トゥワイスと時々ホークスについての考察と感想(僕のヒーローアカデミア考察)


「大事なのは自分が誰なのかよく知ることだ」 分裂する自身への自己評価

トゥワイスにスポットが初めて当たるのはNo.115のアンリーシュドだ。
それまで言ったことのすぐ後で真逆のことを言う支離滅裂な面白分裂おじさんだったトゥワイスの素の語りから始まる。
「大事なのは自分が誰なのかよく知ることだ」
この一文には自分自身が本物か分からなくなってしまった自身に対する皮肉であり、そして失ってしまったからこそ大切だと痛感した事実としての思いが強く込められている。トゥワイスは二倍という驚異的な能力と不釣り合いなほど自己評価が低い。それには自身を増やすというチートを使えないという自覚だけでなく、一番大事だと思っているものの喪失にあると考えられる。そして、何とか保っている自身が裂ける=喪失の感覚を何よりの恐怖として認識しているのである。
だからこそ、「包む」ことに固執するのである。「包めば一つ」だからだ。

トゥワイスがなぜ分裂するに至ったか

トゥワイスの過去はNo.115でも描かれるが、より詳しく描かれるのはNo.229 のAll it take is One Bad Dayだ。このタイトルの元ネタはバッドマンにおけるジョーカーのセリフである「 狂気に生きる正気な人間を減らすにはたった一日の悪い日で十分」であると思われる。
そのタイトル通り、トゥワイスの転落人生はたった一日の悪い日から始まる。
両親を敵犯罪で亡くしたトゥワイスは住み込みで職についていた。が、ある日バイクで人を撥ねてしまう。撥ねた相手の飛び出しでトゥワイスは法定速度を守っていたのにも関わらず10:0にはならず前科がつく可能性もあった。描かれていないがその後やけになって犯罪に手を染めたことから恐らく前科はついてしまったのだろう。さらに悪いことに撥ねた男が会社のお得意さんの息子であったため、職を追われてしまう。たった一日で衣食住を失い、親戚づきあいもなかったため本当に一人になってしまったのだ。
「話し相手が欲しかった。信頼し合える人間といたかった」
そして、自分を増やして話し相手にした。そして、楽になりたい一心から犯罪に手を染めて強盗を繰り返した。そして、その分身たちは本体が王であることに不満を持ち、自分こそが本物だと言い争いを始めた。
そして、俺は俺すらも信頼できなくなってしまった。
そうして、トゥワイスはイカレちまったのである。


トゥワイスがどうなりたかったのか。どうしたかったのか。

「イカレちまった人間に居場所はねえ。ヒーローが助けるのはいつだって善良な人間だけさ」
では、そんなイカレちまったトゥワイスを助けたのは誰なのか。
義爛だ。
「終わった人間はどうしたらいい」
「信頼されることだ」
「誰に」
「仲間に」
この言葉こそがトゥワイスの信条に大きく影響してくる。






「俺は俺を受け入れてくれた連合の役に立つことで俺は俺でいいんだと思いたいのさ」
「俺が探しているのは同じようにイカレちまった人間。居場所を求め彷徨うイカレ野郎」
「ヒーローサイドも敵サイドもドロドロに変容し始めている。」
「大事なのは自分が誰なのかよく知ることだ。」
「自分がどうなりたいのか...。どうしたいのか...。それがとても大事なんだ」




ヒーローはイカレちまった人間を助けない。では、誰がイカレちまった人間を助けるのか。それは信頼してくれる同じようにイカレちまった仲間だ。
この一連の流れから分かるように、トゥワイスはイカレちまった人間に居場所を提供することでイカレちまった人間を助けると同時に信頼されることで救われたかったのである。


