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天地神名(Unique ancient Japanese Gods) 荒雲ノ魅恋 制作雑記

こんにちは!
はじめましての方ははじめまして!
カワバタロウです!

今回は14000文字くらいになってしまいました…!(過去最長)

とても気軽に読める量ではないと思いますので、お時間がある時にでも読んでくださるとうれしいです。


荒雲ノ魅恋(あらくものみれん)


天地神名シリーズ第五作目の創作神様は

カサカサ蠢(うごめ)く
這い寄る恋のメッセンジャー

蜘蛛神様(くもがみさま)になります!!!


【……………………蜘蛛です……!】



蜘蛛は太古の昔から存在する生物です。

日本の歴史、文化にも深く関わっていて、
最も古い記録の一つとして、

「ささがね / ささがに」

という枕詞(まくらことば)で

「ささがにの蜘蛛」

として、
多く「恋の歌」に使われ、
和歌等で親しまれてきたそうです。

そして他にも、待ち人の知らせや、良縁、商売繁盛、金運アップ等、庶民の間でも慕われ、たくさんのご利益が伝えられる一方、

人を襲う妖怪や、山姥(やまんば)、地獄の使者に、泥棒の暗示、

他にも、上記の恋の歌が

「妖怪出現」

のフレーズに転用されたりなど、
時代の変遷によって、
良くも悪くも様々なイメージで描写され、
うつろいながらも現在に残ってきた

不思議な価値の生き物…!

それが蜘蛛じゃないかと思いました。


【蜘蛛の神様!!?】


蜘蛛の見た目は超絶グロテスクなのですが、小さい虫とか「G」を食べてくれる益虫(えきちゅう)なので、

私は、

「蜘蛛って、人の役にも立ってるし、たくさん神格化されてるのでは…?」

と想像していたのですが、

意外とそうでもないようで…。

蜘蛛を神様としてお祀りされている神社は
あるにはあるのですが、
数は少なく、
やっぱり悪いイメージが多い気がする……!

「なんでだろう…?見た目がちょっとアレだからかなー…」と…

私は以前から、
蜘蛛には色々と思うところもあり、
これを機に調べてみたい……!

そう思うに至りました。


【蜘蛛の俗説。なぜ蜘蛛神様を描こうと思ったのか】


私は蜘蛛を見るたび、よくこの一節を思い出します。

「朝見かけた蜘蛛は、仇でも殺すな」

「夜見かけた蜘蛛は、親でも殺せ」



……親でも殺せ…?!!!
なんというか、すごく物騒です……

地域によっては朝と夜とで逆の意味になっていたり、別の言い回しで伝わっているパターンもあるようですが、このフレーズを耳にしたことがある方は結構いらっしゃるのではないでしょうか。

私は、
これを親から聞いたのか、それとも
他の誰かから聞いたのか……

とうに忘れてしまいましたが、
よくよく考えてみると、
なんかこれ……

凄いですよね……!(語彙力)

「仇(かたき)でも殺すな」

は、まだ百歩譲って分かるのですが、

「親でも殺せ」……

この切羽詰まった感…!!

まるで今すぐ蜘蛛を殺さないと、
自分がやられてしまうかのような……

そんな緊迫感のあるフレーズです。

夜蜘蛛は見つけた瞬間に殺さなければならないほど、悪いことをしたのでしょうか……。

そして、実際はどうなのか調べてみました。

<夜蜘蛛の悪い言い伝え>

「泥棒が来る前兆」

「地獄の使いという言い伝え」

「夜の蜘蛛は不気味」

「夜に蜘蛛を見ると気持ち悪い、
 不幸になる感じがする」

「夜蜘蛛(よくも)きたな!!
 よし!〇す!!」

などなど、

確かに、夜蜘蛛が嫌われる理由は、あるにはあったのですが、

「親でも殺せ!!」

とまで言われてしまう根拠としては、
なんというか、

かなり説得力に欠けるような気がしました。

ひょっとして蜘蛛って…
何か、
過大に怖がられているというか……

とにかく、そんな印象を受けました。

そして、一変して朝蜘蛛です!


朝、蜘蛛を見かけたら

「仇(かたき)でも殺すな!!」

かたき………

現代の感覚からすれば、敵討ちは法律違反ですし、比較すると夜の一節より全然インパクトはない感じです。

ですが、それを差し引いても、打って変わっての好待遇。

180° 真逆の扱い。

こちらも調べてみると、

<朝蜘蛛の良い言い伝え>

「良縁」

「待ち人がやってくる」

「金運がアップする」

「天気を教えてくれる」

「悩み事が解決する」

「朝の殺生は良くない!
 お兄ちゃんどいて!そいつ〇せない!!」


さっきと全然違う…!!

