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2019 J2リーグ第17節 山形vs甲府 〜言う事言ってぶつかって〜

1.はじめに

 シーズン前半戦最大の山場と言っても過言では無い、6月デスロードの初戦・甲府戦。山形首位、甲府3位と順位も近いため、勝利出来れば実質6ポイントマッチとなる試合です。
 甲府がウタカやドゥドゥをはじめとする個でぶん殴れる強力なFWを擁している一方で、山形はDFの要である栗山の負傷欠場により、先週加入したばかりの野田が先発というスクランブル状態。
 上位対決4連戦を迎えるに当たり、これまでの主力に怪我人が相次ぎ満身創痍のチームにあって、代わりに出た選手達がこのチャンスを掴み取れるか。また主力不在のチームで難敵甲府相手にどれだけの戦いが出来るのか。まさに総力戦で臨んだ一戦となりました。

2.感想文

2−1.スターティングメンバーとシステム

両チームの布陣は、
山形:3−4−2−1
甲府:3−4−2−1

で試合開始です。

甲府も山形と同様3−4−2−1を敷いてくる為、GK以外の全てのポジションで噛み合うミラーゲームとなります。従って、システム上のミスマッチが生じないので、
①どの場所でどう優位を作り出すか
に注目して見てみました。

2−2.前半

甲府は、

攻撃時:
・自陣からのビルドアップでは、GKが加わる場合は武岡と小出が開いて中央にGK+DH2人と3−2の形。その際リマは左サイド前方に上がって、左サイドで数的優位を形成。GKが加わらない場合は、最終ライン3人+DH2人で3−2の形
・両WBは高い位置を取り、山形WBの重心を下げる
・ロングボールで山形WBの裏のスペースを狙う(主にシャドーを走らせる)

守備時:
・基本的に5−4−1の形でブロック形成
・山形の自陣ビルドアップ時、前線3人+DH2人でハイプレス実行、ショートカウンターを狙う。その際、ボールサイドのストッパーが1列上がり、両WBが最終ライン付近まで下がって4−1−5の様な形

対する山形は、

攻撃時(甲府の守備に対して):
・最終ライン3人+DH1人で菱形形成、もしくは最終ライン3人+DH2人の3−2で自陣ビルドアップ開始
・両WBが高い位置を取り、相手WBの重心を後ろに下げる。3−2−5の様な形
・DHの列移動や列×レーン移動で数的優位やプレースペースを確保
・ロングボールで甲府ストッパーやWBの裏のスペースを狙う

守備時(甲府の攻撃に対して):
・甲府同様、基本的に5−4−1でブロック形成
・5−4間をコンパクトに保ち、最終ラインでの競り合い後のセカンド回収、またプレスバックによるボール奪取
・1トップ阪野はどちらかのサイドにボール誘導し、サイドで狩場を作る。

 試合開始直後、両チーム共先ずはロングボールで相手DFラインの裏を狙う動きを見せてきます。
 甲府はドゥドゥに山形WB裏を狙わせる形、山形は阪野に敵陣深い所でボールを収めさせ、そこから展開していく形。8分には、甲府右サイドでのFKから、山形ストッパーの裏を狙うドゥドゥにクイックリスタートでボールを配給され、ドゥドゥに櫛引と1vs1の状況を作られてしまいます。櫛引のナイスセーブで事なきを得ましたが、切り替えの早さと徹底した裏狙いから決定機を一つ作られてしまいました。
 
 対する山形は、10分前後から、ショートパスでのビルドアップにシフトチェンジします。甲府1トップのウタカがそれほど守備をしてこないので、甲府2列目の前(ウタカの脇のスペース)でDHがボールを持つ事ができ、ここを起点に攻め込みました。
 その際、11分のシーンの様に、
・本田が柳に横パス→柳に甲府左WBを食い付かせる→本田は甲府左WBの裏を狙って駆け上がる(リマを食い付かせる)→同時に南が少し降りて甲府2列目〜3列目間でフリーの状態を作る(※前述の山形攻撃時の図参照)
 この時南にパスは入れられませんでしたが、その直後に本田が甲府2列目〜3列目間に留まる事で、このスペースで数的優位を作り出すことに成功しました。細かい事ですが、相手の出方に対して、機を見た列×レーン移動で数的優位やプレースペース確保出来ていたのは、一つチームが成長している証だと思います。
 15分の決定機も、2列目〜3列目間でのスペース確保からの縦パス呼び込み、サイドへの展開からWB裏のスペース狙う、逆サイドのWBがファーサイドへ詰めるといった、今までチームが積み上げてきた狙いが詰まっており、素晴らしい崩しでした。

