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ARCHIVES『THE NIKKEI MAGAZINE Ai』プレミアムクラブ会員向けメールマガジンその16「子役と超若手」(2015年11月~2023年3月配信/文:Katsuma Kineya、編集:講談社、配信元:日本経済新聞社)

※名跡、名前は配信当時のものです

話題の子役と超若手の見どころと見せどころ

2019年2月22日配信

 新橋演舞場では堀越勸玄くん(5)と堀越麗禾ちゃん(7)が舞踊も口上も立派にこなし、国立劇場には寺嶋和史くん(5)と寺嶋眞秀くん(6)が登場……。1月はあちらでもこちらでも話題の子役が大活躍でした。

人気の子役:客席がほっこり和む初お目見得

 冒頭の勸玄くんと麗禾ちゃんの父は十一代目海老蔵。来年5月、勸玄くんが八代目市川新之助を、海老蔵が十三代目市川團十郎白猿を襲名予定です。和史くんは七代目菊五郎と二代目吉右衛門の孫で、父が五代目菊之助、眞秀くんは母が寺嶋しのぶ。勸玄くんの初お目見得は2015年11月で、やんちゃ盛りなのに精一杯お行儀よくして勤めたかわいい口上が、いまだに耳に残っています。和史くんは2016年5月で、当時まだ2歳。菊之助に抱えられ、両隣に二人の祖父を従えて登場。いつ現れるのかと心待ちにしていた観客を喜ばせてくれました。客たちは、こうした子役が登場するだけで幸せな気分になり、拍手喝采を送り、頬をゆるめて舞台を見守ります。
 初お目見得は本名で出演し、まさに読んで字のごとしで、ほとんど顔を見せるだけ。対して、親や一門ゆかりの名跡など芸名で子役を演じるのが初舞台。こちらは本格的に歌舞伎俳優の道を進むスタート地点です。ちなみに本名で登場している子役には、歌舞伎界の血筋でない子も、また女の子もいます。麗禾ちゃんは例外でもなんでもないのです。

人気の子役:本格的な役で登場した初舞台

 さて、初舞台。中村勘太郎と中村長三郎は、2017年2月に二人そろって桃太郎を演じました。桃から登場する姿はまるで絵本のようでした。昨年、襲名後初の中村座では、勘太郎は7歳にして、親子共演『舞鶴五條橋(ぶかくごじょうばし)』で堂々と牛若丸を好演。長三郎は、セリフを言う前にお口を開けて間を取る愛らしい仕草を何度も見せてくれつつ、物語の鍵となる重要な役を勤めていました。四代目尾上松緑の長男尾上左近は、2014年8歳で初舞台。父の三代目市川右團次とともに襲名披露したのは市川右近。その初舞台は2019年1月でした。なんと二役で早替りもあり、右團次、猿之助とともに宙乗りも。当時のメモを見ると「右近ちゃんがものすごく上手でびっくり」と書いてありました(笑)。

歌舞伎史上初の子役は市川九蔵

 子役が初めて登場したのは、元禄10(1697)年の『兵根元曾我(つわものこんげんそが)』とされています。初世團十郎の長男市川九蔵(くぞう)、すなわち後の二代目團十郎が、父とともに出演。父子共演も史上初ということになります。このときの九蔵は、山伏通力坊で、やがて不動明王の分身となる役。不動明王は初世團十郎が得意とする荒事の役どころでした。これによって九蔵が芸を受け継ぐことを観客にも示したわけで、そういった意味でも、当時子役の登場は、エポックメイキングなできごとでした。

みずみずしいオーラを放つ超若手

 成長ぶりが見事でミーハー魂をくすぐられるのが、超若手の俳優たち。先ごろ写真集も発売された市川染五郎は、金太郎時代から騒がれていた美しい容姿に凜々しさが加わり、三代そろっての襲名披露公演でも存在感がありました。昨年パート3が上演されたシリーズものの『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』で、染五郎は金太郎時代も含めてパート1からずっと梵太郎を勤めていますが、同じく相棒役の政之助を演じ続けているのが市川團子(父は九代目市川中車)。染五郎も團子も堂に入った勤めぶりですでに才能の片鱗を感じさせます。ちなみにこのパート3は、八代目中村芝翫の3人の息子、橋之助、福之助、歌之介、五世中村富十郎の長男鷹之資、六代目中村松江の長男玉太郎、祖父十五代目片岡仁左衛門、父片岡孝太郎の千之助、十八世中村勘三郎に3人目のせがれと言わしめた鶴松もずらりとうちそろい、歌舞伎の明るく美しく華やかな(笑)未来を確信させる舞台でした。

 次回からは衣装、化粧、かつら、演技の型など、俳優にまつわる話題を紹介します。

(参考資料:歌舞伎公演筋書、『新版 歌舞伎事典』平凡社、『市川團十郎代々』講談社、『歌舞伎 家と血と藝』講談社)

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