一体何なのでしょうか、
この手のひらの返しようは。

同じ生き物なのに、朝と夜とでこんなに評価が変わってしまう生き物は、蜘蛛以外にいるのでしょうか?

いえ……少なくとも私は知りません。

しかし、蜘蛛からすればこの扱いは
たまったもんじゃありませんね…。

夜は絶対殺せ!
朝は絶対殺すな!

……って、

なんという不条理……!!

傍若無人な為政者に振り回される、弱き民のように、蜘蛛は人間に逆らうことはできず、されるがままです。

蜘蛛の多くは本来、益虫であるにもかかわらず、その見た目のグロさからか、無益に殺生されてしまうことが多く、

「気持ちがわるいから、殺した。」

というような記述も残っていたり、

「殺虫剤の対象生物に蜘蛛が入っていたり」

散々な扱い。

蜘蛛は本来臆病な生き物で、
人間が攻撃しようとすると
その気配を察知して、
小さな体をピョンピョンさせて
全力で逃げます

アシダカグモは、
家にいる「G」を食べつくすと勝手に家からいなくなり次の家へとお引越しします。

巣も張りません。気持ち悪い以外は無益です、というか益虫です。

ですがその見た目のグロテスクさからか、
人間に見つかると全力アタックの対象に。

蜘蛛からすれば人間は約160cm級の巨人です。


そんなのに襲われたら逃げるしかありません…。

蜘蛛は全力で逃げます。
生きようと必死に逃げるのです。

「ヤメテー!ヤメテー!!」

120cm級の巨人に捕まる虫

普段なら何とも思いませんが、
今回はそんな蜘蛛の必死な姿が思い起こされ、なんというか、

本当に申し訳ないというか、
可哀そうに思えたのです。

私の勝手な主観ですが、
人の役に立っているはずの蜘蛛が、
あまり大事にしてもらえてる印象がありません……。

なんだか、
とてもいたたまれない気持ちになり、
間違いなく日本の文化の一端を担ってきた蜘蛛を、
最大限の魅力を引き出して、

オリジナルの神様として描けたらいいなぁ……。

そんな風に思うようになっていました。


【蜘蛛のイメージ】


蜘蛛神様を描くに当たって、まずは蜘蛛と聞いてどんなイメージが思い浮かぶのか、簡単にまとめてみることにしました。

見た目が気持ち悪い、グロい

を持っている

怖い

蜘蛛の巣、嫌

・なんか小さな虫を食べてくれてそう

女郎蜘蛛

……たぶんこんな感じかなーと思います。

先ほどのアシダカグモの話にも繋がりますが、夜、薄暗い部屋の隅っこで、
脚の長い、すごく大きい蜘蛛を見つけたときは、パニックになります。

そしてセアカゴケグモなど、
昔は日本にいなかった毒性の強い蜘蛛もいたりして、正直怖い印象です。

女郎蜘蛛も毒は持っていますが、
人間にはほぼ効かないとか…。
(でも嚙まれるとイタイそうです。)

そして蜘蛛の巣

昨日の夜まではなかったのに、
朝起きて玄関を開けるとそこには、
とても大きい蜘蛛の巣が…!!!

めっちゃテンション下がります…

すごく大きい女郎蜘蛛も一緒にいたりなんかりすると正直、
恐怖でしかありません。

蜘蛛の巣もベタベタして嫌…!!

などなど、

おおよそ良いイメージはありませんでした…。

ただ、それは現代日本におけるイメージで、さらに言えば、私の一方的なイメージでもあるので、

蜘蛛を益虫と知っている方からすれば、蜘蛛はありがたい存在だと思いますし、農業害虫の駆除なんかにも活躍しているのだそうです。

蜘蛛……
結構人の役に立っているんですね…!!

そして次は、
日本ではなく海外に目を向けてみることにました。

主に伝説や、由来などについてです!

海外での蜘蛛に対するイメージはどんな感じかなーと調べてみると。

・人類を導いた知恵と言葉の神様

・自由や、繁栄、縁結び、努力、忍耐、希望の象徴

などなど。

海外の蜘蛛すごい…!(?)

そういえばスパイダーマンも蜘蛛のヒーローですよね。スパイダーマン、大好きです。

海外の人は結構蜘蛛のことが好き…??

ですがやはり、蜘蛛を邪悪な存在としている場合もあるようで、

そして、やっぱり日本と同じように、
蜘蛛は気持ち悪いと思っている方も多く、

「アラクノフォビア」

という恐怖症を持っていらっしゃる方もいて、(しかも数がめっちゃ多いのだとか…)

さすがにこればっかりは、
しょうがないのかなーと思いました。

では、今度は古代日本における、蜘蛛に対するイメージはどうだったのか、
同じようにざくざく調べてみた結果。

最初にも書きましたが、

「蜘蛛は恋のメッセンジャー!」

―です!