行動が裏目に出てしまうトゥワイス

この考えからイカレちまった人間であるオーバーホールを連れ込んだ結果、マグ姉を殺されてしまい、Mr.コンプレスの腕をぶっとばしてしまう。
良かれと思ってしたことでもっとも大切にしている信頼してくれている仲間を傷つけてしまったことに対してトゥワイスは強く責任を感じてしまうのである。
それゆえ、旨味があるからと死柄木に死穢八斎會の手伝いとして出向しろと言われた際には「あいつは俺が不用意に連れてきたんだぞ‼?俺だって人間だぞ...⁉死柄木...!!」と己を包んでいたマスクを取ってまで死柄木に反対だと訴えかけるのである。ここのアニメ版の遠藤さんの演技が凄くいいので是非見てください。罪悪感に苛まれながら、絞り出すように訴えかける「死柄木...!」が最高なんですよ。
それに対する死柄木の答えは「お前たちを信じている」だった。仲間を傷つけてしまってもなお「信じている」という‟信頼してくれる仲間”の言葉。であれば、その考えは読めなくてもトゥワイスに拒否することは出来ない。
だからこそ。
「俺は俺であるために」
「やりたいようにやるだけだ」
なのである。ここでいうやりたいようにやるとは仲間を傷つけた気に入らねえやつはぶっ壊すという死穢八斎會の裏切りである。
死柄木は裏切りの計画を出向の二人に話していなかった。けれど、この二人を信頼していたからこそ二人が死穢八斎會を裏切るという結論に至ると分かっていたのではないだろうか。

「それなら俺に考えがないぜ。ちょっと耳貸して」

オーバーホールに吠え面をかかせてやりたいというトガちゃんに対して即座に考えがあるというトゥワイス。恐らく、ずっとオーバーホールへの復讐を考えていたのだと推測できる。核が子供であるということも把握している辺り内部に居ながらも情報収集を行っていたのだろう。
分身コンプレスによるエリちゃん誘拐作戦が失敗した後もマスクを失くして分裂しながらも的確に死柄木一向に連絡を入れるよう指示している辺り、有能さと用意周到さが垣間見える。バカっぽく見えるが作戦などを考える点では賢いのだ。

「はぐれ者だからだ!!」

話は飛んでNo.220 僕のヴィランアカデミアに移そう。ここでは宗教団体を襲ってお金を奪う敵連合が描かれる。だらけきった敵連合の面々に対してスピナーの言葉にもハナホジって感じで聞いているあたりトゥワイスには敵連合の世界を変えるという目的は割とどうでも良くって受け入れてくれた仲間だから一緒にいることが伺える。逆にいえばだからこそ、義爛が人質になった際にリスクなどを顧みずに迷いなく助けに行こうと言えるのである。義爛は自身に居場所をくれた大切な仲間だから。
「お前は何だってそう友だち思いになっちまったんだ」というMr.コンプレスの言葉に対して「はぐれ者だからだ!!」と答えるトゥワイス。トゥワイスにとって仲間とはイカレちまった自分を救ってくれた何よりも優先すべき大切なものなのである。

「君は...連合の皆は俺の居場所なんだ…!!」

再臨祭でははぐれたトガちゃんを心配して血の跡を追いかけるトゥワイスの姿が描かれている。戦いの最中でも常に仲間を心配し、敵を倒すことよりも仲間を救うことを優先していることが伺える。そして、見つけてしまったのは変わり果てたトガちゃんの姿だった。
その時の言葉からもいかにトガちゃんを、連合を、大切に思っていたかを知ることが出来る。

「拭いてあげなきゃ」
「覚えているかい⁉君がくれたハンカチだ!」

「だめだ。生きてくれ」
「君は...連合の皆は俺の居場所なんだ…!!」
「あぶれちまった人間を必要としてくれた...唯一の...!」

この思いがあるからこそ近属の分倍河原人形に襲われた時も、取り乱し精神的に追い詰められながらもトガちゃんの方へ走り出しているのである。仲間を守るために。
追い詰められたトゥワイスの取った行動は”救う”ことだった。後のホークスのセリフで「追いつめられた時に人の性が表れる」という言葉があるが、トゥワイスがこの時に見せた性も"仲間を救う"という人の役に立とうという性だった。
その結束の強さを見た近属は心身ともにへし折ろうと人形を操作する。
そして、トゥワイスは人形に腕をへし折られてしまった。

「俺は仲間を殺さない」

「痛ぇのに消えねェよ俺!!」
この時に受けた痛みがトゥワイス覚醒の引き金になる。恐れ、回避してきた痛みこそが存在証明となって「自分」であることを認識させてくれたのだ。

いっつもそうなんだ...!
誤った選択を取り続けるんだ!
自分を殺してみりゃすぐわかった事だろうに俺は逃げて転げて落っこちた!
落っこちた先で見つけたこの場所――...
トガちゃん!!君を
助けるよ
「どけよ 偽物」
「俺は仲間を殺さない」