 すると、甲府は前線3人+DH2人でハイプレスを仕掛けて山形のビルドアップを妨害し、ショートカウンターを狙ってきます。(※前述の甲府守備時の図参照)
実際、19分にはビルドアップミスからウタカにボールを奪われ、ドゥドゥに展開されて決定機を作られてしまいますが、ここでも櫛引のセーブが光り、かろうじて失点は免れました。

 ハイプレスで次第に前のめりになってきた甲府に対し、山形は最終ラインからロングボール一発で甲府DFラインの裏を狙っていきます。野田から裏を狙った井出へとボールが渡り、シュートまで持っていくシーンも作り出す事が出来ました。
 これにより、狙い通り甲府の重心を多少後ろへ下げることに成功し、前線からのハイプレスが来なくなった所で、山形は再びビルドアップを試みます。今度は最終ライン3人+本田の計4人で菱形形成、中村は1列上がって甲府2列目〜3列目間に入る事で、井出や南と共にパスコースを作ってボールを前進させようとしていました。(※前述の山形攻撃時の図参照)
 39分、ドゥドゥ負傷により宮崎と交代し、その宮崎にロングボールのクリアミスからあわやというシーンを作られてしまいますが、結果としてスコアレスドローで前半を終えました。

 前述の様に、前半は互いに相手の出方を見て狙いを変えて攻めに転じるという、非常に見応えのある45分でした。

2−3.後半

後半開始から、山形は前半負傷した井出に代えて坂元を投入。
後半開始直後、山形はロングボールで甲府DFラインの裏を狙う形を出していき、これを布石とし、先制点に繋がるCKの一つ前のシーン(48分のシーン)を作り出します。
・熊本のクリアを南へ落とした後の阪野の裏狙いのランによって甲府DFラインを押し下げた場面
・中村が中央でボールを持って前を向いた際、坂元がリマに裏を狙う素ぶりを見せつつ、降りて距離を取り楔のパスを引き出した場面
・最初の柳のクロスが逆サイドに流れ、それを拾った山田から南→本田→中村と渡った際、中央で阪野が甲府CB小出の背後にポジショニングして裏を狙う素ぶりを見せつつ、素早く小出の前に入って楔のパスを引き出した場面
これらがあって、縦方向→横方向の展開からCKを獲得するに至りました。
その後、山形は再びショートパスでビルドアップする形にシフトチェンジして行きます。

 一方甲府は、前半の様にロングボールで山形DFラインの裏狙いではなく、まず山形DFラインの前に位置取りするウタカに縦パスを入れ、そこからDH等に落として裏を狙うシャドーに展開するといった形(3人以上が関わるワンツー「レイオフ」の様な形)を出してきました。さらに甲府も、この形を囮にし、ウタカ脇のレーンから宮崎が山形DFラインの裏を狙う展開から、同点弾を叩き込みます。また、その間にも、甲府右サイドの田中と橋爪のポジションを入れ替え、山形側の相対する選手の対応を迷わせる「ギャップ」を作り出そうとする動きも見られました。

 64分のPKによる山形勝ち越しゴール、67分の甲府・橋爪→佐藤(洸)の交代、75分の山形・阪野→バイアーノの交代の後、一進一退の試合展開のまま迎えた80分の甲府・リマ→森の交代。この交代で、甲府は4−4−2(実際は両SHとDH1人が高い位置まで上がって4−1−5の様な形)にシステム変更を行います。甲府の前線に佐藤というターゲットマンが居る事、そして前線の人数が5人に増えた事で、山形の2列目と3列目の重心が後ろに下がってしまい、甲府のDFラインへのプレス、そしてロングボール(クリアボール含む)の競り合いを全てバイアーノが引き受ける形となってしまいました。2−1で勝っていて、このまま逃げ切ろうという状況でのバイアーノのプレー選択にも問題はありましたが、重心が下がり過ぎて甲府最終ライン(特にSB)へのプレスが掛けられず、ほぼフリーでクロスを上げさせてしまった事が、試合終了直前に追い付かれてしまった原因と思われます。(勿論、同点弾を叩き込んだ佐藤(洸)のマークの外し方やヘディングシュートが秀逸だったのもありますが)

 最終的に、狙いとそれに対する応酬が随所に見られた好ゲームは、2−2のドロー決着となりました。

3.最後に

 80分頃までは、甲府相手に良い内容でゲームを進められただけに、アディショナルタイムで同点弾を喰らってしまったのは残念でなりません。この辺のゲームの進め方は、依然として大きな課題のままですね。
 次節は絶好調の首位・水戸戦。まさか山形と水戸で首位攻防戦をする日が来ようとは夢にも思っていませんでしたので、個人的にすごく感慨深いものがあります。週末は是非とも水戸に勝利して首位に返り咲きたいものですね。
 それでは、最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

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