冒頭の書き出しでいきなりネタバレしてしまいましたので、今更感がすごいですが、

蜘蛛が活発に行動していたり、
巣を掛けていたり、着物に付いたりすると、
待ち人がやってくる前兆とされていたそうで、

まさに恋の予言者的な存在だったそうです。

蜘蛛の動き一つでそこまで想像できるとは…

昔の人、
感性、すごく豊(ゆたか)です…!

「蜘蛛は恋のメッセンジャー!!」

しかし今、この現代において、
蜘蛛の動きを見て、
恋の波動を感じ取れる人が
一体どれだけいることでしょうか。

いや、おそらくいないのでは……
そんな風に思いました。



【蜘蛛と恋】


さてここで、一首、古代のお姫様が詠んだ歌を紹介したいと思います。

衣通郎姫
(そとおりのいらつめ / そとおりひめ)

という御方で、紹介する歌は
日本書紀(720年)に伝わっているものになります。

私は学者ではありませんので、詳しいことはわかりませんが、
おそらく衣通郎姫(そとおりひめ)の詠んだこの歌が、

「蜘蛛と恋」

という結びつきを、広く世に知らしめることになった、日本における文化的な発端なのではないかと、
勝手に妄想を膨らませました。

我が夫子が 来べき夕なり ささがねの 蜘蛛の行ひ 是宵著しも

(わがせこが くるべきゆうなり ささがねの くものおこない こよいしるしも)

「今夜はきっとあの人が来てくれるに違いない…!」
「笹の根もとで蜘蛛が巣を張っているから、わかるの…!」

こんな感じの意味だそうで、蜘蛛を詠んだ日本最古のものに当たるそうです。

愛しい人を、ただ待つことしかできない女性のいじらしい姿が目に浮かびます。

「ささがねの蜘蛛」という表現は、
この後すぐに

「ささがに」(泥蟹・笹蟹・細蟹)
となったそうで、

「ささがに」は蜘蛛の枕詞(まくらことば)
になり、

「ささがに」自体でも蜘蛛を表す言葉になったのだそうです。


ささがに…ささがに………

ん……?

…………カニ…?

カニ = クモ …… ?????

確かに……
カニとクモは似ているような気がしますが……
うーむ……。

古代の人は8本足の蜘蛛とカニを、同じ仲間だと見ていた的な記述も見かけたことがあります。

同じ節足動物ではありますが……
果てしてどうなのでしょうか。


そして実は、
この神様における重要なキーワードの一つが

カニなんです…!

少しだけ頭の片隅に置いて、覚えといてくださると、あとで「おっ」となるかもしれません。



【蜘蛛=妖怪…?】


先ほどの恋のイメージとは打って変わって、蜘蛛は、妖怪や化け物、敵、悪者として関連付けられることが多いです。

そのイメージの大元になったものは何なのか…?

色々と探しましたが、
やはりというか、また行き当たりました!!

日本書紀(720年)

そして、記述されていた言葉

「土蜘蛛」

土蜘蛛は色んなゲームや作品にも出てくるので有名だと思います。

ご存知の方は多いかなーと思いますが、
一応、付け焼刃的な知識で、おそれ多くもですが、ざっくりと説明してみたいと思います。

土蜘蛛とは

太古の時代、古墳、飛鳥時代頃(250年頃?~710年頃)でしょうか、
時の政治権力であったヤマト王権に従わず、抵抗し続けた土着の豪族たちのことで、

尾っぽが生えていたり、手が長かったり、脛(すね)が長かったりと…!
でもめちゃくちゃ強い……!!

などと記述されていて、

おそれられていたそうです。

そんな人間離れした特徴のある人たちが、
本当に実在したのかは分かりません。

そして、「土蜘蛛」という呼び方についても、生き物の「蜘蛛」とはまた別物であって、

王権に従わない者への蔑称の意味もあったそうですが、
日本書紀より8年ほど先にまとめられた
古事記(712年)には、

「土蜘蛛」ではなく

「土雲」

という言葉で記されていたそうです。

「…………雲…?」

「土蜘蛛」「土雲」……

どちらも同じ意味で使われていたようなのですが、「雲」という言葉については、
神代七代(かみのよななよ)の
「豊雲野神」(とよくもののかみ)など、
神様のお名前にも使われるようなものであって、

「雲」は言葉通りの意味だけではなく、
炊事などの生活の営みで出るや、
死者の魂を表していたり、
古代中国では龍は雲の中から生まれ、
天界に属するものだったらしく、