この自分が「本体」であるという気づきと共に得た回答が「俺は仲間を殺さない」という結果であるのはトゥワイス自身が常日ごろから自分がどうなりたいのか、どうしたいのかを考えていたからである。
自身を増やせないことに「役に立てなくてごめんな」「足引っ張ってごめんな」と負い目を感じていたトゥワイスはいつも受け入れてくれた連合に報いたいと思っていた。
そして、トラウマを克服し自らを増やすことが出来たトゥワイスは自らの強さを自覚し、連合の為にその強さを振るうことを決意するのである。

無限増殖 哀れな行進(サッドマンズパレード)

サッドマンズパレードには増やした対象を操れないという弱点がある。あくまで意志は自分自身のコピーなのである。そのため、自己の利益の為に動こうとすればたちまち過去のトラウマの再現となってしまう。
そうならなかったのはトゥワイスが「仲間を助ける」という意思で動いているからである。サッドマンズパレードはトゥワイスの純粋な仲間を思う気持ちがあってこその最強の必殺技なのである。滅茶苦茶かっこいいではないか。

「荼毘!!Mr.コンプレス!!助っトゥワイス参上だぜ~!!」
「愛と勇気が塗り潰してくれたよ!」
「敵が仲間ァ助けちゃおかしいか⁉」
「数少ねェ仲間だから大切なんだ!」

この分身トゥワイスたち一人ひとりのトゥワイスらしさ溢れる言葉の良さ。トガちゃんの場所に案内しようとしていたり、外典の氷で襲われた時も進んでMr.の盾になっていたり、水で襲われた死柄木を守っていたりとかなり仲間を守ることへの思いが強いことが伺える。
「これで少しは役に立つかな リーダー」
死柄木に会ったときに分身の放つこの言葉。今までずっと役に立ちたいと思っていたけれど上手く役に立てなくて、(役に立てなくてごめんな)(足引っ張ってごめんな)と負い目を感じていたトゥワイスがようやく放てたこの言葉。言えて良かったね。
眠たそうにふらついている死柄木に「おめーは俺に揺られて寝てろ」と言える分身の優しさ。本当にヴィランか?ヴィランなんだよなぁ......

「よーう てめーか⁉俺たちの居場所をぶっ潰してえバカ教祖ってのァ!?」

リ・デストロと相まみえた際にトゥワイスは上記のように言葉を放つ。トゥワイスにとって怒っている理由は大切な皆との居場所を壊す存在だからだ。
「いいかてめーら!てめーらは!コピーだ!!」ここのトゥワイスの割り切りが面白い。今まで自分とコピーを混合して混乱していた人間の言葉とは思えない思い切りの良さ。トゥワイスが「自分」を確立したからこそコピーと自分を切り離して考えることが出来たのだ。
......と思いきや。
「馬鹿言え 俺は本物だ」
どうやらコピー自身は自分が本体で作ったものが複製という認識でいることで自我を保っているようである。けれど、過去のトラウマとは大きく違う点がある。
「うるせェ!誰が何だろうと今は皆のためなら命を張れる 全員気持ちは同じだろ!」
そう、過去の自分のように自分が本物であろうとコピーであろうと目的は同じ。
皆を助けることなのである。

トゥワイスの弱点

一見最強に見えるトゥワイスだが弱点がある。リ・デストロはその弱点を見抜き言葉を発する。
「それ以上増やせば義爛を殺す」
そう、トゥワイス最大の弱点とは仲間を思う気持ちが強いゆえに仲間を傷つける可能性のある選択肢を取れないところにある。他の連合メンバーが1対沢山の状況で分があると判断したのにも関わらず、トゥワイスたちはそれには一切乗らず「待て!」と制止している。
これが死柄木がスピナーの「トゥワイスだけでいいんじゃねーか?」に対して「あいつは義爛を好きすぎる」と返した理由だ。死柄木はこうなることが分かっていたのでトゥワイス一行に任せずにタワーの下までやってきたのだ。

「おまえ 右手でアメスピを吸ってたよなぁ」

薙ぎ払われながらも分身を生み出し、義爛に駆け寄るトゥワイスは義爛の右手の指が本当に無くなっていることを嘆き「おまえ右手でアメスピを吸ってたよなぁ」と声を掛けるのである。
ここでNo.115のアンリーシュドを思い出してほしい。「俺の一日は一本のアメスピと観察から始まる」とある。この時にアメスピを吸っている手は右手だ。そして、そのアメスピを義爛が右手で吸っていると知ったのは過去の回想で描かれる「終わっちまった人間はどうすればいい」「信頼されることだ」「誰に」「仲間に」の場面だ。そう、トゥワイスを救った義爛の言葉の場面である。この時の光景をトゥワイスは鮮烈に覚えており、他でもないトゥワイスとしての始まりはその時に右手で受け取った一本の煙草からなのだ。この一言だけで義爛への情とそんな義爛を傷つけられた悲しみが伝わってくる。堀越先生凄すぎる......。

