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Darwin・D・Wu


皆さんはDの名を持つ人間に会ったことがあるだろうか。

僕はある。

ワンピースの世界でとかそう言うことではなく、実在するホモ・サピエンスとしてである。男性である。

それは2011年4月、僕が大学に入学して初めて大阪府箕面市にあるキャンパスに登校した日のこと。「レインボー」という名の学内食堂にて。ふと気がつくと僕は、アメフト部4回生の丸坊主の男性、同部マネージャーらしき女性、クソ知らん新入生3名、と同じテーブルで昼ごはんを食べていた。後になって分かることだが、各部・サークルの2回生以上一同は新入生が登校する日を学部ごとに完璧に抑えており、その初日から新歓活動を行う。アメフト部なんかはその筆頭、先手必勝でめぼしい新入生に片っ端から声をかけ、まず自分の部の存在を知らせ好印象を持ってもらうべく、新入生を食堂に連れ込み昼飯を奢りつつ、悩み相談に応えつつ、ついでっぽく部活動の宣伝を行う。記念すべき大学登校初日、その一環に僕も漏れなく巻き込まれ、全く入る気のないアメフト部の先輩に、クソ知らん新入生と共にしっかりと唐揚げ定食を奢られていた。その後学部の専攻語毎のオリエンテーションがあったため、「時間ですので」的な感じでさてと食い逃げしようとしたのと同タイミングで、隣のテーブルにて僕と同じ境遇にいたっぽい長身の新入生らしき人物が立ち上がり、「お主も大変よのう」顔で無言で微笑みかけて来た。なんかええ奴そうやな、誰やねん、と思いつつその男の後ろを歩きながらオリエンテーションが行われる部屋に向かった。すると男は僕が目指していたその部屋に入っていった。

彼と僕は通路を挟んで隣の席に座った。彼の机に置いてあった名札には「Darwin・D・Wu」と書かれていた。「ん?外国人?お?D?は?」疑問符と彼に対する好奇心が一気に湧いた。するとこちらから声をかけるまでもなく、彼から笑顔で話しかけて来た。めちゃめちゃ日本語。めちゃめちゃ日本人。顔も日本人。初めて会ったとは思えないくらい喋りやすい。なんじゃこいつ。とやかく思いながら会話を続けた。会話の中で分かったことをまとめると、彼は中国系のアメリカ人で、日本に来たのは小6の時。英語、中国語、広東語、関東弁、関西弁の5言語を操ることができ、身長は186㎝、誕生日は6月7日で、血液型はA型。高校時代はアメフト部に所属し、それがバレて僕と同じくアメフト部の先輩に身柄を拘束されていたが、時間が来て難なく食い逃げを果たしたとのこと。それにしても日本語がうま過ぎる。何も知らず彼と日本語で話した人の多くが彼を日本人だと思うだろう。その後彼のことを知れば知るほど、全然日本人じゃないと思うことになるのだが。(そりゃそうだ) 

そして気になるDについて。
ワンピースを読んだことが無い人のためにまず簡単に説明すると、ワンピースの世界には「Dの意思を継ぐ者」という、物語における超重要人物が数名登場する。主人公のモンキー・D・ルフィを含み、その人物たちは物語の鍵を握るとされている。「D」の意味については作中でも未だ明かされておらず、世界中の熱狂的なファンたちがアレコレと考察を繰り広げている。ワンピース全読者がその意味の解明を心待ちにしている一文字である。作者の尾田栄一郎氏と目の前にいるDarwin・D・Wuが一体どういう関係にあるかは知らないが、僕は作中での解明を待たずしてリアルの世界でその意味を知った。

結論:D=達明

会話の中で本人の口から聞いた。
「達明」である。Dとは「達明」である。

「達明」を中国語の拼音表記にすると「Daming」(発音はダーミン)となり、Dとはその頭文字。日本語で読もうとすると「たつあき」。「Darwin・D・Wu」の正式名は「Darwin・達明・Wu」。すなわち「モンキー・D・ルフィ」は「モンキー・達明・ルフィ」となり、「ポートガス・D・エース」は「ポートガス・達明・エース」となる。誰が「D」の意味を「たつあき」と予想しただろう。「たつあき」が何を意味するかはさておき、誰がなんと言おうとDは「たつあき」を意味する。まさかの結末に世界の全ワンピースファンがひっくり返るだろう。その瞬間が楽しみである。


彼と出会ったというだけで、その日は僕にとって忘れ得ぬ衝撃的な1日となった。

その後彼と懇意になるには時間を要さなかった。彼は「群れる奴無理。小動物か。」などと毒づくことはあれど、基本的に非常にフレンドリーだった。ソーシャルネットワーキングサービスmixiを40年ぶりに見て振り返ったところ、彼と知り合った1ヶ月後には彼の実家に泊まったとの履歴が残っていた。その日は大西亮平という人気ポンコツと共に西宮北口で終電を逃し、門戸厄神のDの実家に泊めてもらったことを思い出した。ありがとうございました。
一回生の間、部活以外の時間はD、そして吉永という稀代のイケメンと3人でよく過ごした。吉永も身長が185㎝あったため、しばらく僕は身長175㎝のチビキャラを演じた。


2回生になり、僕と彼はほぼ同タイミングで一人暮らしを始めた。2人とも蛍池駅を最寄りとし、互いの家まで歩いて2分だった。どちらかと言うと僕が彼の家に行く方が多かった。彼は初の一人暮らしを機に料理にハマっており、彼の家に行けばおこぼれをいただけた。豚角煮を筆頭に、どの料理もめちゃくちゃ美味かった。また彼は友達が家に来て楽しめるように、自分がやらないウイイレを買うなどしていた。僕はそれをやりまくった。しかし彼は決して友達のために買ったと自分から言うことはない。多分認めもしない。少し強がりで照れ屋なところが、彼が時に女性から「可愛い」と言われる由縁か。この文章を見た彼に反論されそうで怖いが僕はそう推察する。

知り合ってから、彼は常に何かの勉強をしていた気がする。公認会計士とかプログラミングとか。彼と初めて会う人のその多くが彼のその多方面に対する能力の高さに圧倒されると思う。ただ彼と一緒に過ごして感じたのは、彼がいわゆる最初からなんでも出来るタイプの「天才」ではなく「努力の天才」であること。彼と同じスタートを切った事柄があったとして、彼はいち早くその事柄をに対する努力を習慣化し、気付いたら他と圧倒的な差をつけている。詰めまで怠らない。そんなイメージ。彼と仲良くなってそれが分かったことが良かった。世の中で天才と言われている人の多くはこれと一緒なのかもしれない。

3回生以降、彼はテックの道に目覚め、そのままテックの道を突き進む。リクルートのテックの何かしらに選ばれてたりなど、詳しいことは分からないけれど、学生当時から着実に実績を残していた。彼は卒業と同時に母国アメリカへと渡り更に実績を積み、今はVP of Engineeringという、日本で言うところのテックリードという役職で活躍しているらしい。さすがのDである。テックって何?

社会人になってクラスのみんなで集まったりすると必ず彼にビデオ通話を繋ぎ、全員が彼と喋る。川守田のスマホのギガを犠牲にして。みんな彼のことが好きなのである。彼には人を惹きつける愛くるしさ・魅力がある。彼がアメリカに行った時、もう帰ってくることはないのかなと寂しく思ったが、オンラインで繋がれる時代で良かった。そろそろ日本帰って来たら?とも思うが、大国アメリカでまたデッカくなってくんだろうな。デッカくなっても何も変わらない彼と日本で会う日が楽しみである。また会う日まで。アーメン。






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