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瓶
先月、新潟へ旅をした。
半年前から計画していた1泊2日の泊まりがけオフ会ツアーである。
メンバーは関東勢が、あやしもん、くまこちゃん、わたし。
新潟組が、おだんちゃんとバクちゃん。
楽しかったという次元を超えている。
ひとつひとつ、その時のことを浮かび上がらせると、ずっと幸せそうな私がいる。
私という人間が体中から喜びを撒き散らし、心の奥底から安心に浸っていたんだ。
出会いからもう4年近くなる。
4年の間に知っていること、知らなかったこと、環境の変化をそれぞれが話して、それぞれが聞かせてと耳を傾ける。
2日目。
旅館を出て、お洒落カフェでみんなそろっておだんごを食べていた時のこと。
ふと、取り出したくなったんだ。
必死で隠して見ないようにしてきたもの。
まるで冷蔵庫の奥にしまい込んだ義母お手製のしょっぱすぎる手作り梅干しの瓶。
いつか開けなきゃいけないな…
家族で梅干しを食べるのは私だけ。
どちらかというと甘めが好きなんだ。
おかあさん、ごめんね。
いつの間にか素手でひねるだけではビクともしない。
梅干しっていつまで食べられるんだっけ?
私の心だか頭だか体のどこかにもしまい込んだ瓶がある。
こわくてつらくてかなしくて。
開けたくなかったんだ。
けれど開けなくてはならない時は来る。
コツコツと近づき、ざわざわと揺さぶる。
「あのね、こんなことを相談されても困るような話をしてもいいかな?」
もちろんだと返ってくることを知っているくせに前置きをする。
「高校生になったらね、もう検査結果や診察を自分で聞いてもらうってドクターから言われてるんだ」
この春、高校生になったばかりの息子に待ち受ける試練である。
試練なんて言葉を使いたくないが、そのものなのだ。
全てが終わったと思っている。
そんな彼が向き合わなくてはならない現実。
晩期副作用。
聞いてねえぞ!そんなの!
怒りを爆発させなくてはいられないだろう。
瞬間的な「ふざけんなよ!」で乗り越えてくれたらいい。
後ろから蹴飛ばされて暗闇の底に落とされたと感じてしまったのならば、そこから這い上がるにはどれほどの食いしばりを必要とするんだろう。
少し前の夕飯時のこと。
「野球部の友達がさ、坊主なんだよ。今時、坊主なんてなくね?坊主にどんな意味があるんだよ。」
と笑って話した彼に、
「あー、合宿の時とか髪の毛すぐ乾くからさ、意外と便利なんじゃない?」
と答えた。
「俺はね、坊主の上位互換だったけど、全然便利じゃなかったよ。」
え?坊主の上位互換??
そんな風に話すんだ。話せるんだ。
安心と不安が混ざり合わずにごちゃまぜな気持ちになる。
そんなエピソード。
できるだけ明るく話したかったけれど、少し喉が震える。
「終わった!って思ってるから当時のこともそうやって話せるんだろうね。」
そう言葉をかけてくれたおだんちゃんの眼は真っ直ぐで、真っ直ぐのその先を探そうとしていた。
そうなんだよ。そうなんだよ。
わかる?わかってくれるの?
「だから辛いよね」に何度も頷いた。
その空間、澄んだ空気が絶えず流れていた。
やさしくてやわらかくて体が包み込まれるような、そのまま浮いてしまいそうな。
息がしやすい。
思いきり吸い込み、自然に吐き出す。
隣で何も言わないバクちゃんがそうしてくれたんだ。
ギリギリと噛み締めるように理解しようとしてくれるあやしもんの呼吸を感じる。
そう同じ呼吸なんだ。
いっしょに歩もうじゃないか!
そう決めてくれている人から届く力強さ。
「私はね、大丈夫だと、どうしてもそう思えるんです。」
神秘的な瞳の色を持つくまこちゃん。
唯一、息子に会っている友だち。
だからこその確信だと言わんばかりに瞳の奥が静かに燃えていた。
開けられなかった瓶はまだある。
そうだな…賞味期限切れのジャムみたい。
「ほんとはね、こういうことをnoteに書こうと思うこともあるんだ。でもさ、ずっと同じようなことで悩んでる自分に辟易するんだよ。」
「それとさ、感動ポルノって知ってる?あの言葉を知ってから私もそうなのかなって。嫌だなって。それがどうとか考えるっていうより、頭にその言葉が浮かぶと書けなくなるんだよ。」
賞味期限切れのジャムなのに、人のパンに塗りたくる。
私はお腹が強いから多少の期限切れなんてどうってことないが、そうではない人だっているだろうに。
でも、このジャムは私をnoteから遠ざけた一因だったから、noteの友だちにはどうしても伝えたかった。
誤魔化すように笑っても見透かされるから心地良かった。
笑わなくていいんだよと言われなかったことも嬉しかった。
そのときのこと。
私はずっと忘れない。
読んでくださってありがとうございました。
私の旅の思い出noteでした。
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