このことから妄想すると、
「土雲」という言葉は蔑称ではなく、
そんなに悪い意味は無かったのかなーと、
個人的には考えています。



【そして、時は数百年とざっくりと進み鎌倉時代に(1185年~1333年)】



その頃に成立したとされる軍記物語があります。

「平家物語 剣の巻」

この物語に登場した土蜘蛛は、人間ではなく

「蜘蛛の妖怪」

へと姿と変えていました。


ここでの土蜘蛛は、

「ヒーローによって退治される妖怪」

としての価値を与えられ、

おそらくはこの「剣の巻」を発端として、
蜘蛛=妖怪のイメージが、絵画や、能楽などで幅広く、後世にまで文化的な広がりを見せて行ったのだと推測しています。

そして余談ですが、

2022年1月、
今まさに「平家物語」というアニメが始まっているのだとか…!!
しかも山田尚子さん監督…!
まったく知りませんでした。

気になる方は是非見てみると良いかもしれません。私は絶対見ます。


そしてさらに余談ですが、
最初にもちょろっと書きましたが、
衣通郎姫(そとおりひめ)の「恋の歌」(我が夫子~)が、

「能楽 土蜘蛛」

妖怪が登場する際のセリフとして出てきます。

衣通郎姫(そとおりひめ)も、
まさか自分の詠んだ恋の歌が妖怪退治の一説に登場するだなんて、夢にも思わなかったんじゃないかなーと思いました。


そしてここで、

さらなるキーワード

「蜘蛛」と「雲」

同じ読みの言葉!
くも と くも!!

ただの言葉遊びではありません。

やっぱり後々繋がりが見つかったりして、

なんだかオラ、ワクワクしてきたぞ!!!


【まぼろしの寺】


いざ蜘蛛神様を描こう!と決めたと同時に、
富士山周辺で、何か蜘蛛にまつわる伝承がないかなーと、調べていたところ、

ありました…!!!

それは伊豆半島のちょうど、ど真ん中、
伊豆湯ヶ島にある日本の滝百選の一つにも数えられる名瀑(めいばく)…!!

「浄蓮の滝」

2021年12月撮影

演歌歌手、石川さゆりさんのヒット曲
「天城越え」にも登場したそうで、
ここになんとありました!!

「女郎蜘蛛の伝説」!!!

そんな女郎蜘蛛伝説の内容について、
少しまとめてみました。
(長いので、ざっくりと読み飛ばしてくださっても構いません。)


むかしむかし、浄蓮の滝の近くの里に
ひとりのおじいさんがすんでいました。

おじいさんは滝のてっぺんの畑で鍬を持ち、
せっせと耕作の仕事をしていました。

山はとても静かで、人の声一つ聞こえない程。

やがて年老いたおじいさんは、畑仕事に疲れ、鍬を置き、腰を下ろして青い空をながめながら休んでいました。

するとおじいさんは、投げ出した泥だらけの自分の足に、小さな虫が這いまわっていることに気づきました。

見るとそれは美しい大きな女郎蜘蛛で、蜘蛛はおじいさんの足に太い糸を巻き付けて、そのままどこかへと行ってしまいました。

おじいさんは蜘蛛が、自分の足を木の枝か何かとまちがえているな、と思い、くすりと笑いました。

そして、そのままおじいさんはまどろんでしまいましたが、気が付くとさっきの女郎蜘蛛がまだ、一生懸命おじいさんの足に

糸をひっかけては去り、
また来ては、糸をひっかけては去り、

そして幾重にも掛けられたくもの糸は、
とても太くなっていました。

おじいさんは立ち上がり、
蜘蛛が頑張ってかけた糸を切って捨ててしまうのはかわいそうな気がしたので、

そっと足から糸を外し、
そばの木の株へ巻き付けてあげました。

そしておじいさんが、鍬をにぎってまた畑仕事をしようとしたその時です。

地面がかすかに揺れたかと思うと、
滝の音がいつもとは変わり、おそろしい音を立てて響き渡りました。

おじいさんがビックリして叫んだ瞬間です。

さきほどの木の株が、メキメキと音を立てて引き抜かれ、とてつもない力で滝の方へと引きずり込まれていきました。

木の株はそのまま、おそろしく渦巻いた気味が悪い滝壺の中に飲み込まれ、おじいさんはその恐ろしさのあまり鍬をすてて畑から飛び出していってしまいました。


それから、何年か過ぎ去ったある日。
よその国からやってきた1人の樵が、おじいさんと同じように滝のてっぺんで大きな木を切っていると、

手を滑らし、大事な鉈を深い滝壺に落としてしましました。

その鉈はとても大事なものだったので、泳ぎに自信のある樵は川のふちに飛び込み、鉈を取りに行くため泳ぎ出しました。

するとどこからか、やさしい女の人の声が……。

それは若く美しい女性で、
大きな岩のかげから樵の方をのぞきこみ、
片手には樵が落とした鉈が握られていました。

そして、美しい女性は樵にこう続けました。

「あなたの鉈は返してあげましょう。」

「ですが、ここで私の姿を見たことは絶対にだれにも話さないでください。」

「約束してほしい。」

「もしも誓いをやぶった時は、その時はあなたの命をもらいます。」

樵は何が起こったのか分からず、大きくうなずいて鉈を返してもらいました。

そして、そのあとは必死に泳ぎ、岸についた樵は夢でも見ているのかとしばらくぼんやりしたあと、山を下りていきました。

樵は思いました。
まさかあの美しい女が里で聞いた滝のヌシ…!
女郎蜘蛛の化身だったのでは…!?
樵は恐ろしくなり震え上がりましたが、女との約束は守り、今日見たことは誰にも話さないようにしました。

