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【海のナンジャラホイ-22】ワカメはオスなのかメスなのかという件について

ワカメはオスなのかメスなのかという件について

国民的人気漫画の登場人物である磯野ワカメさんは間違いなく女性です。
ここでお話しするのは、海藻のワカメについてです。ワカメだって生物ですから、オスとかメスとかがあるはずなのですが、どうなっているのでしょう? 私たちの食卓に載るワカメは、オスなのでしょうか? メスなのでしょうか?
絵本の『わかめ:およいで そだって どんどんふえる うみのしょくぶつ』を刊行した時、刊行日の30日前からカウントダウン4コマ漫画を毎日一つずつ描きました。カウントダウンが半ばをちょっと過ぎた頃、「ワカメの性別」というのを描きました(図を参照して下さい)。私たちが食べるワカメがオスか? メスか? という問題についての答えは、この4コマ漫画の中にあります。

4コマ漫画「ワカメの性別」


私たちの目にするワカメには性別は無くて、言ってみれば中性なのです。漫画だけだと分からないかもしれませんので、補足説明をいたしましょう。
生物の体細胞の核の中の染色体が1セットの場合が一倍体で、2セットが対になっているのが二倍体です。私たちが目にするワカメの体は二倍体ですが、ワカメの生殖器である「めかぶ」で減数分裂が起こり、一倍体の胞子(遊走子)が作られて、それが泳いで行って海底にたどり着くと、岩のデコボコなどにくっついて芽を出し、細胞が増えると一倍体の「配偶体」になるのです。配偶体は小さくて、顕微鏡で見ないと見つけられません。この配偶体にはオスとメスがあります。ちょっとスリムなオスの配偶体からは精子が泳ぎ出して、少し太めのメスの配偶体の上で作られた卵にたどり着いて受精します。そうすると、精子の持ってきた1セットの染色体が、卵の持っていた1セットの染色体と対になって、二倍体の受精卵になるわけです。受精卵が発芽して出てくるのが、やはり二倍体の「胞子体」で、これが育って大きくなって、私たちの目にするワカメになるわけです。
中性のワカメの胞子体がぐるりと辺りを見渡せば、自分の体を離れてできた配偶体が、自分の周りのあちらこちらの岩の上にひっついて、一心に繁殖に励んでいる様子を眺められるはずです。自分由来のオスやメスの配偶体を、他の個体由来のオスやメスの配偶体とやりとりさせるというのは、考えようによっては、なんだかポケモンバトルみたいですね。まあ、バトルではなくて、実際のところお見合いなんですけどね。
・・・以上が、4コマ漫画「ワカメの性別」の解説です。

さて、ここで、私たち哺乳類の体をワカメの体と比較して考えるとどうなるでしょうか? 私たちの二倍体の体には、一倍体の配偶体に当たるものが寄生した状態になっています。このために外形的な雌雄差があるし、恋もするわけです。もしも、人間の繁殖システムがワカメと同じようになっていたら、どうでしょう? 私たちの体は中性で、私たちが放った胞子から配偶体が生じて、自分の体から離れた所で繁殖を行うわけです。中性の体なら、思春期や反抗期もないし、恋愛もないし、性に関わる煩悩が生じることもないはずです。仕事やスポーツにひたすら打ち込めて効率が良いかもしれません。でも、なんだか色味のない味気ない人生になりそうですね。配偶体は、どこかの繁殖センターみたいなところに預けることになるのでしょうか? 子供の養育はどんなシステムで行えば良いのでしょう?
考えてみると、面白いですね。なんだかSF小説が書けそうです。皆さんも、ぜひ、あれこれ想像してみて下さいね。


○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。


*本文中に紹介されている絵本。

青木 優和(文)畑中 富美子(絵)田中 次郎(監修)
『わかめ ~ およいで そだって どんどんふえる うみのしょくぶつ ~』

https://www.kasetu.co.jp/products/detail/1424

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