「…謝るな...!悪い事してねェ奴は謝んなくていいんだよォ...」

右手の指が無くなっていることを嘆くトゥワイスに義爛は「俺から情報がもれちまった 商売人失格だ」と詫びを入れる。それに対してのトゥワイスの返答が「…謝るな...!悪い事してねェ奴は謝んなくていいんだよォ...」なのである。義爛の漏らした情報が自分や仲間の傷つけ、窮地を招いた事実があるにも関わらず、責める言葉は一言もなくただ謝らなくていいと言っているのである。つまり、トゥワイスの言う悪い事とは悪意を持って仲間を傷つけることであって、義爛のように口を割らず耐えたけれども情報が漏れてしまったという過失は責めるものではなく悪い事ではないと認識していると理解できる。
けれど、トゥワイスは自分自身に対してはそのスタンスを貫くことは出来ず(役に立てなくてごめんな)と今まで心の中で謝りつづけていた。どこまでも純粋で仲間想いで、それゆえに仲間の役に立てないことに苦しみ続けた男の優しさが感じられるこのセリフが私は大好きです。

「生かす 絶対にだ」

視点は変わり、本体のトゥワイスがトガちゃんを作るために測ろうとしているところに場面は切り替わる。トガちゃんを測る役目を分身たちがやりたがり他の仕事を押し付け合っているシーンだ。このシーンは一見コミカルなシーンに見えるが「言ってる場合か!トガちゃんが死にかけているんだぞ! ......皆でだ!」という言葉から自分自身の王であることを辞めたトゥワイスの成長が垣間見える。
そして、その後のトガちゃんに対する「生かす 絶対にだ」の言葉には、覚醒前の「生きてくれ」という無力な願いとは対照的に覚悟に満ち溢れている。
再臨祭でのトゥワイスの成長物語を締めくくる言葉として相応しい。

寿司連合がかわいい

解放軍との戦いが終わり、念願だった寿司を食べている連合。亡くなったトガちゃん(コピー)の遺影に口でチーンとりんを鳴らしているトゥワイスが可愛い。その遺影いつ撮ったんだ……
トゥワイスの分裂は収まったかと思ったけれどかえって悪化しているのが面白い。分裂はトゥワイスの一部として根付いてしまったんだね……
スケプティックが呼びに来た時に「うるせー まだ寿司食ってるでしょーが!!!」とトゥワイスが怒るがお前は寿司一口も食ってないよな......腕を負傷していて食べれないんだから誰か食わせてあげてくれ......
ここも‟自分が”ではなく‟仲間が”まだ寿司食ってるでしょーが!!って怒っているのだとしたら仲間想いで可愛い。

さて、ここからトゥワイスの物語は新たな章に入る。ホークスとの邂逅だ。いや、ホークス視点的には邂逅というよりも必然の出会いといったほうが正しい。

トゥワイスとホークスの関係性

関係性にうつる前にトゥワイスのことを簡単に整理しておこう。
トゥワイスはイカレてしまい社会から排斥された過去を持っており、義爛から仲間から信頼されることで救われると教わった。その経験からイカレちまった人間に信頼される居場所を提供することでイカレちまった人間を助けると同時に自身も信頼されることで救われていた。
誰かと戦うことでも、誰かを危害から守ることでもなく、手を差し伸べて信頼される居場所を与えること。それこそがトゥワイスにとって自身に課した使命であり‟救う“ということなのだ。

「ホークスおまえすげー頑張るな!いい奴だな!!」

トゥワイスから見たホークスは超常解放戦線のために公安の情報を流すスパイ活動をしてくれる大役を任された人間でありながら、(実際は構成員を把握するためとはいえ)雑用などの手伝いもしてくれる”仲間の為に頑張っている人”である。しかしながら、信用されておらず自由に歩くことが出来なかったり行動を監視されている状態である。頑張っているのにも関わらず信頼されていないホークスを見てトゥワイスは自分だけは信じてあげなければ可哀そうだと思ったのだ。そのため、トゥワイスはホークスに近づき「(解放思想のことを)今度教えてくれ」と頼むのである。ホークスが脅威としての監視対象としてトゥワイスに近づいたように、トゥワイスもまた信頼してあげるためにホークスに近づいたのである。そのため、互いに引きあった彼らはたった3カ月の期間で急速に近づいていったのである。

