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おまもり

冬の夜空の色のようなブルーブラックのインクの色がとても好きです。
手元にはずっとあるけれど、万年筆を使わなくなってしまいました。万年筆どころか、文字を書くことも少なくなって、文字を書くのがどんどん下手になっていくばかり。

あまりに文字を書かなくなったので、意識して書こうと思い、去年からメモを残す手帖を作りました。
毎日は書いていないし、日記とまではいかないのですが、心に浮かんだことや本の中で出会った言葉をメモしています。

私は毎日、いろんな事を忘れながら生きているんだなぁと、手帖を読み返してみて思います。こんな事書いてある!こんな事があった?と、思うことがよくあって、そこから新しいヒラメキに出会う事もあるので、メモしておくこともちょっといいかな…と思います。

最近、石田千さんの『もじ笑う』というエッセイを読み直していました。
手書きの文字にまつわるあれこれが書かれたものです。


 手の動きの見えるものは、ひとを振りむかせたり、ほほえませたり、ときに強い声を投げかけてきたりする。毎日の生活には、たんぽぽやすみれのように、素朴な文字が咲いている。
 巧拙問わず、書いたひとを知っていても、見知らぬひとの文字を見ても、おなじようにくつろぐ。その息づかいと愛嬌があったから、文字は伝達という使命とともに、長くひろく浸透したように思う。
 山笑うという季語は、春の芽吹きをおおらかに伝えている。文字も、そんなふうに見えるときがある。

石田千 『もじ笑う』 手書きだいこん より


エッセイを読み返しているときに、私は手書きのメッセージを受け取りました。パソコンで打ち込まれた文字ならば感じえない気配がやはり人の手にはあります。
文字の向こうの光や風や音を想像しながら文字を眺めました。手書きの文字はやっぱり嬉しい。

ここ数年、残りの人生を考えては会いたい人にはビュンと会いに行っていました。今は、ビュンと会いにいくこともできない日々のなかにいます。
(絶対に元気でいよう!)
次に会える日までのお守りみたいなその文字を大事に手帖に挿みました。



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