しかし言うなと言われたことは、いずれ話してみたくなるのが人の常。

いてもたってもいられなくなった樵は人が恋しくなり、気が付くと里の居酒屋を訪れていました。

居酒屋では数人の男と主人が話をしており、しばらくすると滝のヌシのおそろしさについての語り合いが始まりました。

樵は最初、酒を飲んで黙って聞いていましたが、酔いが回るのと同時に口もかるくなってしまい、

とうとう我慢できずに言ってはならぬと約束した誓いを破り、滝のヌシについて話してしまったのです。

そしてしばらくわめき散らしたあと、
樵は酔いが回りすぎたのか、そのまま炉端のすぐそばで横になりいびきを立てて眠ってしまいました。

そして、樵は深い眠りにつきました。

二度と覚めることのない、永遠の眠りについてしまったのです。



―このお話では、
蜘蛛は妖怪ではなく、浄蓮の滝のヌシとして伝わっているようでした。

お話の中での印象は、
女郎蜘蛛のヌシを「おそろしいもの」として書かれており、一見、恋の要素は何一つ感じられないような内容に見受けられましたが、

衣通郎姫(そとおりひめ)の
「ささがにの蜘蛛」
「待つ女の恋歌」
を見てからは印象が変わり、


待ちに待って、来てくれた人を、
自分(滝壺)
の元へ引き込む。
そして、

自分(滝壺)
の元に飛び込んで来てくれた人に、
やさしく接する
(鉈を返す、ワンチャンあげる)

そして同時に、二人だけの約束をする
(誓約)

私を裏切ったら(私の事を捨てたら)
どうなるか分かってるよね? 

すごくいじらしい女郎蜘蛛様…!!

女郎蜘蛛は樵が木を切らないよう森を見守るヌシである、という話も見かけられましたが、

私的には、
浄蓮の滝のヌシ、女郎蜘蛛様は、

「また樵に会いに来てもらいたかったのかな?」

と感じとれました。


そして余談ですが、浄蓮の滝という名前は、浄蓮寺というお寺の名前から取ってつけられた名称なのだそうですが、

その浄蓮寺については、とうの昔に消滅してしまったようで、

「浄蓮寺というお寺があった」

とだけ伝わっていて、
肝心の遺跡はどこにあるのか
全くわかっておらず
まさに、

「まぼろしのお寺」

なのだそうです。

【蜘蛛と蟹】


浄蓮の滝の話がまだ続きます。

ロケハンしに行った際に見ることができた浄蓮の滝は、落ち口から滝壺までズドンと一直線に流れ落ちる見事なものでした。

2021年12月撮影

浄蓮の滝といえば、この見事な直瀑(ちょくばく)であることは有名だと思うのですが、色々と調べて行くと、実は浄蓮の滝の上には、まだ二つの大滝があって

ロケハンで見た浄蓮の滝(下の滝)と合わせて、その昔は「三階滝」と呼ばれていたそうです。

この川の上には三階滝とよばれる三層の大滝がある。
高さは上が五丈、中が七丈、下は二十丈あるといわれている。

天城の史話と伝説 天城湯ヶ島町文化財保護審議委員会編 未来社 まぼろしの寺より抜粋


浄蓮の滝の落差は25m 1丈が約3M(?)だそうなので、

二十丈は約60M……

ちょっと盛り過ぎでは……!!?

しかし、それぐらい大きく見えるほど、当時の人からしたらインパクトがあった滝だったのかもしれませんね。

そして「三階滝」!!

「上の滝」はまだ存在していますが、
「中の滝」は100年以上前の暴風雨で崩壊してしまい、今はただの急流になっているとかで……残念です……。

そしてさらに調べ進めていくと、
なんとこの「三階滝」の「上の滝」にも

「伝説」があることを発見しました…!!

そしてその伝説とは

「カニ」

にまつわるものでした!!!

カニ………!!!

そういえばさっき出てきましたよねカニ。

そうです

「ささがに」です!!

