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京葉線快速縮小問題を考える⑳各停成東行に乗ってみた/理想的な輸送形態を考える

気が付けば第20回になってしまった今回、ダイヤ検証ではなく「そもそも論」的な話をしてみたい。いつにも増して長文だがお付き合い頂ければ。

自治体アンケートの途中経過

途中経過にも関わらず12,000件超もの回答があり、意見の偏りや集計誤差を加味してもエビデンスとしては十分な意見が寄せられていると推測できる。
興味深い点としては『およそ3割の人が「京葉線から別路線に変更するなど利用を停止」』としている点で、計算すると約3,600人が利用停止としていることになる。E233系10両編成の定員2本分以上だが、JRの「全体のボリュームは変わっていない」とする見解と矛盾しているように思われるが、回答者の利用形態は不明でもあり(通勤利用者とは限らない)、あるいはこの程度はJR的には「変わっていない」誤差レベルと考えているのか、双方の分析が待たれるところ。

京葉線の望ましい輸送体系とは

さて本題。京葉線はその名が示す通り東京と千葉(にある蘇我)を結ぶ路線で、一義的にはその通りだが、沿線に舞浜・海浜幕張といった波動施設があり、内房・外房線から直通する特急・普通(快速)列車、近年利用増が目覚ましい(らしい)武蔵野線が乗り入れる多様な路線となった。

そのような近年の変化から東京と蘇我のバイパスルートとしての側面から、輸送力が不足する武蔵野線(西船橋~市川塩浜)の増強、舞浜輸送を含む新木場〜新浦安など短距離需要が重視され、対蘇我方面の速達輸送を削り、東京方と武蔵野線方にシフトする方針を採ったものと理解している。

その結果が2024年ダイヤ改正であり、JR側の説明不足から猛反発を招いた点も周知のところとなっている。JR側も軟化姿勢をみせ、速達性に配慮するとコメントしているが、2024年ダイヤ改正で解決を見せた課題を巻き戻すわけにもいかない。これまではどうしても各論中心の分析となっており、本来もっと早い段階でのこの検討すべきだったのかもしれないが、改めて京葉線の望ましい輸送形態を「総論」として整理してみてみたい。

京葉線における輸送上の課題はなにか

これまで検討遡上に挙げてきたが、改めて整理する。

・武蔵野線(西船橋~市川塩浜)の輸送力不足
・通勤快速の(相対的な)低利用率
・快速系統の混雑(旅客集中)
・舞浜・海浜幕張への波動需要
・(全列車各停化後の)速達性への配慮

「選択と集中」なる言葉が言われて久しいが、リソースが無限の時代ではなく全てを満足させることはできず、他方で全てを切り捨てる時代でもない、難しいバランスが求められている。

2024年各停ダイヤに乗ってみた

ダイヤ改正後なかなか機会がなかったが、夕ラッシュ時間帯に新木場駅・東京駅に30分程度の状況確認と、1883Y(成東・上総一ノ宮行き各停)を東京から大網まで乗り通してみた。

【新木場駅:17:40~18:10頃】
・京葉線各駅停車が3~8分間隔で到着、先発先着なので乗車率は前列車との間隔で決まる。ただし、海浜幕張行は見送る旅客も多く相対的に空いている
・武蔵野線は15分程度開く時間帯で相変わらずホーム滞留が多く、列車も混雑する。17時台はもう1本増発したい印象

【東京駅:18:00~18:30頃】
・京葉線は先発先着となったので、直近の列車を選択する旅客が多い
・着席狙い客も多いが、後発の快速待ち等がなくなり先発先着なので整然としている
・18時台は京葉線各停も武蔵野線各停も3本でほぼ等間隔。京葉線各停の混雑平準化自体はなされたとして、そもそも輸送力として足りているか?

【各停1883Y:東京→新浦安】
・分割可能な専用編成充当のためか東京入線が1810着と非常に早い(他の列車は2~3分前の入線)。狙い乗車もちらほら居たが席が埋まり始めるのは先発(東京発1820)発車後。
・先発の京葉線から12分開くこともありかなりの混雑。改正前の快速(1803A)と大差ないと思われ、各停化そのものに混雑緩和は見いだせない。
・八丁堀、新木場で多くの乗車があり、最初に降車が目立つのは新浦安。

【各停1883Y:新浦安→蘇我】
・南船橋で若干の乗降があるほか、海浜幕張でも比較的乗降あり。
・検見川浜、稲毛海岸では降車が目立ち少し空く。一方で高校生らの乗車もあり。
・蘇我で大量降車、半数弱は対面の内房線に乗り換え。千葉方面から乗換客と同等の旅客が乗車。

