からにしていた。アンチクライマックス法を採用しようと決めたからだ。しっかりと火が通った言葉達は、伝えたい順序や強弱に寄り添って大小に規律を保って煮込まれた。盛り付ける前に、一度理解をしてもらわないとならない。
ゆっくりと火を適温に冷まし、ちょうどいい温度で、ちょうど良い言葉の量を、順序立ててあなたに差し出した。
あなたは一瞬顔をしかめた。あなたの情熱を否定したかったわけではないが、結果的にそうなってしまったかも。と私は不安に思ったがそれでも言わずにいられなかった。
「伝えたいことがある」
私たちの意見は一致していた。あなたは静かにうなづいて、言葉の量と温度に対して意見をし、盛り付けに夢を膨らませた。
「伝えたいことを、相手に寄り添い適切に伝える」
私たちは言葉と熱量を交わし合うことでパートナーとなった。胸は高鳴っている。私たちは下ごしらえを終えて、料理の世界へ足を踏み出した。
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