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カトレアの超科学診療所 vol.exSS ほのめ&頻伽 頻伽のバースデー大作戦

・前書き

今回は頻伽のデッキ記事ではなく、ほのめの誕生日に合わせてSSを書いてみたので初めてこういう形で投稿しようと思いました。
お見苦しい文章もあるかと思いますが、
温かい目で見守っていただければと思います。
それでは本編をどうぞ。感想等もいただけると嬉しいです。


・ほのめ&頻伽 頻伽のバースデー大作戦

2!
2!
2!
アタシは2という忌々しい数字が嫌いですわ!
なんてあの”あほのめ"なら怒り出すのが目に見えてる。
2月22日───。
何の因果か、2という数字を特に嫌うあたし、迦陵頻伽のパートナー”あほのめ”こと蝶ヶ崎ほのめの誕生日だ。
そして現在2月中旬。もうまもなく18歳を迎えるほのめはずっと激動の毎日を送っていた。
なぜならここ1年学問において壮絶な努力を続け、飛び級で九頭竜学院大学の遺伝子工学科へ進学まで至ったのだ。
その他にも別の世界線の赤の世界のブラックポイントに行き、救い出したあたしのママこと蝶ヶ崎博士───わかりやすく言うのであれば、
あたしを生んで、育ててくれた別世界のほのめとあたしの妹カナリアが病院から退院したり、
黒崎神門の足取りが掴めなくなったりと色々あった。
あたしにとっても激動といえば激動だったので、心の整理がついて少し気持ちにゆとりが出てきた今、ほのめの誕生日がまもなくだということに気が付いたのだった。ほのめ本人は忙しいので自分の誕生日のことを忘れているのかそういった話題が出てきたことがない。
あたしはベッドの上で枕を抱きながらはぁ……と小さく息を吐いた。
「とか思って……。何かあげようかと思ったけど、ほのめって欲しいものとか大体自分で買えたり持ってたりする気がするし!手作りのものはあまりうまく上手く気もしないし、時間もないし!なんでこんなにお金持ちなのよ!もー!あほあほあほ!あほのめ!」
バタバタバタと足を暴れさせ枕を持って悶えるしか出来ない。
現にほのめはあんなあほでも一人の令嬢である事実は変わらないし、自分が突然器用になるわけでもない。
もっと貧相であれ欲しい、これ欲しいな子だったら楽だったのに!
「はぁ……いやぁでもそんなほのめみたくないし……」
グダっとくたびれて力が抜ける。
ちなみに今、ほのめは不在でその帰りをほのめの部屋で待っているところだ。
大学の方で研究があるとかなんとかで正直あたしにはよくわからないし、行っても暇だしほのめの誕生日のことを考えることにしたのだ。
「でも何も思いつかないのが現実だし……どうしたらいいんだし!うわあああああああ!」
枕に口を当てて声を大きめに出してみる。極麗六鳥の名に相応しい美しい声が思いの外反響した。
バァン!とその瞬間部屋のドアが開き、
「なななな何事ですの!?超音波!?ゼクスに奇襲でもされたんですの!?」
ほのめの驚いた声が部屋に響いた。
「うわぁ!されてないし!何でもないし!ほのめの方が超音波みたいだし!勘違いすんな!声デカい!」
「何でそんなに言われなきゃないんですの!びんがの大きい声がドアの前まで響いて驚いたんですわよ!」
普段なら口論になるはずのところでほのめがふぅ……と胸を撫で下ろす。
「びんがに何かあったのかと思って取り乱しましたの……何もなくてよかった……」
ほのめがあたしに寄ってよしよしと頭を撫でる。こういうところがほのめのずるいところだ。
「は、恥ずかしいからやめろし!なんかあったらリンクデバイスを通じて連絡してるから大丈夫だし!」
それもそうですわねと言いながらほのめは撫でるのをやめる。
こう何というか恥ずかしさはすごくあるが、撫でられるの自体は正直嫌いではない……けど……素直に受け入れるのもなんか悔しさがある。
「ていうかほのめ帰ってくるの早い気がするし。何かあった?」
「今日はやめましたの。進捗もあまりよろしくなかったので。根詰め過ぎてもよくありませんし気分転換に早めに戻ってきたところですの。」
ほのめが努力家なのは知っているので、途中で切り上げるということに何か違和感もあったが確かにリラックスする時間も必要なんだと思う。
「ねぇ、じゃあ今日ほのめって……暇なの?」
「うーん……何かありましたの?」
少し宙を見ながらほのめは悩んだ様子を見せていた。研究は切り上げたのだろうがなんだかんだ他にもやることはあるのだろう。
気分転換にもなるし、ショッピングでも誘って欲しいものをそれとなく探れればと思ったんだけど……。まぁ完全にこっちの都合だし。
(これは無理かもなぁ……)
「じゃあアタシとお出かけするのはどうですの?」
少し間をおいてほのめから提案。あたしはぽかーんと呆気に取られてしまった。
「どうかしましたの……?」
「ううん!何でもないし!行く!行きたい!」
あたしから誘うはずが誘われてしまった。どちらにせよこれを機に欲しいものを探れそうなので一安心。絶対ほのめの誕生日を祝ってみせるし!

