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【海のナンジャラホイ-17】ワカメとヒジキと黒船と

ワカメとヒジキと黒船と

海洋生物の調査をしていて、なんだか見かけたことのない生物を見つけて、よく調べたら過去に誰も記録していない生物(未記載種)であることが判明した場合、論文発表してこれを新種として記載します。その時に、新しく作る種(しゅ)の基準になる標本はただ1つだけです。この標本をホロタイプ(正基準標本)、その標本の採れた場所を「タイプ産地」と呼びます。

さあ、ここで問題です!
ワカメとヒジキのタイプ産地はどこで、ホロタイプはどこにあるでしょう?

答えです・・・
これらの海藻のタイプ産地は、静岡県の下田です。なぜかというと、これには、米国からの一連の黒船来航が関係しているのです。
研究者が訪れたことのない土地を探検すれば、当然そこには高い確率で未発見の種類がゴロゴロしているはずです。米国からの黒船の来航の時は、西欧の研究者たちにとっては、日本という未踏の地を探検調査する絶好の機会であったわけです。そのため、黒船のペリー艦隊が2度目に日本に来航した1854年の翌年、John Rodgers 艦長が指揮する北太平洋探検隊一行が、下田沿岸にも訪れて植物調査を行ったのです。そのときに Charles Wright 博士が採集した海藻をアイルランドのダブリン大学の William Henry Harvey が研究して、新種として記載したわけです。

もちろん、日本では昔から両種の海藻は「ワカメ」と「ヒジキ」として食べられてきたわけですが、これらの名前は「和名」で、Harvey が 1860年に発表した Alaria pinnatifida というのがワカメに与えられた最初の学名で、その後 1873年に Willem Frederik Reinier Suringar によって Undaria 属に移されたために、Undaria pinnatifida になったのです。ひじきについては、前回述べましたが、やはり1860年に Harvey によって Cystophyllum fusiforme という学名で発表され、その後 William Albert Setchell によって Sargassum 属に移されて Sargassum fusiforme になったのです。

そのようなわけで、ワカメとヒジキのホロタイプは、Harvey が研究を行なったアイルランドのダブリン大学にあるトリニティ・カレッジの標本庫に保管されているということです。日本でこんなに馴染みのある海藻なのに、新種記載される元になった標本が、国内でなくてアイルランドにあるなんて、驚きですね。機会があれば、一度ダブリンを訪ねて実物を拝んでみたいものです。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。

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