「俺の居場所はあそこじゃない」

トゥワイスがホークスを信頼せざるを得なくなる台詞がある。

「かつて憧れ夢見た世界は」
「雁字搦めの鳥カゴでした」
「自由に飛びたい 俺の居場所はあそこじゃない

トゥワイスにとって自身に課した役割は手を差し伸べて信頼される居場所を与えること。目の前に仲間の為に働いているのにも関わらず信頼されておらず、表向きの所属場所も自身の居場所じゃないと語る人がいたらトゥワイスは信頼してあげて、自分が居場所になってあげるしかないのだ。
ホークスはトゥワイスが気の良い奴だと分かっていた。恐らく上記のセリフもこういえばトゥワイスは信頼せざるを得なくなると思っての意図的なセリフだろう。しかし、このセリフの切ないところはその言葉が心にもない嘘ではなく本心も含まれていたことだ。
公安の人間として汚れ仕事や結果のために犠牲に目をつぶるなど本心ではやりたくないような仕事も受け入れてきた。自分の夢みた‟皆を明るく照らせるヒーロー”とは違う、公安の言いなりである現在の自分自身が良い奴だと言える自信もなかった。エンデヴァーに憧れ夢見た世界は束縛だらけの世界だったわけである。だからこそ、自由に飛びたいという言葉は本心でもあったのだろう。

「仲間の役に立とうって人間に悪ィ奴はいねぇ」「一緒に好きに飛ぼうな」

そんなホークスに対する返答が「仲間の役に立とうって人間に悪ィ奴はいねぇ」「一緒に好きに飛ぼうな」なのである。仲間の役に立つために汚れ仕事であろうと身を粉にして働いているホークスを、自身が良い奴だとは言えないホークスを、まっすぐに見つめて仲間の役に立とうとする人間に悪い奴はいないんだと受け止めたのだ。そして、ホークスを縛る鳥かごからの解放を「一緒に好きに飛ぼうな」と夢見てくれるのである。この言葉の凄いところは一緒に好きに"飛ぼうな"であることだ。トゥワイスは翼をもっていないので飛ぶことは叶わないはずである。にもかかわらず、好きに飛ぶというホークスの夢を共に描いて寄り添ってくれているのだ。信頼している仲間の夢だから。
そんなまっすぐな言葉にホークスはいつものように笑いを返すことが出来なくなってしまう。最も警戒すべき相手であると同時に気の良い奴だからと取り入っていた、そんなホークスの表面上の信頼はどこまでも純粋でまっすぐな信頼で返されてしまったのである。この一連のやり取りでホークスに芽生えたのはトゥワイスに対する罪悪感と情だった。

トゥワイスとホークスの戦い

トゥワイスの悲痛な叫びである「どうなってんだよ」「なァ……!」から始まる二人の戦い。「どうなってるんだよ」に対するホークスの答えは冷静な状況説明であるが、努めて冷徹であたかも自分に言い聞かせて振舞っているように見える。そして、その言葉の中には自分がトゥワイスを利用した、裏切ったという言葉はない。トゥワイスの一番聞きたかったであろう「どうなってんだ」に対する返答であるにも関わらず、そのことに言及することを避けているのである。そして、そんなホークスへの呼びかけを遮るように羽を突き出すのである。まるでトゥワイスに裏切ったと言いたくないかのように。
ホークスの話で裏切られたと理解したトゥワイスはオーバーホールの時の自身の失態を思い出して"またやってしまった"と涙を流す。あの時も今回もトゥワイスが信用したのは居場所がない人間を誰かが信じてあげないと可哀そうだと思ったから。どこまでも優しい男だ
よ、トゥワイス。
ホークスはトゥワイスに「ありがとう」と返すが、トゥワイスから見たホークスの顔が冷徹にしか映っていないのが悲しい。次のコマのホークスの顔はあんなにも苦しそうなのにトゥワイスにはその苦しみが伝わってはいなかった。

「あなたは運が悪かっただけだ。罪を償ってやり直そう」「やり直せるように俺も手伝う」

トゥワイスの言葉を聞いたホークスはやり直そうと声を掛ける。あなたは運が悪かっただけだ、と。

「俺に落ち度はあったかな」
「あったとすればそうだな......」
「運を持たずに生まれたことだ」
(No.229 All It Takes Is One Bad Dayより)

