時がきたら働く日記 17

無職82日目

10時過ぎに起床。昨夜あげたストーリーに、いくつか返信がきていた。大学の先輩から「東京にいるなら飯に行こう」と来ていたので、「飯行きます」と返信。
寝坊した日の罪悪感はいつになっても慣れない。大人になってからは、特に頻繁に寝坊するようになった。寝坊と言ってもこの日は特に用事がなかったので誰に何を言われることもないのだが、起きた瞬間の小さな絶望感と長時間睡眠の疲れがベッドに身体を縛りつける。
小さな箱の中で足を崩してペタンと座り込み、前日夜に用意しておいたスカートに着替えた。柄が可愛いので気に入っているスウェット素材のスカートは、生地が重くて身体にまとわりつく。足の位置を変えようと膝を少し動かすだけでも面倒。
昨夜シャワーを浴びたが、髪の毛だけでも洗いたい気持ち。

なんとか化粧まで済ませたが、一度ドミトリー内に戻るともう立ち上がれなかった。昨日から続く東京のジメジメした空気と、都知事選の応援演説が重くのしかかる。
PCを開けば、少なからずやらなきゃいけないことが思い出される。自分は何をするにも億劫でやる気のない人間だから、メッセージアプリのアイコンににきびのようについている赤いボタンにもビビってしまう。一つひとつ返信をしながら、「東京で過ごすってこんな感じだったな」と思い出す。釧路や函館で過ごしていても東京で過ごしていても、いつもやることは大体同じなのだった。

仕事がひと段落。せっかくなので階下のカフェで遅めの昼ごはんを食べることにした。こういう店では、A4用紙に「オススメ!」と書かれたメニューもないから、何を選んだらいいのかわからなくなる。あまり食事に興味がなく、気に入れば何日でも同じメニューで済ませてしまう自分は、こういうときだけ即決力がある。グリーンカレーを選んだ。
座り心地が良くなさそうな椅子でコーヒーを飲みながら作業する客たちは、ここのゲストハウスの宿泊者なのだろうか?黒か白で服装を統一している。そういう信仰なのかもしれない。

今朝化粧をしたあと、アイブロウペンシルの残りの芯が少なくなっているのに気づいたので、原宿にあるいろいろなブランドの化粧品が売っている店に向かう。外はまだ雨が降っていた。なんとなく顔が痒い。
色々と欲しいものはあるのだけれど、Macの小さいカラーマスカラとアイブロウペンシル、フィックスミストを買って外に出た。新宿へ向かう。
新宿駅は好きではない。単純に、めちゃくちゃ迷う。この設計はおかしいと思う。
都知事選演説。山本太郎が新宿駅で演説をしていた。支援者からチラシを受け取る。5分ほど聞いていたが、新宿のびっくりドンキーへ。
大学時代の友人がびっくりドンキーが好きで、東京に来たから会おうというと、いつもびっくりドンキーになってしまう。もっと東京らしいものが食べたい。

以前その友人からLINEが来て、「この服装で会社に行くの、どう思う?」と相談を受けたことがある。会社に行っていない自分に訊くのはおかしいと思いながら画像を開くと、黄色と黒の斑点がチラチラと目に悪かった。ヒョウ柄のゆるいパンツを履いている彼の足元が見え、「これはどうだろう……」と思う。自分的にはオーケー。でも社会的にどうかと言われると、わからない。アニマル柄の中でも、ヒョウ柄はかなりうるさく見える。しかもオーソドックスでありもっともパンチのあるカラーリングの黄色×黒である。これは会社の先輩にも怒られるかもしれない。
「わかんないけど可愛いよ」と送信すると、「そうだよね〜」と満足そうに言っていた。褒められたかっただけかもしれない。
「私もヒョウ柄のスカート持ってるし」と言うと、「お揃いじゃん!」と返信。「お揃いではないと思うけど……」と返した。

今日はその友人ともう一人を含め三人で食事。そのもう一人の友人も、割と服装がうるさい。ヒョウ柄パンツの彼は、私に「今日ヒョウ柄のスカート履いてきてね」と言っていた。ということは、たぶん、彼はヒョウ柄パンツでやってくるはずだ。びっくりドンキーに着いたので待合で待っていると、湿気で髪の毛が膨張したヒョウ柄パンツの男がやってきた。
「ヒョウ柄〜!」とニヤニヤしながら言うので、「ヒョウ柄だね」と返した。
もう一人の友人はどんな服装で来るのだろう、と思っていると、「あいつ、どんな服装で来ると思う?」と訊かれる。「さすがにヒョウ柄ではないでしょ」と言っていると、髪の毛をぺたんとさせた小柄な女がヒョコヒョコとやってきた。
「雨の中お疲れ様」と声をかける私を遮るように、ヒョウ柄パンツが「なんか俺らの服装で気になるところない?」と尋ねる。
「え、なんだろ」
「下」
「え、下?」
「ヒント出し過ぎじゃない?ほぼ答えじゃん」
「わかんない」
「わかんないのかよ」
結局答えを当てられず、今日は二人ともヒョウ柄を身につけているのだ、と種明かしをした。それを聞いて、彼女も「私もなんかヒョウ柄ないかな」と俯いて自分の身体をキョロキョロと探索し始めた。
「いや、ないでしょ。あったらすごいよ」と言っていると、彼女はポケットからイヤリングを取り出して、「ちょっと待って」と笑った。
「ほら、ここ」
差し出されたイヤリングを見ると、台座部分にヒョウ柄のパーツがくっついていた。

びっくりドンキーを出ると、雨が上がっていたのでホッとする。来るときは傘をさしていたので気づかなかったが、周囲のビルのネオンが思いの外ビビッドで驚いた。夜なのに、めちゃくちゃ明るかった。東京ってこんな感じだったっけ?
あまりにもネオンがうるさいので、観光客のふりをしてヒョウ柄のボトムスの人間と写真を撮った。わざと普通のポーズをして、浮かれた金持ちのふりをする。

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