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僕と食べロック

「腹いっぱいの時に自殺するやつはおらん」

昔に読んだ漫画で誰かが言っていた。

その言葉がふと頭をよぎる。

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小さな頃から食べることが好きだった。

家族でよく外食をしていた。

特に肉が好きだった。小学生の頃は「今日のご飯は何がいい?」と母親から聞かれる度に「肉がいい!」と答えていた気がする。

そのお陰というのか、せいというのか、見事に太った少年だった。

親戚のおじさんに「ヒロキは将来お相撲さんになるんだよな!」と茶化される程、丸々と太っていた。更に小さな頃から絵本や漫画を読むのが好きだった、というのもあり極度に視力が悪く、分厚い黒縁の眼鏡をかけていた。

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ただ当時と今の内面は特に変わっておらず、「自分は太っている」という自覚は無かった。

むしろイケてる方だとすら思っていた。要するに狂った少年だったのだ。そんな、クレイジーボーイにも転機がやってくる。きっかけは小学生高学年の頃。「女の子」という存在を意識し始めて、異変に気付いた。「極端にモテてない」のだ。バレンタインデーにチョコレートが全然貰えない。あれ…? おかしい。いや、おかしくない。世界は正常だ。狂っているのは少年、お前唯一人なのだ。

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同時にコンタクトに変え、ダイエットを決心した。それまで肉ばかり食べていたが、何故かグレープフルーツばかりを食べるように変えた。グレープフルーツの苦味成分で食欲を抑制しようと考えたのだ。その経験がある為に今でもグレープフルーツを食べると苦い思い出が甦る。

だが、その結果ダイエットに成功。バレンタインデーにチョコレートが貰えるようになったのだ。それからというもの「好きなものを好きなだけ食べる」という行為に罪悪感を抱くようになった。食べたいという気持ちを抑制して思春期を過ごしてきた。

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時は流れ、バンドを始めて各地にツアーで訪れるようになった。生活の拠点を地元、大分から東京へ移した。すると、その土地土地に今まで知らなかった食べ物や飲み物、食のスタイルや文化が沢山あった。それでいて、東京には各地方の美味しいものが沢山集まっていた。さすが主要都市、東京。

つけめん、ジンギスカン、酸辣湯麺、スープカレー、スンドゥブチゲ、二郎系ラーメン、ホッピー……etc。

ざっと思いつくだけでこれらの食べ物や飲み物は地元で馴染みがないものだった。突っ込みの声が聞こえてきそうだが、実際に僕は地元を出るまで上記のものは食べた事すらなかった。そして各地で初めて食べて、感動した。

食べる=罪悪感、だったのが背徳感に変わり、食に対する欲望はバーストしてしまった。

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「食」と「ロック」というものは遠い場所にいる気がした。ロックミュージシャンはガリガリに痩せてて、食になんか興味ないぜ、という不健康なイメージがある。ただ僕がロックを好きになった要因の一つとしては、自分を肯定してくれる、という所だった。

「それでいいんだぜ」という言葉が聞こえてきた。

ロックンロールが鳴った。

クレイジーボーイはクレイジージャーニーに出た。

食べロックが、聴こえる。


食べロックというコラムをはじめた一発目に書いた文章。このときは人生で一番病んでて、冒頭の一文は自分に言い聞かせてた。


原文のコラムはこちらより





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