この運が悪かったという言葉はトゥワイスは身寄りが無くなって話し相手を求めたときに自身の分身に掛けてもらった言葉でもある。他でもない自分自身の言葉ということはその時のトゥワイスが一番掛けてもらいたかった言葉だということだ。そんな言葉を掛けてもらい、ヒーローの仕事を逸脱した「やり直せるように俺も手伝う」とまでホークスは声を掛けたのだ。ホークスにとってトゥワイスは「良い人」だから。
しかし、その言葉は届かない。

遅すぎた言葉

「うるせぇ」「これがヒーローか?」
「何をやり直すっていうんだ なァ⁉」
「俺は俺のことなんかとっくにどうでもいぃんだよ」
 「あなたと戦いたくないんだ!分倍河原!」
「そりゃてめェの都合だろ」

自分を増やして孤独を癒していた時とは違い、トゥワイスは連合という信頼し、信頼してくれる居場所が出来ていた。そして、はぐれ者たちに居場所を与えることで救うことを自らの役割として認識していた。
ホークスは他でもないその救うという役割を踏みにじっておきながら、やり直そうと声を掛けたのだ。それゆえにこんなことをするのが人を‟救う”ヒーローのすることかと問いかけるのだ。イカレちまった人間に居場所を与えることで救ってきたトゥワイスとしての人生の何をやり直すというのかと問いかけるのだ。
トゥワイスにとって大切なのは自分自身ではなく敵連合という受け入れてくれた居場所である。そんな居場所を壊そうとする相手ならば戦うしかないのである。相手が戦いたくないと言っていたとしてもそれは"てめェの都合"でしかないのである。

「俺の魂はただ連合の幸せのために」

戦いたくないというホークスに対して、トゥワイスはサッドマンズパレードを繰り出す。この哀れな行進ーサッドマンズパレードーという名前がこのシーンにマッチしすぎていて辛い。いくらトゥワイスが分身を生成しようとホークスがそれを上回る速度で破壊されてしまう。けれども、トゥワイスは生成するのを止めない。トゥワイスの魂はただ連合の幸せのために存在しているので諦めるという選択肢も降伏するという選択肢もないのだ。
トゥワイスにとって勝ち目のない戦いを見せた後でホークスは
「ここまでやってきて絆されるようなミスはしない」
「おとなしく同行してくれればまだやりようはあったんだ」
「俺はあなたの事好きでしたし」
と声を掛ける。ホークスの言葉は本心でボイスレコーダーを用意している辺り、襲撃前に本気でトゥワイスのことを殺したくないと思い用意してきたのだと伺える。それほどまでにホークスはトゥワイスのことを気に入っていたのだ。
「俺の仲間はこいつらだけだ!土足で入ってくんじゃねえ!!」
けれど、トゥワイスには届かない。トゥワイスの居場所を侵害した時点でホークスはトゥワイスの仲間から決定的に外れてしまったのだ。
ここのトゥワイスが自分自身を作るよりも生成速度が遅い敵連合の仲間を作り出して見せつけているところに信頼を感じられてとても良い。そして、それが破壊されるという敵連合の行く末の暗喩のような次のコマのもの悲しさ。ホークスが敵連合の仲間の分身を躊躇なく壊したことでトゥワイスはホークスを屑野郎と罵るのだ。

「どっちも諦めないから…殺すしかなくなる」

連合の為にと必死で戦うトゥワイスにホークスは「諦めない人間がヒーローにとって最も恐ろしい」「経験上意志の固い人間は気絶してくれない」と語り、「どっちも諦めないから…殺すしかなくなる」と話す。が、その言葉とは裏腹にその後のホークスの行動はトゥワイスを殺す行動ではなく弱らせて生かす行動だった。荼毘に襲われた際も目的を最優先といって運び出そうとしている。この言葉はトゥワイスに語り掛けているというよりもホークスが自分に‟目の前にいるのは経験上気絶してくれない、殺すしかない相手である”と言い聞かせているようにも聞こえる。

「いつも そうだ 誰も彼も!あぶれた人間は切り捨てられる!」

「おめェらは...ヒーローなんかじゃねぇ」
「いつも そうだ 誰も彼も!あぶれた人間は切り捨てられる!」
「知らねぇだろ...!トガちゃんなんか…俺をハンカチで優しく包んでくれるんだ」
「なァ 知ってんのかよ...⁉二度目だぜ?これで二度目だ 俺 また皆を陥れた」
「トガちゃんは」「もう俺を包んでくれないだろうな...でもいい…」
「ただ皆の幸せを守るだけだ」


