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今年読んだ本 10選

 2023年も色々本を読んだから、1年の締めくくりとして読んだ本ベスト10を発表するよ。10冊以外からも記憶に残った本をピックアップとして発表。これは記憶や感動の外部化であって、投稿するころにはもう頭の中から揮発してるかも。
 さて、今年は133冊読んだらしい(12/29現在)。マンガ含むとはいえ3日に1冊読んだと思えば結構読んでいるほうか……? いや、マンガでカサが増えているだけで小説は少ないな。2024年は小説の年にしよう。するぞ!
 読書メーターのマイページ「読んだ本」から選出。私はどんな本を読んでいたか気になる人は覗いてね。

https://bookmeter.com/users/1016966/books/read

1冊目

・占星術殺人事件(御手洗潔シリーズ)
 今年ミステリにハマったきっかけになった一冊。今年のナンバーワン。大胆なトリックを成立させるためのミスリードが詰め込まれた大作。さすが新本格の礎。読者への挑戦状を2つも出す高いハードルを、軽々と飛び越えていくクオリティだった。大胆なトリックを隠す綿密な設定に、重厚なストーリー。「わかってしまえば」と言いたくなるほど構成が美しい。
 主人公の石岡君と探偵の御手洗もいいキャラをしていて、日本の探偵役によくいる興味のあるものにしか動けない性格は御手洗由来だろう。(ミステリは本のジャンルの中でも最大手で、いつも新刊が出ていているのも飽きなくて良い)

2冊目

・プロジェクト・ヘイルメアリー
 あの『火星の人』で有名なアンディ・ウィアーの新作。
 SFといえば宇宙! とりあえず使っとけばSFっぽくなるテーマの宇宙! しかし、何回もコスられているので読者が退屈しやすく、作者の実力がでやすいテーマである宇宙! しかも中国の有名SFの『三体』は完結したばかりで、ハードルが高い宇宙! 私も宇宙SFはもう当分は読まなくてもいいかと思っていたが、とても面白かった。
 絶体絶命の状況から、科学技術とユーモアから一歩一歩ゴールに近づいていく様は、ドクターストーンのような科学の可能性を感じられる本だった。
 アメリカが希望的なSFを書き、中国は悲観的なSFを書く。同じ宇宙SFのはずなのに、世界観が大きく違っているのも国民性の違いを感じられていい。

3冊目

・ガーンズバック変換
 中国ミステリで有名な作家・陸 秋槎のSF短編集。中華SFは世界設定などがしっかり構築されているのがいい。日本だとガジェットありきになってしまったりもするからね。特に「色のない緑」「ガーンズバック変換」が良く、SFとしても百合としても読めて面白かった。また、この作者はオタクカルチャーに明るく、スマホ用ソシャゲのスペックの事情で昼と夜の2パターンしか空模様を表現できない現象に理屈を付けろと無茶振りされた「開かれた世界から有限宇宙へ」も面白かった。miHoYoも同じことやっているのかな、やってんだろうな……
「開かれた世界から有限宇宙へ」は全文掲載されてるらしいからリンク張っときます。

https://www.hayakawabooks.com/n/na957fc570012

4冊目

・世界でいちばん透きとおった物語
 今年一番売れたライト文学、ずっととんでもなく売れているらしい。これを読んでない読書人おる? ってレベルで有名。それだけ売れる理由は、この本に物理的なトリックが仕込まれているからだが、ここで書いてしまうのは本当にもったいない。だから私は、ここで読みましょうねとしか書けない。早く読んで、ここまでたどり着いてくれ。
 昨今の流行といえば電子書籍がとんでもない普及率で、物理の本は電子書籍よりも2手3手遅れている実感はある。紙の本が押されている状況で紙書籍がブームになってるのは嬉しい。今後、こういう紙だけしかないトリックがバズっていくのかしら。

ピックアップ

・Vのガワの裏ガワ
1巻がとても面白かった。インターネットに漂う存在としてのVtuberと現実に住むリアルの人間との差異を書こうとしている挑戦的な物語だった。
 Vtuberはリアルに追従するしかない、現実よりもレイヤーの低い存在だと思われているが、その先入観を上手く使いこなした作品。

5冊目

・しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人
 ミステリ小説ではメタ落ちは禁忌だ。登場人物は殺人が可能かどうか、現実の人間にように扱わなければいけない。探偵が神の目をもったらいけないし、犯人を多重人格にしてもいけないし、デスノートを使ってもいけない。
 そうしてしまえば、なんでもありになってしまうからだ。しかし、早坂吝は、そのメタ落ちをうまくミステリに活用している、物語を膨らませきった後の裏切り方がすごい。その落とし方が好きだから読んでる。
 ○○○○○○○○殺人事件もいい味がしてるミステリなので皆も読んでほしい。

ピックアップ

・ハンチバック
今年の芥川賞受賞作品。これを読んでない読書人おる? ってレベルで有名(2回目) 私も読みましたよ。
 物語としては、生まれ変わったら高級娼婦になりたいと望む重度障碍者の女性の純文学。この作品における障碍者と健常者との違いは、性行為が実践可能かが重視されているように感じた。日常世活を営めないほど背骨が曲がった主人公は、性的な文章を書いて生計を立てているが、現実では全く行為ができない。そのためあるヘルパーに依頼するが……というもの。
 さて、出版界は障碍者を排しているとも書いている。「厚みが3、4センチはある本を両手で押さえて没頭する読書は、他のどんな行為よりも背骨に負荷をかける。私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、――5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない「本好き」たちの無知な傲慢さを憎んでいた」ある。それでも受賞させた文壇の覚悟が見える。
 芥川賞は純文の新人賞であるからして、純文学の領域を拡げなくてはならない。その鏑矢としての受賞かもしれない。『推し、燃ゆ』の受賞も、そういった面はあるのかも。

