スペンドマネジメント(支出管理)は何を変えるのか
法人カードのpaildをやっているHandiiプロダクトチームのなかやまです。2022年4月にHandiiはGMOあおぞらネット銀行さんとの協業の発表をしました。GMOあおぞらネット銀行の銀行APIを用いた「請求書支払いサービス」に取り組んでいます。
このサービスでは振込を実施するところまでを扱い、より柔軟でなめらかな業務体験を実現したいと考えています。そして、発表の中では「Spend Management(スペンドマネジメント)サービス」の実現に向けて取り組んでいくことも言及しました。
スペンドマネジメント(≒支出管理)という分野については、日本でも少しずつ言説で触れられることが増えてきたように思います。今回は、スペンドマネジメントは何がよいのか、何を変えるのか、簡単にご説明します。
1. 新しいSpend Management
「Spend Management」という言葉は、ERPの中の調達領域など、給与以外の支出をコントロールするコンセプトとして従来から存在していました。調達コストの適正化や業務効率化のニュアンスが強いものです。他方、昨今、もうひとつの文脈のスペンドマネジメントが急成長を見せています。それは Fintech型のスペンドマネジメントです。
Fintech型のスペンドマネジメントSaaSは、法人カードや銀行・送金サービスのいわゆるBaaSプラットホームとつながっています。それにより、①法人カード ②請求書払い ③従業員立替の3つの決済手段をカバーし、支出の出口を掌握します。その上で3つの決済手段に対して共通したワークフローや可視化を適用することで、支出のリアルタイムコントロールを可能にしています。従来、法人カード、支払管理システム、経費精算システムなどとシステムが分断されていたものを単一のSaaSで扱える上、決済部分を統合することでフリクションレスな体験を実現します。
プラットフォームとなるBaaS事業者が早く台頭した欧米では、多くのスペンドマネジメントSaaSが出現しています。米国では、Ramp、Brex、Airbase、欧州ではSpendesk、Pleo、Moss等多数のサービスが急成長しています。
Rampの例を見てみます。2022年3月の調達では81億ドルの評価でエクイティで2億ドル、デットで5.5億ドル調達しました。2021年8月に39億ドルの評価で3億ドル、2021年4月に16億ドルの評価で1.15億ドルのエクイティ調達をしていますが、急成長が読み取れます。ここのところグローバル採用のDeelの成長カーブの画像をソーシャルメディアなどで目にすることが多いかもしれませんが、そのDeelのひとつ右に表示された黄色い線こそ、Rampのものです。
2. ソフトウェア化されたカードによる効率的な支出
スペンドマネジメントSaaSが支出をリアルタイムにコントロールする上で、ソフトウェア化された法人カードは重要な前提になります。支出のミックスの中でカードの比率を高め、発生を検知しにくい従業員立替は例外的な位置づけとします。
paildのようにソフトウェア化されたカードはリアルタイムに情報を活用でき、利用可能額等のコントロールもリアルタイムに実施できます。即時で多数のバーチャルカードを発行することも可能で、使い勝手が向上しているだけでなく、決済・会計業務の効率化にも寄与します。
支出に占めるカードの割合が増えることで、ポリシーの遵守の面でも、支出の可視化の面でもメリットがあります。
支出をリアルタイムに検知できる
証憑の回収も適時に実施できる
支出に対して追加的なコントロールを適用できる
ポリシー外の支出をそもそもできないように制限できる
カード決済が持つ情報を後工程で活用できる
なお、これらのメリットを享受するためにはカードに十分な利用限度額があることも必要となります。欧米のスペンドマネジメントSaaSは次のような仕組みを持つことでその点をクリアしています。
銀行や債権の情報を取得・活用し、柔軟な与信審査を実施
デビットカード・プリペイドカードとして利用できる
3. 支出のリアルタイム可視化を低コストで
月次決算を締めてみて、いざ蓋を開けてみたら支出が多かった、あるいは少なかったということは中小企業ではしばしば起こることだと思います。しかし、従来はそれに対する低コストな対策は存在していませんでした。リアルタイムに把握できなければアクションにつなげにくい一方、リアルタイムの可視化には手間がかかり、なかなか手を出しにくいジレンマがあります。
スペンドマネジメントSaaSはこの状況を一変させます。①法人カード ②請求書払い ③従業員立替の3つの決済手段をカバーし、さらに支出に占めるカードの割合が増えると、支出は自ずとリアルタイムに可視化されるようになります。その上、スペンドマネジメントはワークフロー・決済部分を統合しているため、予算と齟齬が生じる支出を制限することも可能です。例えば、事前申請に基づいてカードを決済可能にするといったコントロールを実施できます。
これまでは月中に支出の進捗状況を把握するだけでも骨の折れることでしたが、スペンドマネジメントSaaSを運用すると予算の徹底まで実現できます。スペンドマネジメントというFintechによって、支出についても実効性のある予実管理を低コストで実現できるようになったことは注目すべき事実です。
ソフトウェア化したカードによる今までにない支出の体験、さらに支出のリアルタイム可視化、Fintechによって法人の支出のあり方はもう少し変えられそうです。
オールインワンスペンドマネジメントSaaSの日本での実現に向けて、私たちがやらなければならないことは沢山あります。日々邁進していますが、力を貸してくれる仲間を募集しています。
また今後、予実管理だとか、個別論点を取り上げて私見を述べていきたいと思います。
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