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あのときの思ひ出

そこは都会のど真ん中で、
繁華街から一駅もなく、
歩けば10分も要らない。

まだ発展途上の繁華街。
整備され始めたのは、今から20年ほど前か。

それでも私が知ったのは15年ほど昔。

たまたま散歩をしていたら
偶然出くわしたのだけれど、
都会のど真ん中だというのに、
まだ買い手のつかない土地は
雑草が生い茂り、
そこが都会であることを忘れさせた。

本当に何も無くて、
その何も無さが好きだった。


それでも、春にはたんぽぽは咲き、
秋にはススキが生え、鈴虫が鳴く。
懐かしい景色を思い出す。

私は生粋の都会っ子ではなく、
田舎育ちでもなく、
中小都市の生まれ育ちなのだけれど、
ベランダを開けていると、
よく鈴虫の鳴き声が聞こえていたことを思い出した。
懐かしい幼少期の記憶。

都会のど真ん中だと言うのに、
そんな田舎を感じさせる景色が好きだった。 

そうか、昔はどこも何も無かったのか、と。


気に入って昔はちょくちょく通っていたけれど、
少し期間が空いてしまって、
しばらくぶりに行ったら、
昔鈴虫がいたあの空き地も、
今では買い手が見つかってしまって
開発が進んでいる。

また商業施設とオフィスビルが建つらしい。

なんだ、また似たような建物か。
どこへ行っても変わり映えのしない建物。

おそらく世界中どこに行っても見える景色だろう。

なんて、悪態をついてしまう。




そもそもあの土地は埋め立て地だったから、
彼らは自生していたわけではなく、
どこからか住み着いただけなのだから、
おそらくあの棲家を奪われても、
また逞しく新しい棲家を見つけるに違いない。

あの鳴き声が聞こえなくなるから、
寂しい思いをしたのは、
もしかしたら私だけだったのかもしれない。



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