◆     ◆      ◆      ◆

「で、ほのめの行きたかったところってここ?」
令嬢には似合わない狭く少し薄暗いとこ。そして少しどこか懐かしさがあるお店。
「そう!駄菓子屋さんですわ!」
「はぁ……ほのめは変なところでお子様だし……」
「今何か言いませんでした?」
「別に何でもなーい」
嬉々としてこじんまりとしている駄菓子屋さんの中を物色するほのめは秀才とはかけ離れた子供のような様子だった。
飛び級で大学に入学したといってもまだ17歳。もうまもなく18歳になるといってもまだまだ精神的に未熟さがあってもいいだろう。
というかそういうほのめに安心するからもうしばらくは変わらずにそのままでいてほしい。あの時のママみたいに辛い表情を浮かべるほのめになって欲しくない。だからそんな嬉しそうなほのめを見ていると何だかこっちまで嬉しくなる。
よし!と嬉しくなった勢いで鼻歌を奏でながらあたしも商品を見て回る。
駄菓子屋さんというのはほのめの豪邸で過ごしていると目新しいものばかりで、あたしもつい色々と目を奪われてしまう。
ぶた……めん?豚が入った麺?にしても小さいような……?
「ねぇねぇびんが!これ見てほしいですの!」
タバコのようなものを口に加えふぅ……と息を吐き出す仕草を見せてくる。
「あほのめ!?タバコは20歳になってからだし!?やっていいことと悪いことの区別もつかなくなったの!?」
「チッチッチ……びんがは何も知らないお子ちゃまですわね。これはタバコじゃないですわよ!ココアシガレットですわ!」
「お子ちゃま言うなし!……ココアシガレット?ココアの味がするってこと?」
「ハッカの香りとココアの風味が広がる駄菓子ですのよ、びんがも大人気分を味わってみます?」
ほのめがスっと箱を差し出してくる。駄菓子の時点で大人な感じはあまりしないし。でもほのめがそこまで言うならとあたしは未知の駄菓子に手を伸ばす。
「じゃあ、い、一本だけ……」
恐る恐る手に取り口に入れてみる。今までほのめの豪邸では味わったことの不思議な風味が広がる。
「えっ美味しい」
素直な感想が口から出た。あたしはそう多くの駄菓子を食べてきたわけではなかったので、この味わいが新鮮に感じる。
「そうでしょうそうですわよね!じゃあこれはどうですの!?」
お店の奥の方にいるおばあちゃんに駄菓子を持ってほのめがお金を支払いに行く。
そりゃお店なんだから当然なんだろうけどそこにおばあちゃんがいることにあたしは全然気づいていなかった。
「じゃーーーん!これも美味しいんですのよ!」
「サワーペッパーキャンディー……?」
長い袋に入った平べったいものを渡される。開けちゃいなさいとほのめの、あたしの反応を見て楽しもうとしている視線がキラキラと輝いている。それを開けるとパウダーのかかった紫色の本当にギリギリまで平べったくしたグミのようなものが出てくる。
ペラペラとしているので端を少しずつ齧ってみる。
「すごい!これぶどうみたいな味がしっかりするし!」
口の中に濃いめのぶどうの味が広がる。でも決してくどくはなくむしろ爽やかな味が口を駆け巡る。
「いいですわよねこれ!アタシもこの前食べた時に病みつきになってしまいましたの!」
ほのめもサワーペッパーキャンディーを開け一緒に食べる。この他にも色々と駄菓子体験をし、満喫したあたし達は駄菓子屋さんを後にした。