衣通郎姫(そとおりひめ)が歌った恋の歌

「ささがにの蜘蛛」です。

調べて行くと、伊豆にはカニに関係する伝説が結構あり、有名な河津七滝にも蟹の形をした岩(柱状節理)があり、「かに滝」と呼ばれています。


【はじまりは蟹、そして蜘蛛と雲】


伊豆にまつわるカニ伝説についてざっくりとまとめてみました。(もしかしたら他にもあるかもしれません。)

蟹淵
岩で洗濯しようとしたら動き出す、岩は巨蟹だった

兵太の瀧の巨蟹
齢何千年の甲羅を背負う超デカくて高速で動く巨蟹

稲取のはさみ石
蟹のハサミの形をした岩

太田の大蟹
悪さをする巨蟹、討伐される

青葉の滝の大蟹
釣り人が立っていた岩が動き出し、実は巨蟹だった

浄蓮の滝の「上の滝」にいた大蟹

「天に向かって妖気を発し、雨雲に干渉し、雨を降らせ続けた」

これを見て察しがいい方はお気づきになったかもしれません、

巨蟹(物理系)がずらっと並ぶ中、浄蓮の滝の蟹だけは、なんか特殊能力っぽいのを持っています……

「大蟹(特殊)」

滝の上の落ち口に、一匹の大きな蟹がいるではないか。

甲羅が一メートル以上もあろうか。それはまっ黒い苔でおおわれていた。

大蟹は足をふんばり、はさみを振り上げ、天に向かってときどき泡を吹いた。

そのたびに泡の中から煙のような妖気が立ちのぼり、低くたれさがった雨雲と結びついた。

天城の史話と伝説 天城湯ヶ島町文化財保護審議委員会編 未来社 まぼろしの寺より抜粋


雨雲に干渉する蟹……!!

が結びつきました。

そしてそのカニ伝説のすぐ下には
先ほど取り上げた女郎蜘蛛の伝説が……!!!

「すごい近い…!なにこれ…私気になります…!!」

そして、本来蜘蛛という生き物は、
天気を教えてくれる生き物でもあって、

蜘蛛の巣の張る位置でその日の気象状況が分かったり、

蜘蛛の巣に朝露がかかると晴れ、

蜘蛛が夕方に巣を作れば、翌日は晴れ、

など、

蜘蛛はそもそも、「雨」や「雲」に関わる要素を持っていた生き物だそうです。


これで
「蟹」
「蜘蛛」「雲」が結びつきました。



ほぼ同じ場所に、異なった二つの伝説が存在し、そして、カニ伝説が多く散りばめられた中にぽつりと一匹、女郎蜘蛛伝説。

「??なんで蜘蛛??」

これはもう何か関連性があるのではないかと、ワクワクしました。

ちなみに、雨雲を呼ぶ「上の滝」の
大蟹(特殊)を封じ込めたのは、
1人の旅の僧とのことで、
蟹を封じ込めた後、霧が晴れ、

明るい日ざしが差し込んだとあります。

そして、蟹を封じ込めた僧の為に建てられたお寺があり、その名前こそ、

「浄蓮寺」


さきほど取り上げた

「まぼろしの寺」です。

そして「浄蓮の滝」の由来は、「浄蓮寺」から来ています。

つまり、浄蓮の滝の「女郎蜘蛛の伝説」

「蟹」から始まった

と言ってもいいのではないでしょうか。


【ささがにの蜘蛛】



ここで「ささがに」という言葉に戻ります。

「ささがに」という言葉は和歌で言うところの、枕詞(まくらことば)で、枕詞とは特定の語句を修飾し、和歌などの調子を整える言葉なのですが、

「ささがに」に続く言葉は「蜘蛛」となり、
何度目?……と思うかもしれませんが、

「ささがにの蜘蛛」

で一つのまとまりとなります。

「蜘蛛」の頭にくる言葉が「ささがに」

蜘蛛の頭にカニ……

ここで浄蓮の滝の「女郎蜘蛛伝説」
上の滝の「大蟹(特殊)伝説」の関係を
おさらいしてみたいと思います。

まずは、

「三階滝」という、
一つの、狭いくくりの中で
二つの伝説が存在してること。

一つは「蟹」

そして

もう一つは「蜘蛛」

<位置関係>

蟹伝説 が 上(頭)

女郎蜘蛛伝説 が 

<時系列>

蟹伝説が一番最初(?)

次いで「浄蓮寺」

そして「浄蓮の滝」

女郎蜘蛛の伝説が伝わった時期は不明でした。

ですが、
「天城の史話と伝説」には、

1982年発行 40年ほど前の本になります

「浄蓮の滝の主はうつくしい女郎蜘蛛だ。」

という記述がなされており、浄蓮の滝という名称が付いた頃には、もうすでに伝説があったと思われます。

女郎蜘蛛伝説の発生時期が不明なのが、とてつもなく歯がゆいのですが、やっぱり大蟹(特殊)も気になります。

大蟹(特殊)の

「雲と結びつく」というフレーズが

私にはどうしても

「蜘蛛と結びつく」

としか読み取れませんでした。

なので、私的な妄想でめちゃくちゃ恐縮なのですが、

浄蓮の滝の女郎蜘蛛伝説とはつまり…………


「ささがにの蜘蛛」のこと…


なのではないでしょうか。

―というか、


もう、そうとしか思えなくなってしまいました……!!

