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同時性の次元:ニワトリとタマゴの偶発

ニワトリが先かタマゴが先か。循環型の因果関係の構造を持つものがあると、そのような疑問が出てきます。この記事では、因果関係では上手く説明することが難しい問題を、同時性という観点から捉えなおすことを提案します。

■因果関係によるシミュレーション

私たちは物事を考える時、頭の中でシミュレーションを行うことがあります。

着目している対象が複数ある時には、それぞれの対象を個別にシミュレーションしていくことで、比較的容易にシミュレーションを行う事が出来ます。

対象Aがある動きをし、対象Bがそれを受けて動く。それを受けて対象Aがまた次の動きをする、といった具合です。

チェスや将棋のようなゲームはまさにこういったルールです。サッカーや野球のようなスポーツ、あるいはビジネスや政策、社会問題への取り組み等の戦略をシミュレーションする場合にも有効でしょう。技術や製品開発においても、同様です。

より身近なところで、会話のやり取りで相手の反応を伺いながら進めるような時や、買い物や買い物の段取り、旅行の計画などでも、こうしたシミュレーションは有効です。

これは、原因と結果の連続性を捉えて、それをシミュレーションしていると言えます。この原因と結果の連続をシミュレーションするためには、物事の因果関係を把握し、そこに現れる法則を見つける必要があります。

確実性の高い法則が見つかれば、原因と結果のシミュレーションの精度が向上します。このため、因果関係に着目し法則を見つけ出すことには大きな価値があります。これを高度なレベルで行うのが、科学です。自然科学だけでなく、社会科学や人文科学も、同様です。

■要素間の因果関係では上手く扱えないもの

複数の要素間の因果関係を、順番にシミュレーションする方法が上手く行かないケースがあります。代表例は、アキレスと亀です。足の速いアキレスが亀の位置まで動くと、その間に亀は前に進みます。それを繰り返すと、いつまでもアキレスは亀に追いつけません。

また、ニワトリとタマゴも代表例です。ニワトリがタマゴを産み、タマゴが成長してニワトリになります。では、最初にニワトリが先だったのか、タマゴが先だったのかという話になると、答えがでません。

コンピュータはシミュレーションを得意とします。コンピュータシミュレーションでも、因果関係に従って順番にシミュレーションする方法では上手く行かないものがあります。代表例は、物体同士の衝突判定です。

物体Aと物体Bがコンピュータの描く仮想の世界の中でお互いに接近する方向に移動していると考えてみてください。先に物体Aを動かした場合、物体Bがある場所まで物体Aが移動して衝突することになります。

けれど、それは現実とは状況が異なります。現実であれば、物体Aと物体Bの中間地点で衝突するはずです。Aを動かして、Bを動かすという順序でシミュレートしていると、どんなに細かく時間を区切ったとしても、最終的には実際の衝突地点とは異なる位置で衝突するようなシミュレーションになってしまいます。

因果関係のシミュレーションでは上手くいかない例の中で、手元でイメージしやすいものとしては、2枚のカードをお互いを支え合うようにして立てるというものがあります。先に1枚目のカードを立てて、それから2枚目のカードを立てるという事はできません。

■同時性の次元

これらの例は、2つの対象を、1つずつ動かしたり処理しようとすることで問題が生じます。そこには、要素間の因果関係の次元を超えた特別な次元があります。

それが、同時性の次元です。

アキレスと亀や、2枚のカードを立てかける例は、因果関係として順番に考えるのではなく、それぞれが同時に動くことを前提に考えると問題に陥る事がなくなります。コンピュータの仮想世界内での物体同士の衝突判定も、上手い判定処理を実現すること自体は難しいですが、2つの物体が同時に動くことを前提に考えていけば、衝突位置を割り出すことは可能です。

■ニワトリとタマゴの構造における同時性

ニワトリとタマゴの構図があった時、因果関係の次元で捉えようとして、どちらが最初に誕生したのかと考えてしまうと、答えが見つからなくなります。

しかし、同時性の次元で捉えれば、答えはシンプルです。ニワトリとタマゴの、両方が同時に誕生したのです。2枚のカードを立てかけるように、先にどちらが立っていたのかを考えても仕方がないように、ニワトリとタマゴの構図は、それらが同時に生まれたのだと理解することで、疑問は氷解します。

そう考える事で、次の問題に私たちは進むことができます。いかにして同時に生まれたのかという問いです。この問いであれば、論理的なパラドックスに陥らずに答えを探すことができるでしょう。

■原初の循環構造、フィードバックループ、そして進化

いきなり、ニワトリとタマゴが偶然生み出されたわけではないでしょう。

初めは偶然によって、極めてシンプルな原初の循環構造として、ニワトリとタマゴの構図に相当する構造が生まれたのだと考えられます。

カードで例えれば、何段ものピラミッド型の複雑なカードタワーが偶然出来上がるとは思えません。しかし、上から何枚ものカードを同時に落とすという作業を繰り返していたら、支え合う2枚のカードの構造が偶然現れる事もありえるでしょう。

ニワトリとタマゴの構図の場合、偶然によって原初の循環構造が生まれた後、その構造が環境と相互作用して自己強化的な振る舞いを持ったと考えられます。

カードの支え合い構造は、自己強化をすることはありませんので、偶然支え合う2枚のカードが登場しても、それだけの話です。

ニワトリとタマゴの原初の循環構造は、1つ目が偶然誕生すると、自己複製を行って原初の構造を増加させていきます。これは、原初の循環構造が、自分自身の存在を自己強化している事になります。

さらに、自己複製の際に、少しずつ差異のある複製を作り出せば、環境との相互作用で自然淘汰のメカニズムが働き、進化していきます。

このようにして、同時性の次元の中で偶然に頼って原初の循環構造が生まれ、自己強化が働き、変異と淘汰により進化することで、ニワトリとタマゴができあがります。

これは実際の生物であるニワトリとタマゴの説明になります。しかし、それだけでなく、社会や文化や経済活動の中に見られるニワトリとタマゴの構図に見られる循環構造も、同じようなモデルで説明ができるでしょう。

生態系にも、社会や文化や産業においても、至るところに様々な原初の循環構造が生み出され、維持強化されながら進化してきたと考えられます。そういった物事に私たちは取り囲まれています。

そしてこれからも、同時性の次元において、様々な原初の循環構造は生み出されていくのでしょう。

■さいごに

私たちは、物事を理解しようとするとき、ある考え方の枠組みに知らず知らずのうちに当てはめて考えてしまいます。因果関係も、とても広く適用できるものの、考え方の枠組みの一つにしか過ぎません。

同時性の次元においては、因果関係のように1つずつ順序だてて物事を理解するやり方でなく、同時に2つの物が誕生したり動いたりすることを前提にします。ニワトリとタマゴの2つの物の誕生や、2枚のカードやアキレスと亀といった2つの物の交差は、同時性の次元からでないと、理解することができません。

言葉の中にも、同時性の次元で捉えるべきものは多数あります。光と影、昼と夜のように対になっている概念は、どちらか片方からではなく、同時に認識されたはずです。また、音韻も同時に登場したと考えられています。

因果関係という考え方も十分強力な枠組みです。ただ、そこには限界もあります。その限界を理解して、同時性の次元の観点からも捉えなおすことで、様々な領域で新しい気づきや発見が得られるかもしれません。

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