駄菓子屋さんの他にも街の中を見てまわったり、久しぶりにほのめと同じ時間をゆっくりと過ごした。
でも、結局ほのめの欲しいものはわからない。……何なら駄菓子から始まりあたしはもらいっぱなしになってしまった。
帰り道に横を歩いていたほのめがあたしの前にトンっと出てくる。
「ふふ、びんが」
ほのめがあたしの手を取る。
「何?」
「思い出……できましたわね。」
ほのめのその微笑みと言葉についバッと顔を背けてしまう。
「な、な、な、突然っ!改まって変なこと言うなし!お出かけなんて毎回一緒に行ってるし!」
顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかる。何でこの人はそんなこと平然と言えるのかあたしにはわからなかった。
顔が赤くなっているのバレてなければいいんだけど……。
「びんがってばお顔が真っ赤ですわよ。ふふ、改めて言われると照れちゃうなんて可愛いですわね~?」
バレてたし。あぁ最悪だ。
ほのめは笑いながらあたしの手を引いて歩き出す。
「ふふふ今日はとっても楽しいですの!」
「あほ!あほ!あほのめ!うるさいし!」
今日は一方的にほのめにペースを握られているのが悔しい。ボキャブラリーのない罵倒を言うことしかできない。
そしてやっぱり一日を通してほのめの様子に違和感を感じる。いつもだったらここで言い返されて口論になることが多いのになんか……何というか大人しい。
そんな違和感を感じていると軽やかに歩いていたほのめの足が止まる。
「?ほのめ?どうかしたし?」
少し下を俯いたほのめの顔を下から覗き込む。少し悩んだような表情を浮かべながらほのめが口を開く。
「今日本当は大学には行ってないんですの。後ろめたい……そんなことではないんですけどね。びんがには言わないで行ってしまったこと。これは少しだけ後悔したんですの。正直に言いますと本当はアタシに───蝶ヶ崎博士に会いに行ってきましたの。びんがが一番会いたいという気持ちはわかってはいたんですけど……赤の世界のアタシに何があったのか。貴方たちに何があったのか詳細に聞きたかったんですの。びんがの口から全部聞くのは苦かと思いましたし。びんがの前でそんな話を改めてするものでもないと思いましたの。だから、その……ごめんなさいですの。」
そこにはさっきまでの調子とは違うしおらしくなったほのめの姿があった。あたしだってママに会いたい気持ちはもちろんあるけど赤の世界へ救いに行けた上に退院まで見守ることができた時点で満足しているし、どれもこれも全部ほのめのおかげ。恥ずかしくて口には出せないけど、すごくほのめには感謝している。
「ふふ……あははは!」
突然笑い出すあたしにパッと顔を上げほのめが驚いた顔をしている。
本当に”お互い”に不器用だし。
パートナーらしいといえばパートナーらしいか。
「な、なんでそんなに笑うんですの!もう!びんが!何がそんなに面白いんですの!?」
「だって、だってさ……流石に笑うしかないし……ふふっ……だから突然思い出ができたとか言い始めたわけ?あほのめもここまでいくと手の付けようがないし……あははは!」
「だっていつまでもこうしていられるかもわかりませんし、アタシから話を聞いて、アタシなりに色々悩んだんですの!それをなんで茶化すんですの!」
ほのめは秀才なのにこういうところがたまにある。ちょっと抜けてるというかなんというか。結局人間的にはまだ未熟というか。
