時がきたら働く日記 13

無職62日目

引越しの日。いつもより相当朝早く起床するも、私以外の家族は皆すでに起床していて気合が削がれる。自室に残った荷物を、段ボールにどさどさと積み上げていく。重要そうで実は重要でない書類の捨てどきがわからない。
朝ごはんもそこそこの我が家に、引越し業者がやってくる。4LDKの一軒家に、大の大人が10名ほどいるとやや狭苦しい。私の部屋にも、女性の作業員が一名やってきた。制服を着こなし、キリリとした表情でグローブをはめている。私より身長が15センチほど小さく見える。ぐるりと私の部屋を見回すと、「これ、搬出していいですか」とそばにあった棚に手をかけた。
「あ、手伝います」
とそばに寄ると、いや、と制された。
「お客様は、まだ残っている作業を」
封が開いたままになっている段ボールを一瞥して、作業員は「うんしょ」とも言わずに棚を持ち上げて階段を降りていった。

私の部屋にあるタンスは、かなり古いものらしい。
3人の作業員が、タンスを見てうーんと言っている午前10時である。
「これ、降ろすとなると棚を全部出さなきゃいけないですね」
しかし、タンスはウォークインクローゼットにすっぽりおさまっている。
「いったい、どうやって搬入したんですか?」
作業員は爽やかに笑うが、額の汗が玉になって浮いていた。

なんとかずらされたタンスの裏には、埃が塊になって群がっていた。埃に触ると手がかぶれるが、ふわふわして気持ち良さそうだったので手に取って眺めた。とても柔らかくて食べたら唾液と混ざって消えちゃいそうだったが、掃除機を引っ張ってきてすべて吸い込んだ。タンスの裏からは、なぜかDOTAMAの新しいアルバムのチラシも出てきた。新しいアルバムと言っても、3年も前だ。

無事に今まで住んでいた家の片付けが済んで、新しい家に行くことになった。2時間くらいの引越し作業で、家はすっからかんになった。
新しい家はさらに海の近くにあって、大きな陸橋の横を抜けたところにある小さな町にあった。廃業した銭湯や、朝早くから動いている工場がある町だ。

大きな家具をずらしたり持ち上げたりしていると、あっという間に夕方になった。椅子もテーブルも変な位置にある家で、縮こまりながら夕飯を食べる。

新しい家の新しい部屋に段ボールを突っ込んでいく。歩ける場所が狭くて、身体をぶつけて痛い思いをする部屋が出来上がった。

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