見出し画像

映画「うたのはじまり」の、舞台挨拶はじまり。

こんばんは。映像作家の河合宏樹です。

先日は、緊急事態宣言後の映画館休館を経て、営業再開→再上映が決まってからはじめて、「うたのはじまり」の舞台挨拶が開催できた日。

2020年6月20日。

その記念すべき映画館とは、ユニバーサルシアターのシネマ・チュプキ・タバタです。障害を抱えたお客様にも対応した、数少ない日本のミニシアター。チュプキという光を意味するアイヌ語を冠に上げた、森のシアターでもあります。

私は田端駅から歩いて映画館に向かったのですが、車椅子でも全く障害がない道での立地になっており、会場に向かう道も計画的に設計されており、どんな身体環境の方、子供連れの方でも安心な道のりとなっておりました。

また、下記、映画館の外観を見てください。

画像1

画像2

画像3

画像4

僕は、本当に心から感謝しました。映画館独自の意志で、作品がディスプレイされていることへの有難みと言ったらありません。

コロナ禍だけでなく、学生時代から、僕は、こうした各映画館、CDショップ、ライブハウスなどの各々の独自の取り組み(例えばコメントカードとかね)に救われて、楽しんで通っていました。まさか今、自分の作品をこんなに盛り上げてもらえるなんて思いもよらないことでした。

画像5

そして、この映画館では、視覚障害を持つ方の為の「UDキャスト」という音声ガイドシステムも組まれております。

私は、オンライン上映システム「仮設の映画館」を通し、初めて音声ガイド版を体験しました。それは、うたのはじまり音声ガイド版、という新しい作品が生まれたことを決定づけた瞬間でした。

まずは、この作品には、通常版のほかに、絵字幕版というものがあり、下記の記事に上映経緯がありますが、

この音声ガイド版については、目の見えない、真っ暗闇の世界でも、ナレーターによる音声フォローのある種の立体感で、作品を体感させてくれる試みです。

この試みで、さらに新しい作品の解釈が生まれるとは正直思っていませんでした。

例えば、息をのんで思わず見入ってしまう緊張感の、齋藤さんのプロレスシーンが劇中にあるのですが、まったく自分の頭になかった(視覚情報は言語化していなかった)被写体の身体の動きがしっかりと言葉で実況されていて、「齋藤さんがジャブを打った、そしたら飴屋さんが横に転倒した!」など、監督ですら”意識的に言語化できなかった”側面が色とりどりの性格を持ったナレーション(男性の声、女性の声など)で翻訳され、作品制作の際に無意識だった部分をより立体化されたような気持ちでした。

当初は予算の関係で音声ガイドまで辿り着けなかったことが本音なのですが、チュプキさんの熱いリクエストを受けて、この作品は音声ガイドという新しい試みにトライアルできました。

本当に感謝しかないです。

当日の舞台挨拶では、今までで一番しっかりと喋れた気がします。なにより、久々に直接お客様に面と向かってお礼を言える機会だったので本当にうれしくて。

「概念で言えば、”うた”は誰の中にも存在すると思います。うたとは、言葉以前のコミュニケーションの方法でもあったと思います。劇中で、泣いた息子をあやすために、齋藤さんから本能的に溢れ出た”それ”は、彼らが生きていく為、生活の上で関係を修復するために必然的なツールだったし、耳が聞こえなくとも、目が見えなくとも、声がだせなくとも、皆さんの心の中には”うた”はそれぞれの形をもって存在するんだと思うんです。」                      

「齋藤さんが無意識にも、”うた”の本質的な行動をやってしまえている(子守唄)のは、彼が水のように透き通った純真な心の持ち主だからだと思います。劇中で作家の飴屋法水さんが、齋藤さんに『耳ついてんじゃん、きこえないってどういうこと?』と問いかけるシーンもありますが、飴屋さんも同じく、心の透き通った純真な疑問を彼にぶつけており、そうしたことではじめて、隔てのない、人と人との真実のコミュニケーションが行われる。人生において誠実な姿勢を貫いていらっしゃる方って自然と、様々な倫理や現象を超えて、”ほんとう”を見つけられる方だと思っています」