浄蓮の滝の女郎蜘蛛伝説を、
上の滝の蟹伝説がめちゃくちゃアピールしているような気がして……

まさに「枕詞」

そして蟹伝説があってこその浄蓮の滝、
個人的にはそののちの女郎蜘蛛伝説…!!だったらいいなーって……

しかしこれは完全に私の妄想です。

考えすぎて頭がどうにかなってしまった人、
と思われても仕方がありませんが、

ワクワクして、
なんか凄いものを見つけてしまった……!!と、しばらく興奮してしまいました。


【なぜ、伊豆に蜘蛛が…?】


大昔の伊豆は流刑者の地―。

このような話を聞いたことがあるかもしれません。

調べたところ、やはり事実として伊豆は、奈良朝時代(710年~794年)に下国(小国)として扱われ、

罪を得た人が流される「遠流の地」として定められていたそうです。

これは平安時代頃まで続いたとされ、源頼朝など著名な方々が多く伊豆に流され、そしてその命を伊豆の地で終えざるをえなかった人々も多くいたそうです。

現代の伊豆地方の一部では、
およそ1400年もの前の、流刑され亡くなった方々の御霊を鎮めるために、今でもお祀りをされている所もあるそうで、

伊豆の地域性として、そういった方々をお迎えし、見守り続けけてきたという連綿とした歴史から考えると、

伊豆は、
優しい人間性を育む地域だったのかもしれないなーと、思うに至りました。

2021年12月撮影

その証拠、
ではありませんが、
こんなエピソードも見つけました。

とある女神様のお話です。

日本神話に登場される女神さまで、とても酷い、不幸な役回りを与えられてしまった神様がいらっしゃいます。

そしてその女神さまは、結果として仲の良かった妹と離れ離れになることを強いられ、悲しい思いをしなくてはならなくなりました。

そしてその女神さまに同情した伊豆地方の方々は、

この女神様「のみ」をお祀りした神社を2社、建立されています。


この女神さまと、他の神様を同時に祀られている神社はたくさんあるそうなのですが、

この女神さま「だけ」をお祀りしている神社は、
日本にはおそらく三社ほどしかないそうで、

その二つがなんと、
伊豆地方にあります。

そしてその神社の一つには、
名前に

「雲」

という言葉が付いています。


きっと、

雲(蜘蛛)を見るのが好きな神様だったのかもしれません。

とある神社の頂上から撮影

https://twitter.com/kawabatarou/status/1476578375183769600?t=sXVD0WIwb8fxH4zaJT5fiw&s=19

(残り一社の神社のお名前にも、「伊豆」という言葉が付いているそうです。)

この女神さまについては、別のnoteで触れたいと思います。
気になる方はぜひ調べてみると楽しいかもしれません。

某有名アニメでもエピソードが触れられているので、既にお気づきの方はいらっしゃるかもしれません。


そして、蜘蛛について立ち返って考えてみましょう。


蜘蛛における現代の一般的イメージは、
はっきり言って、

「良くない」

といってもいいでしょう。

「アラクノフォビア」

という恐怖症を持ってらっしゃる方も多くいます。

そして蜘蛛が巣を作っているのを見かけたとして、そこから恋人に思いを馳せる人は、まずいないでしょう。

正直、
一部の人以外には嫌われ者……
それが現代における蜘蛛のイメージだと思います。


「妖怪として英雄に倒される悪役」

という罪を得た蜘蛛が、

行く場所を失い、

愛する人が会いに来てくれることもなくなり、

流れに流されて、

伊豆という流刑地にたどり着いたと考えるのは、特に不思議なことでもなく、

伊豆地方の地域性が、
もしかしたら蜘蛛に同情し、
蜘蛛を伝説として受け入れたのかもしれません。

確かなことは分からず、
これらすべては完全に私の妄想になりますが、

古代では恋のメッセンジャーとして親しまれた

「ささがにの蜘蛛」

既に忘れ去られ、
行くあてを無くし、

疎まれ、畏れられ、

いつしか女郎蜘蛛という伝説に姿を変え、

今は、

伊豆地方、浄蓮の滝で、

ひっそりと暮らしている……。

―そんな気がしてなりませんでした。

そして、

「荒雲ノ魅恋」
そういった神様だと思って見てくださると、
とてもうれしいです。


【名前の由来について】


荒雲(あらくも)という名前は
様々なイメージから付けた名前になります。

まずは、ギリシャ神話から―

<アラクネ>

女神アテーナーと織物勝負をして、
試合に勝って、勝負に負けた(?)人間の女性です。

アラクネは自殺した後、アテーナーによって蜘蛛に姿を変えられてしまいました。

荒雲は、
アラクネという言葉の響きに似せて名前を付けています。
(あらくも と あらくね … 
似てる…!?? ………似てます!!!)