トゥワイスにとってヒーローとは自分のようなあぶれた人間には手を差し伸べずに切り捨てる存在であった。そして、敵連合はそんなあぶれた人間である自分を受け入れてくれ、しかも一度皆を陥れたのにも関わらず切り捨てることはしなかった存在であったと語る。中でもトガちゃんは分裂しそうになっていたところをハンカチで優しく包んで救ってくれた存在だと言っているのだ。
つまり、トゥワイスにとってのヒーローとは敵連合の皆のようにあぶれても手を差し伸べてくれる存在だと言っているのだ。
そんな皆を二度も陥れてしまったことでトゥワイスは敵連合の仲間が自分を見限るだろうと悟っている。けれど、それでもいいのだ。
他でもない、「敵名:トゥワイス」として受け入れ、自分を救ったのは敵連合だったのだからたとえ見限られようと皆の幸せを守り、報いることがトゥワイスにとっての使命なのだ。
ホークスは戦いが始まってからトゥワイスのことをずっと「分倍河原」と敵名ではなく本名で呼んでいるが、トゥワイスにとって敵連合での名前ではないその名前にもはや意味はない。ホークスとしては敵としてではなく一人の人間として、分倍河原に向き合っているからこその呼び方なのだろうがその名はトゥワイスにとって「とっくにどうでもいい」存在なのだ。

「暴れろ 皆が待ってるぜ」「ああ」「ああ!」

荼毘が手助けにやってきた時に荼毘が掛ける上記の言葉。この言葉でトゥワイスは敵連合のみんながまだ見限っておらず、待ってくれているのだと知ることになる。この「ああ」「ああ!」に込められた感情。裏切ったのにも関わらずまだ居場所を失くしていないということに対する喜びや敵連合の皆への恩義、まだやるべきことが残っているという決意。色んな感情の詰まった「ああ!」であると思う。
皆のもとに駆けだそうとするトゥワイスの眼中にホークスはいない。ホークスを倒すなどもうどうでもいいのだ。

皆を―――…!!守らなきゃあ!
守れトゥワイス!受け入れてくれた恩を 仇で返して終わるんじゃねえ!!

その思いだけが骨と肉を切られて本来暴れられるダメージではないはずのトゥワイスを突き動かしたのだ。本当に仲間想いの優しくて強い男だよ......。

Happy Life

運が悪かったなんて てめェの尺度でのたまうな

確かに俺の人生は落ちて落ちてだまされて 哀れで無意味に映っただろうな
自分を求めてさ迷って 自分より大事な仲間に恵まれた
これより最高な人生があんのかよ
死ねよ ホークス
"運が悪かった"なんててめェが決めるな
俺はここに居られて 幸せだったんだ!

これをHappy Lifeと呼ばずして何をHappy Lifeと呼ぶのか。
トゥワイスは運が悪かったと思っていたころとは違い、敵連合の皆に出会い、居場所を見つけた。自分が表れたことで笑顔で喜んでくれる仲間に恵まれた。二度も陥れてしまって、もう包んでくれない、許してくれないだろうと思いながらも最期まで謝りつづけた自分を、仲間のトガちゃんは抱きしめてくれた。必死に守ろうとしていたトゥワイスに「たすけてくれてありがとう」と言いながら。
これより最高な人生があるのか?守りたいものを守れて、信頼していた仲間に信頼されて、自身のミスで陥れてしまってもなお受け入れてくれて、ありがとうと言われる。これより最高な人生があるか?
こんな最高な人生を「運が悪かった」「やり直す」なんて言いながら手を差し伸べられたらそりゃ「死ねよ ホークス」と思うよな。お前なんかいらないぜってさ。
トゥワイスにとっては敵連合が大切な居場所で、生きる意味で、幸せだった。この敵連合との出会いはトゥワイスにとって運が悪かったなんてことは一切ない。
トゥワイスは"敵連合"に居られて幸せだったのだから。

本当にHappy Lifeだったか?