【各停:4883Y→5983Y:蘇我→大網】
・鎌取、誉田と基本的には降車一方。
・誉田で分割、前4両が土気・大網先着なこともあり後6両からの乗り換えも多い。前4両は立客多数、後6両は席が埋まり立ち客さらりといったところ
・土気、大網でも降車多数
・大網から東金線方面は席が埋まり立ち客さらりの様子。ただし、彼らが全員東京方面からの直通乗車とは思えず流動までは把握できず
・大網では直後にわかしお15号が到着、この段階で窓側席も半数が埋まる程度の乗車率で土気までにかなり降りることが見て取れた。
・次いで誉田で特急待避した後6両の各停上総一ノ宮行きが到着、誉田視認時と混雑度は大差なく、このまま茂原方面へ向かう模様。

【通し乗車の感想】
・新浦安付近までの近距離輸送、海浜幕張~蘇我の中距離輸送、蘇我以遠の遠距離輸送と、蘇我接続での千葉方面からの県内輸送と、さらには東金線・外房線の双方向輸送をこなす多目的列車といった印象。
・ただし、機能を持たせすぎで終始混雑しており、乗降が少ない京葉線内の駅(≒快速通過駅)を延々と停まっていくのはまあまあ辛い。
・誉田駅での分割運転は、通勤快速の速達性を広範囲に波及させるために行われていたもので、通勤快速自体がその役割を終えたならば、各駅停車化後も存続させる理由は乏しいように思えた(別仕立て列車とした方が誉田での長時間停車解消、千葉~誉田間増発につながる)。

夜下りラッシュ時のダイヤ推移を見る

18時台の下りダイヤがずいぶんすっきりした印象だったので、近年変化が著しい2022年以降の東京駅18時台ダイヤ本数を比較してみた。

【2022年ダイヤ】
特急 2本
通勤快速 1本
快速   4本
各駅停車 4本
武蔵野線 4本(うち西船橋行1本)
(合計15本)

【2023年ダイヤ】
特急 2本
通勤快速 1本
快速   3本
各駅停車 4本
武蔵野線 5本(うち西船橋行2本)
(合計15本)

【2024年ダイヤ】
特急   2本
各駅停車 7本
武蔵野線 5本(うち西船橋行2本)
(合計14本)

2023年に快速1本を武蔵野線西船橋行に置換え、2024年に残る通勤快速・快速全てを各駅停車化している。なお、18時台で1減となった分は旧通勤快速所要時間延のため17時台に繰り上がったためで、17時台は増となっている。

2024年各停ダイヤで課題は解決したのか

快速系統の各停化、運転間隔の等間隔化で確かに混雑平準化は達せられたように見えるが、特に18時台前半で京葉線(海浜幕張方面)が減らされている点が気になっている。

2022年 通勤快速1・快速2・各駅停車2(計5)
2023年 通勤快速1・快速1・各駅停車2(計4)
2024年 各駅停車3

…と毎年1本ずつ減っている。2年前と比較すると夜ラッシュ時に驚きの輸送力40%減である。従来の混んでいた快速に比べれば混雑率は低いのかもしれないが、混雑する京葉快速と武蔵野線、比較的空いていた通勤快速と各駅停車を選択できていた旧ダイヤから、全ての各駅停車が混雑する現在の状況を指して、報道のように「混むようになった」と指摘する声は言い逃れできない。仮に17時台後半の君津行きか上総一ノ宮行きを快速として復元できれば、18時台は4本に戻せるのでこの観点からも快速復元が求められる。

また、遠近分離を図り混雑緩和を図る方向性もあろうが、京葉線のように需要が入り乱れる路線ではそれも難しい点も理解できる。さりとて、足の長い君津行きや上総一ノ宮行きが延々と各駅に停車するのはやはり不合理で、途中駅での追い越しはせず、利用の少ない駅を通過しての速達化する方向性がマッチしているように思える。

朝上りラッシュ時のダイヤ推移を見る

朝上り方向については筆者の環境上、現地確認は難しいところ、輸送動向を把握するうえで、近年の変化がわかる2021年頃からダイヤ変遷を手元の時刻表で確認してみた。

どの時間帯を採るかは難しいところではあるが、JRのプレスリリースなどで取り上げられる新木場駅7:30~8:30をベースに、新木場着7:28頃の快速(君津始発)と新木場通過8:38頃の特急(君津始発さざなみ)の間の本数をカウントしている。

【2021年ダイヤ】
特急 0本
通勤快速 4本
各駅停車 11本(うち1本新習志野始発)
武蔵野線 9本
(合計24本)

【2022年ダイヤ】
特急 1本
通勤快速 2本
各駅停車 11本(うち1本新習志野始発)
武蔵野線 9本
(合計23本)

【2023年ダイヤ】
特急 1本
通勤快速 2本
各駅停車 10本
武蔵野線 10本(うち2本西船橋始発)
(合計23本・うち特急1本)