まぁでもほのめなりにあたしのこと考えてくれたみたいで嬉しいし。ママからどこまで何を本当に全部聞いたかはわからないけど、今のあたしには正直どうでもよくって。確かにほのめとの思い出が一個増えた。それだけが改めて嬉しかった。
これから先あたしとほのめに何が起きるかもわからないけど、何があってもきっと乗り越えられる気がする。
「ほのめ。あたし達なら大丈夫だし。いつまでもずっと二人で、一緒に過ごしているだけでそれが全部思い出になるし!恥ずかしいから今しか言わないけど、その……いつもありがとう……ほのめ……」
徐々に声が小さくなっていく。こんなことほのめの顔を見ながらなんて絶対言えないので視界を外して伝える。
ほんの少しだけほのめの顔をチラッと見ると今まで見たことがないくらいニヤついているのが見えた。
「ふーーーん素直になったびんがは可愛いですわね。今度はお耳まで真っ赤っかですの。ふふ、うふふ。こちらこそいつもありがとうですの。あなたは最高のパートナーですのよ。びんが。」
「……うるさいし……」
さっきより強くギュッと手を握られ、またほのめに手を引かれ帰路を歩き出す。
あっとほのめが声を上げる。
「そういえばアタシもうすぐ誕生日が来るんでしたの。もう18歳になるんですのよ!17歳は一瞬で過ぎて行きましたの。びっくりですわね」
(うっ……結局何もプレゼント思いつかなかったし……)
「アタシ欲しいものがありますの」
「へ?」
まさかほのめの方からそんなこと言われると思ってなかったので変な声が出た。今日は本当に全て先手を取られる。
「欲しいもの、というかアタシびんがのお歌が聞きたいんですの。」
「そんなのいつだって歌ってあげるし!ていうか普段からちょこちょこ歌ってるし!いいの?他になんかないわけ?!」
プレゼントとしては形にも残らないし、むしろそんないつでもできることでいいのか少し不思議な気持ちになる。
「いいんですのよ、それで。その時その瞬間が思い出になるんですの」
「ま、ま、ま、またそんなこと言って恥ずいからやめろし!」
「わかって言ってるんですのよー!ふふっ!」
手を繋いだままあたしはほのめの前に出て息をスゥ……っと吸い込み、歌を奏でる。
「~~~~♪」
心を込めて、感謝をのせて、気持ちを一個一個丁寧に伝えるように言葉を紡ぎ歌っていく。
前に出たあたしが今度はほのめの手を引いて歩き出す。
歌い奏でながら、お互いの歩幅を合わせて、歩いていく。
これからもずっと。”パートナー”として。
いつもありがとうほのめ。誕生日おめでとう。心の中で吐露する素直な気持ち。
────大好きだよ、ほのめ。



2!
2!
2!
アタシは2という忌々しい数字が嫌いでしたの。
今でもあんまり好きな数字ではないのですが……。
今は昔よりも少しだけ、ほんの少しだけ好きですの。
ありがとう、びんが。大好きですわよ。

-Fin-



カトレア(筆者)
Xアカウント @Katorea__
フリー冊子の頃からゼクスしてる。
今は亡きチーム丘の上のメンバー。
Z/X日本選手権 東日本地区予選で30位。
第2回イース杯ベスト8
過去の実績なので雑に。2015年のフィーユ杯のなんか優勝してたり、第1回きさら杯2位。他ちょこちょこベスト8。第20回フィーユ杯チーム戦優勝。

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