6冊目

・十戒
 ミステリといえば何と言ってもクローズドサークル! 閉じ込められた空間の中で起きる殺人、探偵と犯人が同じ空間にいる緊張感、ミステリの王道とも言えるジャンル。しかし、現在ではスマホもGPSもある便利な世の中になったせいで、クローズドサークルをなかなか作り出せない不便な世界になってしまった。(だから現代では事件を捜査したり、過去の事件を解決するサスペンスとしてのミステリが多い気がする)それでも閉鎖空間を作り出そうとする挑戦作。
 どんでんがえしという意味だと前作の『方舟』のほうがインパクトがあったが、クローズドサークルのシチュエーションとしては今回の十戒の方が好みだった。

ピックアップ

・サバイバー
 ページが逆に振ってある、残ページを見ながら読み進める本。
 連続自殺が続くカルト宗教の最後の生き残りテンダーブランソンが、教祖となって成功し、最終的にハイジャックで自殺するまでの半生を振り返る小説。『ファイト・クラブ』でおなじみチャック・パラニュークが持つ独特の文体とラディカルな思想、この2つが強烈に襲いかかる。俺を救済するのは俺だけなんだよ。頼むぞ、俺。

7冊目

・地図と拳
 今年1月に発表された直木賞の受賞作。600ページオーバーの空想歴史モノ、その重厚さはもはや暴力。歴史自身が、人々の策謀、理念、願望、野心などの集大成であるが、第二次世界大戦前後になると、その重さはとてつもない。その分の読破した時の達成感は凄まじかった。
 地図と拳、建築と戦争、創造と破壊。戦前から暗躍していた細川は、パトレイバー2の荒川みたいで、私の好きな人間をしている。

8冊目

・幽玄F
 テスカトリポカの著者、佐藤究の新作。三島由紀夫を題材としたこの本は、三島の観念的な憧憬を受け継いでいる。
 三島は『金閣寺』や『豊穣の海』で、純粋なものは存在するのかとずっと疑問を抱き続けた作家だが、その疑問を半世紀経った今でも再現させようとした作品。この作品にも護国などの単語が出てきてはいるが、エッセンス程度にとどまっている。(三島の右翼化は死に純粋性を見出した結果の表層であり、単純な愛国者だと考えるのは深層まで読めていない)。三島は明晰な論理から、美や死に純粋性はどこにあるかと追及しているが、この作品のロジックも明確で『金閣寺』を思い出したし、『太陽と鉄』を読み返したくなった。

ピックアップ

・桜前線開架宣言
 短歌のアンソロジー(選集)
 この前文学フリマに行ったとき、短歌・俳句のサークル参加が3~4割ほどあってびっくりした。短歌、流行ってるらしい。どうしても古くさいイメージを持ってしまうが、単なる恋愛の歌ばかりではなく、セカイ系やサブカルの面もあることを教えてくれた本。咎人の雛みたいな短歌もあったりする。表現の最先端として存在する短歌、わたし気になります。
ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ

9冊目

・第4間氷期
 阿部公房は正直読みづらい。彼のリアリティ・ラインは限りなく低く、概念や比喩が濫用された文章を読み進めていかなくてはならない。(『カンガルー・ノート』のあらすじが意味不明すぎてバズったくらいだし)。しかし、彼はワケのワカラナイ作家を意味せず、現実を超越した作品を書ける作家を意味する。その発想の柔軟さは、私の住む現実世界を軽々と超えていく。
 未来予言機を発明した私は世界の混乱に巻き込まれていく。「予言機械をもつことで、世界はますます連続的に、ちょうど鉱物の結晶のように静かで透明なものになると思いこんでいたのに、それはどうやら私の愚かさであったらしい。知るという言葉の正しい意味は、秩序や法則を見ることではなしに、むしろ混沌を見ることだったのだろうか」未来とは、現実を引き伸ばした先にあるものなのか。それとも、理想の先に来るものなのかを追い求めた作品。『箱男』もオススメ。

10冊目

・回樹
 斜線堂有紀のSF短編集。私の思う今一番脂の乗っている作家、斜線堂有紀。好きな作家はと聞かれてこの作家を出しとけば間違いない感はある。登場人物の感情表現が強いんだよなぁ百合小説アンソロジーも面白かったです。ミステリ作家初のSF短編集。表題作の回樹は、死んだ人間の愛情を判定する樹があった世界観を書いた作品。ほかの短編では「不滅」も面白かったから、オススメです。

まとめ

 いろいろ書いたが、文体が固かったり、やけにフランクだったりするのは当時の読書メーターの感想を下書きにしているからで、10冊分を鮮明に覚えているわけではない。
 去年に比べれば本のジャンルも固まってきている感じはある。来年はどんな本が来るのかな。またミステリかな。

終わり~~~~~~~~~


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