西宮に住んでいた(3)

関西学院大学の近くに住んでいた。うちは坂の下にあり、その大学は坂の上にあった。ヴォーリズという建築家の作ったキャンパスが、すごく素敵な雰囲気で時々散歩に行った。大学へ向かう坂道の景色も覚えている。
同じヴォーリズの建築の大学が、その近くにある。赤江珠緒さんの母校神戸女学院大学。そして、その隣にある聖和大学。
夫が建築好きだった。
子どもが生まれて、まだ幼稚園に行っていない頃、聖和大学で催された講習会のようなものがあり、託児所付きで私一人で参加できるということで参加したことがあった。講習の内容は、育児や昔話に関することだったと思うが、あまりよく覚えていない。たぶん母親向けの内容で、参加者も女性が大半だったような気がする。昔話の読み聞かせに関することだったかなぁ?本当にぼんやりしてるな。講習の後半だったと思うが、隣の席の参加者と話す時間があった。若い女性で、母親らしくはない感じだなと思った。彼女は、乳児院で働いている、と言った。その頃の私は、乳児院にどんな事情の子どもがいるのか、ほとんど想像できなかった。「どんな事情ですか?親が亡くなっているとか?」と聞いてしまった。彼女は「そういう場合もありますが、いろいろな場合があります」というような答え方をし、表情が少し硬くなったように記憶している。
この講習に参加したのは、夫が「ヴォーリズの建築の中で勉強できるなんていいじゃん」みたいなことを言って私に勧めてきたのがきっかけだった。それだけではなかったとわかっている。子どもを預けて何かする、なんてことが本当になかった。両方の実家も遠いし今で言うところのワンオペ育児だった。
子どもから離れて何時間か一人で勉強するなんて、夢のようだった。その割には、講習の内容は頭に残っていないが。

同じマンションの住人に関西学院大学で教授かなにかをしている人がいた。
生協の共同購入というのに誘われて、私も参加するようになった。配達のときに不在の人がいるとその人の注文した物を代わりに受け取り預かる、ということがあった。困ったときはお互い様、というやつだ。関西学院大学の先生のお宅はご夫婦二人暮らしだったが、生協のとき、不在のことが度々あり、その度に私は冷凍のブラックタイガーを預かっていた。特にどうということもないが、海老が好きなご夫婦なのかな?と思っていた。何度かそんなことがあって、預かっていたブラックタイガーを渡したとき、「すみません。うちの猫の好物で。」なんて言われて、びっくりしたのを覚えている。
どうでもいいことを覚えているなぁ。講習内容は覚えてないのに。

続く

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