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【海のナンジャラホイ-16】ヒジキは黒くないけどやっぱり変わってる

ヒジキは黒くないけどやっぱり変わってる

惣菜の定番のひとつであるヒジキの煮物の中のヒジキは真っ黒いため、ヒジキは黒い海藻だと思われがちです。でも、海に生えているヒジキの色は、じつは明るい茶色というか緑がかった茶色というか黄土色っぽいというか、そんな色です(図1)。

1:岩手県山田のヒジキ(満潮時)

潮が満ち引きする岩磯で、潮が引ききった時に干上がるあたりの高さに生えています(図2)。

2:静岡県下田のヒジキ(干潮時)

春先に磯遊びする親子が、潮だまりで魚やカニを追い回す時に、そのすぐ近くに生えていたりするのですが、それがヒジキだと気付く親たちは少ないと思います。ヒジキは多年生の海藻で、冬から春にかけて成長し、大きさが2メートル近くになるものもあります。繁殖期が過ぎると仮根部を残して流れてしまいますが、夏を過ぎ秋が巡ると、同じ場所から新たな藻体が伸びてくるのです。
磯に繁茂したヒジキを春の大潮などの干潮時に刈り取るのがヒジキ狩りです。刈り取ったヒジキは、そのまま干してから鍋で煮て、それから干す場合と、まず煮てから干す場合とがあり、いずれの方法を採るかは地域で異なっています。鍋で煮られたヒジキは、明るい茶色からまず緑色に変わり、これをさらに長く茹でて干すと黒色に変わるのです。黒い色のもとは、ヒジキに含まれていたタンニンです。
ヒジキの分布域はとても広くて、北海道南部から本州・四国・九州に加え沖縄までなのです。はじめは1860年に伊豆下田の標本をもとにCystophyllum fusiforme として新種記載されたのですが、1931年にはホンダワラの仲間に入れられて、Sargassum fusiforme と名前が変わったり、「いやいや、ホンダワラの仲間とはちょっと違うよ」ということで1932年にはHizikia fusiformis と異なる名前が付けられたりしたこともあります。私はずっとこのHizikia fusiformis という名前に馴染んでいました。
ところが、21世紀にさしかかって遺伝子解析の技術が進んできて、ヒジキと他の海藻類との類縁関係を客観的に調べられるようになりました。その結果「やっぱりホンダワラ類に近かったよ」ということになって、Sargassum fusiforme が学名として使われるようになったのです。図鑑などで長く親しんでいた学名が変えられてしまうというのは、ちょっと残念な心もちだったのを覚えています。
ヒジキが属しているホンダワラ類は、このブログシリーズの第6回目に登場した海藻です。アカモク・ヤツマタモク・ノコギリモク・ヨレモク・・・などSargassum属の海藻がヒジキの親戚だということになります。でも、その中でもやっぱりヒジキは変わり者です。多くのホンダワラ類は干上がることのない海中に生えるのですが、ヒジキの生える場所は干潮時に干上がる場所です。波当たりの強い場所に生えているせいか、体はムチムチと弾力があって、タフな感じがします(図3)。

3:宮城県石巻のヒジキ(満潮時)

海中にすむ他のホンダワラ類が、薄くて鋸歯状の葉や柔らかでしなやかな体を持つのとは対照的です。ホンダワラ類には体を海中で立たせるための浮きがあります。ヒジキにもありますが、棍棒状の葉と区別がつきにくい地味な浮きです。ヒジキの形をみると、やっぱり他のホンダワラ類とは形も生態もかけ離れて違うので、Hizikia fusiformis という名で区別しようとされていたこともよくわかります。「どこが、ホンダワラの仲間なんじゃい!」と思っていました。

ところが、環境省の調査で、ヒジキの分布南限である沖縄の中城湾の泡瀬の岩礁に生えているヒジキを見た時のことです。そのヒジキは、全体的に見れば間違いなくヒジキであるのに、葉のあちこちにギザギザの鋸歯が見られて、見かけは明らかにホンダワラの仲間でした。それは、私が Sargassum fusiforme という学名に納得した瞬間でした。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。

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