【2024年ダイヤ】
特急 2本
通勤快速 0本
各駅停車 11本
武蔵野線 10本(うち2本西船橋始発)
(合計23本・うち特急2本)

朝の通勤輸送ということもあり骨子は変わらないものの、利用率が振るわなかった通勤快速の削減と特急の新規設定、新習志野始発から西船橋始発への振替が見て取れる。

直近の2024年ダイヤ改正では新木場7時台の各駅停車が1本削減され、8時台に2本増(通勤快速の格下げ)で差し引き各駅停車1本増となっている。

現状ダイヤは輸送側にとって課題はないのか

何かと批判が多い2024年各停ダイヤだが、実際に乗ってみると整然と輸送ができており、JRの言う通り混雑平準化され混乱は少ないように見受けられる。

気になるところでは、依然として武蔵野線(西船橋~市川塩浜)の輸送力不足と、なんといっても速達性に劣る点であり、この2点が今後の改善ポイントと考えられる。

朝に増発余力はあるのか?

武蔵野線の増発、京葉線快速系統復元にあたりそもそも増発余力があるのか、避けられない観点となる。

通勤快速廃止と特急の設定は「特急誘導」の批判は免れないが、JR社長の「限られた車両の中で」の発言から推察するに、朝ラッシュ時に眠っている特急型車両(E257系)の有効活用と逆に朝ラッシュ時に最大所要数となる通勤車両(E233系・209系)の削減の両立が図られる点を踏まえると、輸送側視点では悪くない選択でこの方向性は簡単には譲れないものと解釈できる。

車両の問題は一旦置いておくとして、スジ上増発余力がありそうなのは朝ラッシュ直前(君津始発快速直後)の新木場7:28頃、直近ダイヤ改正で削減された新木場7:49頃の2本となる。削減された経緯からして、この時間帯に再度増発するメリットは乏しい気もするが、快速系統の再設定、あるいはピーク時の特急をここに 移したうえピークタイムに増発する余地は考えられる。ピーク時の輸送力最大化を念頭に置きつつ、速達性の改善を考えるならば下記一案が考えられる。

・ピークタイム特急2本の時間帯繰り上げ(新木場通過728頃、749頃)
・特急スジ1本目(新木場800頃)に西船橋始発増発(武蔵野線輸送力増強)
・特急スジ2本目(新木場815頃)に通勤快速設定
 →混雑の観点から困難なら京葉線各駅停車を設定
・京葉線続行となる各停スジ(新木場831頃)を通勤快速に振替え

「限られた車両の中で」のやりくりは難しいのは外野でも想像がつくが、2024年ダイヤ改正で削られた1運用の復元、比較的余裕がありそうな6時台・9時台のリソース活用や優等運転で浮いた所要時分を活用し実現を期待したい。

波動輸送に対応できているか

2023年ダイヤ改正での19時台以降の上り快速廃止の一因が舞浜輸送(TDR帰宅客)である点は本noteでも確認している。一方で、海浜幕張(幕張新都心)輸送については、地元側からも速達性の配慮が強く求められている状況があるが、速達性以外の問題はないだろうか。

海浜幕張断面で、在野からは平日上り20時台で20分開く問題が指摘されており、この時間帯そのものは利用が少ないとの反論もあるようだが、土休日の上り21時台においても16~17分も開く時間帯があり、週末夜のイベント終了に対して入場規制を行う事例がSNSなどで報告されている。

舞浜断面のように5分程度の運転間隔で入場規制するならまだしも、15分以上列車が来ない状況下での旅客混雑で入場規制はさすがに解せない。海浜幕張の花火大会や蘇我の音楽イベントのように柔軟に臨時設定できるならば良いが、それが出来ないならば、せめて10分間隔は確保しておくべきと考える。海浜幕張について言えば、上り待避ホーム(3番線)にやや長時間列車をとどめ置き、ホーム滞留客を載せておくなども考えられる(列車間隔が開くところで海浜幕張始発として発車させる)。

休日の日中などは快速4本、各駅停車4本の体制が組まれておりやや過剰な感がありつつも、速達性と輸送力を両立しており波動輸送に対処するためと理解している。夜間においても最低限の波動輸送への対処は必要と考える。

まとめ

実際の現地確認、時刻表から見る近年の動向推移などから、改めて現状の課題を整理してみた。朝上り・夕方下り武蔵野線の増強、内房・外房線直通列車を中心とした下り列車の速達化、特に声が大きい朝上り通勤快速の再設定、波動輸送への対処などに集約できる。

来春を待たず柔軟に行うとされるダイヤ改正では論点が速達化に絞られ、本数の増減は無い(=武蔵野線増強もない)かもしれないが、中長期的には避けて通れないものと考える。

今回は個人的に考える「理想」を検討してみたが、次回は要望する自治体視点、あるいは運行するJR視点を踏まえたダイヤ改正の「予想」をしてみたい。

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