そして今回は、
「蜘蛛」と「雲」などといったように
同音異義語がキーワードだったので、特に意識しました。

そして、「荒れる雲」のように激しく、
コロコロと天気が変わる様を、
性格や価値の変遷に当てはめてイメージしています。

そして、「雲」は、上でたくさん説明させていただいた通り、
「蜘蛛」と「雲」を表し、
天気に関わる力を持っている神様としています。

名前の「魅恋(みれん)」はこれもまた同音異義語で
「未練」という言葉と掛け合わせています。

彼女にどんな未練があったのかは、またどこかで表現できたらいいなと思っています。

そして「魅」「魑魅魍魎」(ちみもうりょう)「魅」であり、「魅力」「魅」でもあります。

そして、「恋」はもう、ズバリ
字そのものの「恋」ですね。

衣通郎姫(そとおりひめ)が歌われた「恋と蜘蛛」のイメージからいただきました。

彼女は「恋」に関わる神様だと、直球で表現したかったのです。

【見た目をギャルっぽくした理由】

単純にギャルっぽいのが描きたかった…!(重要)

というのが大きいですが、他にも理由があります。

今回のデザインは蜘蛛がモチーフになりますが、蜘蛛の種類は「女郎蜘蛛」になります。

女郎蜘蛛の名前の由来は、遊女の「女郎」から、とするのが一般的のようですが、他にも「上臈」(じょうろう)から、とされる場合もあるとのこと。

上臈(じょうろう)とは、同じく遊女の意として使われることもあったそうなのですが、その昔は、修行をたくさん積んだ高僧や、身分の高貴な人大奥の職名、そして若い女性を敬って呼ぶ際に使われたそうです。

女郎蜘蛛のイメージ上やはり、見た目が艶やかで、若い女性という要素は外せないなと思いました。

そして彼女(荒雲ノ魅恋)の生い立ちについて。

彼女は元々神様ではなく、「蜘蛛の化生」として生まれました。

彼女は、自分の見た目にコンプレックスを持っており、いつか、「かわいらしい人間の女の子になりたい…!」と、夢を持って生きていました。

そして彼女自身は、気性が荒い一面はありましたが、心根はとても優しく、同時にかわいらしい気質を持ち合わせていました。

人間にあこがれをいだいていたので、積極的に人間と交流しようと試みた彼女ですが、残念なことに、恐ろしい蜘蛛の姿をした彼女の姿を、多くの人々は受け入れることはせず、時には彼女を迫害し、誰も彼女の内面を見てくれようとはしませんでした。

彼女はどこへ行っても止むことのない敵意にさらされ続け、
そして次第に、自分の姿と人間を憎むようになっていきました。

だが、あることをきっかけに彼女の生き方は一変します。

とある人間の男に「恋」をしてしまったのです。

その「恋」は彼女を根本から変え、
「恋」の力によって彼女は自らの考えを改め、
己を捨て去り、
最後まで愛する人の為に自分を犠牲にし、
種族の性(さが)を乗り越え貫き通しました。

そのことで彼女は神格化し、やがて神様となります。

そして神様になった時、
彼女は自身がかつて求めていた姿を手に入れることができ、
その姿が立ち絵の「荒雲ノ魅恋」になります。

「一途に信じた道を貫き通す」
、という姿勢は「ギャル」の持っている性質であると私は感じていましたので、今回モチーフとして使わせていただきました。

ギャル、いいですよね。
かわいくて大好きです。


最後にまとめますと「荒雲ノ魅恋」は、

強気で、ちょっと無礼なところもありますが、心根は優しく、見た目は派手ですが、めちゃくちゃ押しに弱く、
そしてとんでもなく打たれ弱い

そんな神様になります。

【おわりに】

ここまで、
長くて、本当に長い、
このような長文を読んでくださり、

そしてお時間を頂き、
本当にありがとうございました。

たぶん、読んでて意味がよくわからなかったところもあると思います。

私もなんだかちゃんとまとめ切れないまま書いてるところがあったと思うので、
とにかく、

なんというか、

ものすごい難産でした…。

ただ、そんな中でも楽しんでいただける部分があったのならば、とてもうれしいです。

そして、蜘蛛については、
実際に命に関わるような毒を持っている種もいますので、危険生物として正しく認識し、もし触れ合うような機会があるのならば、正しい知識を持って接する必要があるかと思います。

さいごになりましたが、
もし天地神名シリーズに興味を持っていただけたら、今後も見に来てくださるとうれしいです。

それでは。

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