そんなようなことを喋った記憶があります。

画像6

帰り際、チュプキのスタッフさんから、お客様の感想でぜひ監督に伝えたかったと言われたコメントを、視覚障害者の方からいただいていると伺い、拝受しました。

暗闇の中から誠実にこの作品をたどってくれたことがとても新鮮で嬉しかったので、下記に転載させていただきます。

「冒頭、神聖な瞬間に立ち会い、祈り、一緒に喜びました。

齋藤さんと河合宏樹監督・七尾旅人さんとの魂の交流!
じっくり、丁寧に生きる齋藤さんとご家族。
周りの人々が共感しサポートしています。

「みる」ことを言葉や音に置き換えて生きている私の根っこの部分に響き、
心が震えました。

冒頭の女性の「ウー」と言う声を聞いた瞬間、
発声の違いで、この方聞こえない方だと直感しました。
医療スタッフの寄り添う様子に涙!
ご夫妻は子育てのとき、
鳴き声など全身で感じているんだ。
感性が豊かな監督と旅人さんは、
身近で濃密に家族と接していたから、
樹チャンが初語より初手話が先と気づき、
初語を齋藤さんに伝えられたんだ。

「サーカスナイト」は旅人さんの詩とともに歌声とギターの音色とリズムがすばらしく、いつまでも聞いていたい、
ときに涙し、ときにずっと身を任せて揺れていたくなる、
まるで子守歌のような作品。
旅人さんが齋藤さんの家に着いたときから、
樹チャンが眠り、旅人さんが絶賛するあたりまで、圧巻でした!

「うたのはじまり」を、チュプキで、すばらしい「おと」と、
映画に寄り添った音声ガイドで観られて幸せでした。
DVDになる予定がありましたら、チュプキ版の音声ガイド付きを希望します。音声ガイドがなければ、齋藤さんが喉に触れて樹チャンの声を確認しているなどは分からなかったからです。

河合監督、そしてこの作品の感動を届ける助けをしてくださった
チュプキの音声ガイドチームの皆様、ありがとうございます!」

この作品が手助けとなって、ある種の身体的な壁を乗り越えて、監督の私とお客様がつながった瞬間となりました。作品も喜んでいます。

画像8

また、このシネマ・チュプキ・タバタさんの上映タイミングで、実施しているオンライン上映「仮設の映画館」システム

https://utanohajimari.com/kasetsu

でも、この作品が多くの壁を乗り越え、様々な身体環境や、育児などで限定された生活環境を持つお客様の元に届いていることを実感しています。

私の知人であります、身体に障害を抱えながらも懸命に毎日を生きる少年、タケヒロさんからも、仮設の映画館システムで本作を見ていただき、うれしい言葉をいただきましたので転載させていただきます。

「人が生まれてきて生きていく、今生きている人が生きていく、色んな身体で生きていく、言葉や音はすごく限定的でルールがはっきりしている世界だと思っていたけど、浅い思考だったなと気づけました。

これからも僕はこの身体で生きるために生きようと思います。それと、押し付けがましいメッセージや感動ポルノが一片もないいわゆる障害者を描く作品を見たのは初めてでした。とても嬉しかったです。見終わってから、静かな喜びが満ちました。

仮設映画館もつくってくださりありがとうございました。仮設映画館がなかったら、この状況だと観に行けなかったと思います。寝たきりの仲間たちもこれならヘルパーさんを予約しなくても家で見られると喜んでます。監督さんにしたら、映画館で観ることが大切にされてほしいと思われるかもですがもちろんそれが一番だと思うのですが、僕たちに映画館という場所のハードルは高く、今回のこの試みが、コロナ禍が去ったとしても、続いてくれたら季節や体調に関係なく、観たい映画をタイミングよく見ることができます。障害者が皆と同じように文化芸術を楽しむことに立ちはだかっていた壁を仮設映画館は突破してくれたと思いました。

新しい試みをして、観れるようにしてくださってありがとうございました!ほんとに嬉しかったです。

河合監督に会える日を楽しみにがんばります。」

画像7

コロナ禍にあり、苦境と対峙した作品でもありますが、そこで考え抜いた新しい作品の伝達方法によって、新たに多くの人たちとコミュニケーションがとれたことは私にとって大事な宝物です。

この作品がコミュニケーションの本質に迫っている作品だと、取材、上映を経て気づき、そしてまた監督の私だけでなく、体感してくださる人達にとっても成長のきっかけとなっている実感があり、とても得難い経験だなと思っています。

今後の上映や仮設の映画館の情報は、下記までアクセスしてみてください。

よろしくお願いいたします。

また書きます。

河合宏樹






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?