前項でこれをHappy Lifeと呼ばずして何をHappy Lifeと呼ぶのかなどと宣っておきながら、なんだこの表題はと思うかもしれない。が、説明させてほしい。Happy Lifeにおける独白が本体のものなのか分身のものなのか不明なのである。トゥワイスの二倍の能力は自分自身でコントロールできず、意志は独立している。それゆえにトゥワイスの分身の独白だった場合、本体のトゥワイスがそれを知らずに死んだ可能性もあるのだ。
トゥワイスが殺される場面はちょうど分身を出した直後のシーンで「確かに俺の人生は」から始まる独白もそこから始まる。分身の独白なのか本体の独白なのか分からないのだ。本体が死んでから分身が崩壊するまで時間があるとすれば本体が知らなかった可能性は高い。しかし、ラグが無い場合は本体が柵の間からその光景を見ていた可能性もあり幸せに死ねたとも考えられる。どっちなのか分からないのである。
同じ話の中でトガちゃんとMr.コンプレスをとらえたヒーローが「いかなる理由があろうとも社会に仇をなすのならばそれを許さぬのがヒーローだ」とあるが、トゥワイスも同じくいかなる理由があろうと社会に仇をなしたヴィランであることに変わりはなく、許されるべき存在ではない。今までのヒロアカの敵は無残に殺されたり、腕がなくなったり、拘留されたりと幸せな末路を辿ったものはいない。そう考えるとトゥワイスは実は幸せに死ねていないのではないかという可能性出てくる。
けれども、だ。主人公のデクが敵である死柄木にも救いの手を伸ばそうとしたようにヒーローもその在り方を変え、単純に被害者を助けるのではなく、本当に救いを必要としている社会的に排除されたものに救いの手を伸ばす方向へとシフトしている。ヒーローを救うものが誰なのか、ヴィランを救うものは誰なのかという話になったときに、トゥワイスのこの一連の話は一つの道を示しているとも考えられる。そう考えたときに、トゥワイスは救われていたのだと考えたほうがしっくりくるのだ。私が単純にトゥワイスが幸福に死ねたと思いたいだけというのもあるかもしれないが。

ホークスにトゥワイスを救うことが出来なかったのか

結論から言うと、遅すぎたから無理。速すぎる男の、遅すぎた救いの手だった。
トゥワイスは敵連合にどっぷりとつかりすぎてしまった。
そもそも、今のところヒロアカのヒーロー社会は保身で成り立っている。ヒーローも住民もそれを良しとし、当たり前のように社会の為に人がある状況を受け入れている。人はその人自身の為にあるべきであるにも関わらず、だ。そして、人の役に立てない害をなす人間は明確な線引きである‟敵”として見なされ当然のように排除される。ヴィランというものはそんな歪んだ世界で生み出された存在なのだ。
ヒロアカにおけるヒーローは安心して明日を過ごすことの出来ないような、犯罪に手を染める一歩手前の本当に困っている人を助ける存在ではなく、単に被害者となった人を加害者をやつけることで助けるという構図に近い。そのため、ヒーローが飽和してすぐに犯罪者が捕まるような状況でも犯罪率が高いのだ。道を踏み外す1歩手前の人に手を差し伸べる人がいないから。
トゥワイスはそんな状況に気が付いており、犯罪に手を染めるようになるいわゆるイカレちまった人間に手を差し伸べて居場所を与えることを自らのやるべきこととして認識していた。排除されたものが集まるヴィランの社会で役割と居場所を見つけ、満足していたのである。
そんなところにホークスのようなヒーロー社会の、自身を排除した社会の人間がやってきてその世界は間違いだと声を掛けても居場所の否定にしかならない。どんなに手を差し伸べても、その手には不信しか宿らないのだ。先に自身を排除してきたのは他でもないヒーロー社会の方であるからだ。

トゥワイスの生き方が与えた影響

トゥワイスの死にトガちゃんはヒーローに対して「何を以て線を引くのでしょう?人を助けるのがヒーローなら仁君は人じゃなかったのかな... 私のことも殺すんでしょうか」と社会に疑問を投げかける。
ホークスはトゥワイスに対して「追い詰められた時自由を得た時って人の性が表れますよね。だから分倍河原は良い奴でした。人の役に立とうと必死だった。」「俺もそうありたい」と語る。
トゥワイスの居場所を作ることで人を助けるという生き方は関わった人にとって決して間違ったものではなく、ヒーローの精神性と同等の生き方であったことが分かる。
私もまた居場所となることで人を助けるという生き方に感銘を受けた一人だ。勝って救うでも、救って勝つでもなく、ただ手を差し伸べて信じて心に寄り添う。
そういう形で人の役に立つトゥワイスのように私もありたい。

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