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映画は何のためにあるのか? キネ旬一位は『恋人たち』と『マッドマックス4』!

 キネマ旬報の2015年映画ベスト10が発表された。邦画は『恋人たち』、洋画は『マッドマックス4~怒りのデス・ロード』が一位に選ばれた。(このあとネタバレ満載です) 映画は何のためにあるのか?例えば高度成長期で家にテレビが少なかった時代には最大の娯楽だったことは間違いない。そういう意味で一作目から二十七年経った今、最新作が公開されたマッドマックスは人々の期待感と遊び心を満たした。昭和の時代のように男性性を鼓舞する従来の内容ではなかったが、男も女も新しいマッドマックの解釈をあちこちで語った。コアなファンは広がり、ウォーボーイズを真似たパフォーマンスを翻訳家・山形浩生がNHKニュースで繰り広げるなど、公開直後から年末まで話題は尽きなかった。一年を通じて使える最高のネタだったといえる。 ある一面では今や映画館は逃げこみ部屋だという。

 「泣ける」か「怒れる」でないと映画はヒットしないそうだ。 『恋人たち』では、非正規社員で保険が払えず、通り魔にあっても裁判では無罪にされ、技術が高くても社員にはなれず、ネットワークビジネスに騙され、LGBT偏見にあう人々が描かれる。どれも理不尽な仕打ちにあうが、一方で立ち回り上手な人間たちの正義が見え隠れする。大円団なラストが待っているわけでもない。「泣ける」し「怒れる」けれど、後味の悪い映画だともいえる。だがこれが今の現実。ピザーラの技術コンテストをテレビ番組で放送していたが、ピザの作り方コンテストで社内一位になった人は、バイト歴十二年の中年男性。主人公同様に技術は高くても社員にはなれはしない。試しにこの男性に取材を申し入れたところ、広報から丁重なお断りメールをいただいた。理由は、「本人がでたくないと言っている」だそうだ。 テレビに出ちゃってるのに、さすがに本社からの圧力には抗えない。 それにしても邦画洋画、どちらの映画も、抑圧され続けた人々の同じメッセージを伝えている。そして男が一人で戦って勝てる時代ではないことも。 『マッドマックス4』も女が人類を救い、戦う。男は女をフォローするか、旧態依然の束縛を強制するだけ。救済されたいのは抑圧された人々だが、映画的な救いはすべて女性の力に丸投げである。男性はむしろその抑圧に順応し忠誠を誓う。認められたいと無駄に頑張るウオーボーイズはサラリーマンそのものだ。 

 抑圧されながらも矛盾に満ちた世界を生きていく。つまりこのふたつの映画は同質なのだ。 マッドマックスネタでふざけて、この世界から逃避してみてもいいだろう。すべては抑圧された社会に住む人々の「やりきれない気持ち」の表れなのだ。それでも邦画一位に『恋人たち』が選ばれたのは一石を投じたといえる。パートで二十五万円稼げるとかいう虚構に生きる政治家たちが、現実を見てくれることを祈るばかりだ。 

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