あぁ、私、文章を書くんだ。
とある本に出会った。
久々に開いたYouTubeでYouTubeにおすすめされた曲を聞いたついでに調べたボーカルの名前。
名前だけを検索するつもりだったが、検索予測に出てきた2文字の名前が妙に気になった。
彼が書いた本のタイトルだった。
いちバンドのいちバンドマンだったはずの彼が
いまや小説家としての顔ももっていることに
夢を追いかけて生きる人間の可能性を感じた。
そんな彼の本が少し前に芥川賞を受賞したばかりのお笑い芸人に称賛されている。
ふと私の知らない彼に会いたくなった。
私の知らない彼が書いた本は本屋の奥の方の明らかに人通りの少ない場所に1冊だけ用意されていた。
知りたくないという気持ちと知りたいという気持ちの両方が行き来する中、それでもやはり知りたいという気持ちがまさり、私は私の知らない彼に会いに行く。
人通りの少ないその場所で1枚目をめくる音が響いた。
私の知らない彼は、私が彼を知る前の彼を描いていた。
歌詞にも登場するこねくりまわされた比喩表現の羅列に彼らしさを感じて安心した。
小説という名の長い歌詞には、彼の自己表現が詰まっていた。
私の知らない彼は私の知っている彼だった。
いつもとなんら変わりない彼が、少し長話をしている。そんな印象を受けた。
彼が彼らしくあるために、彼自身のために書いた歌詞にも受け取れた。
言葉を巧みにあやつる彼に対する憧れと書きたいという潜在的な感情が合わさり
私は私の知らない私に出会うためにたったいま文章を書いている。
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