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【ネタバレあり】「科捜研の女 -劇場版-」の解説と感想

令和3年9月3日に公開された「科捜研の女 -劇場版-」を見てきました。

感想と併せて科捜研の女という作品について語ってみたいと思います。

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科捜研の女とは

科捜研の名を世に広く知らしめた功績の大きい「科捜研の女」とは、1999年に放送開始され、長きに渡って人気を博している「科学捜査」をテーマとした日本のドラマシリーズです。
アメリカの大人気科学捜査ドラマシリーズである「CSI: 科学捜査班」(2000年~)よりも先に始まっていると知ったときはとても驚きました。

概要はWikipediaでも見てもらうとして、今回はその初の劇場版が公開されたため、早速見てまいりました。

筆者:科捜研の女は年に数度だけ見る程度の化学系科学捜査オタク
   科捜研の女よりCSIシリーズの方が好き
   CSIはベガス・マイアミ・ニューヨークをほぼ全て見た

映画の感想

面白かったです。
「科捜研の女」の劇場版として、らしさが詰まった作品だったと思います。

今までの登場人物が再集合するのは定番ですが熱い。

ストーリーで取り上げる題材にも時勢を汲んだ内容が組み込まれており、そういった社会派な面も面白かったです。

研究中の腸内細菌の「自然由来だから安全」という主張と「未知の危険性」、重要な基礎研究の予算を確保するために「わかりやすい」研究をメディアを使って宣伝する科学者、科学者と警察の関係性、警察の任意捜査と違法収集証拠、などなど。

そういった要素を抜き出してみれば良いシーンや良い要素は多くありました。
これらの要素も劇場版が面白かった理由に入っています。

科学捜査の穴

なお、科学捜査部分にツッコミどころが多くある「らしさ」も健在でした。
特に科学捜査のオチの部分はあまりに……

服に付着した保存液の微量成分を明らかにしたい(わからんでもない)

微量成分と言えばSPring-8!!!(???)

だ液のタンパクだった!(???)

DNA型で犯人特定!(???)

科捜研の女にSPring-8を絡ませたいという意図と、「SPring-8で微量のタンパク質結晶の構造解析ができる」ことからこうなったと予想されますが、論理の飛躍が凄まじいことになってしまっています。

SPring-8で微量分析と言ってまず思い浮かぶのは、放射光蛍光X線分析による微量の重元素の分析です。
シリコンウエハ表面表面100μm2あたり銅4個、ニッケル4個なんてものもヒットしました)
この手法は非常に検出感度が高いことがわかります。

しかしながら、元素分析とタンパク質の分析は異なります。
というか、タンパク質の単結晶構造解析はあくまで構造解析を目的としたものであって、微量タンパク質の検出を目的としたものではありません。タンパク質の単結晶構造解析には、まず目的とするタンパク質の精製と結晶化が必要となりますが、目的とするタンパク質によって最適な条件が異なるため、今回のような、そもそも何が入っているかわからない状態のものに適用するものでは全くありません。
またそもそも「微量」のタンパク質単結晶構造解析が可能なのは確かなのですが、この「微量」は放射光を用いない単結晶X線構造解析と比べて「微量」という意味であり、微量元素分析の「微量」とはオーダーが異なります。

このシチュエーションであれば、SPring-8での分析よりも質量分析を用いたタンパク質の同定法を用いるのが適当な手段の1つかもしれません。
タンパク質を酵素消化し、液体クロマトグラフィー質量分析を用いることで、含まれる微量のタンパク質を同定することができます。
ヒトだ液の既知の主要なタンパク質であれば、データベースにも登録があるでしょうし、量さえ足りていれば最も適した手法だと思います。(ただし、前処理で細菌を除いた上で、溶液中の細菌由来のタンパク質が邪魔にならない程度のタンパク量が入っている必要がある)

これ以外にも、なんとなくOKで進んでるけどちょっと怪しいなって内容もあって途中まで書きかけたのですが、どうにもややこしい内容を含んでいたりするため今回は割愛します。

ちなみに、実際に今回のような服に付着した保存液から微量のだ液のDNA型をやろうとすると、服を着ている本人のDNA型が大量に出てなかなか難しいんじゃなかろうか、という気がします。

「法医研究員」榊マリコ

さて、そんなツッコミどころも含めての「科捜研の女」ですが、よく考えれば当初から現実の科捜研とは別物の科捜研の女として描かれていました。

マリコさんが作中でやる内容と、それが実際は誰の仕事なのかまとめてみます。

事件が起きたら呼び出されて現場臨場
→ 刑事(警察官)
死体の検視
→ 検視官(警察官)
検死
→ 警察医など(医者)
指紋足跡DNAその他証拠の採取
→ 鑑識(警察官)
関係者に話を聞く
→ 刑事(警察官)
解剖の補助
→ 法医学教室の臨床検査技師など、警察官は立会い
一般の臨床生化学検査
→ 法医学教室などの臨床検査技師
細菌の検査
→ 法医学教室などの臨床検査技師ほか(科警研、衛生研究所なども)
だ液や精液の検査
→ 科捜研!
DNA型鑑定
→ 科捜研!!!!!
関係者に証拠をつきつける
→ 刑事(警察官)
犯人を追い詰める
→ 刑事(警察官)

つまり、榊マリコは刑事7割と法医学者2割と科捜研1割でできています。
元々そうでしたが、特に今回の劇場版は細菌の感染が関わるところで法医学要素が非常に多かったですね。

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もしここに科捜研の法医を志望する人がいたらこれだけ覚えて帰ってください。

「科捜研の法医は法医学をやらない」

科捜研法医の主業務はDNA型鑑定と体液等ヒト試料の生物学的検査です。
マリコさんは特殊な存在なので、真面目に参考にしないように!!


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科捜研情報noteの記事一覧
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