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第二の人生79

涼が、そのことを聞かされたのは、丘野泰三が家を訪れに来た3日ほど前だった。
涼にその情報を伝えて来たのは、人事の持永だった。
涼さん…今日、大森市議会議員から涼さんが丘野紗奈美と同棲しているのは、本当のことか?と聞かれました。
大森市議から?ってことは…D市か…。
ハイ…D市の大森部長の絡みかと…。
D市は、紗奈美の実家がある都市だ。

わかった…ありがとう…ちょっと当たって用心しおくよ…と言った。

涼はすぐにD市にいる不動産関係者、同級生や後輩などを通して情報収集を行った。
ただ、こうなる前に、すでにある程度の丘野家に関する情報収集は行なっており、丘野家の財政状況も含めて、涼にとっては、ほぼ丸裸と言っていいものだった。

丘野泰三と真一は、涼から家を追い返された後、泰三は後部座席で真一の運転するベンツの隣の助手席の背を蹴り付けて、なんだあの若造は‼️人のことを馬鹿にしやがって‼️たかが役所の職員の分際でこの俺に偉そうなことを言いやがって💢💢💢と怒り狂っている。
真一は額に汗をかきながら、全くそのとおりです。市役所なんかにいられないようにしてやりましょう‼️と言って父親に賛同しながらも、内心は穏やかではない…アイツは、恐らく只者じゃない…親父のあれだけの圧力に対して目の色ひとつ変えずに冷静に対応できるなんて、かなり肝が据わっている…アイツは只者じゃない…油断はできない…できることなら的に回すのは得策じゃないと思っていた…が、父親には絶対にそんなことは言えなかった。

真一は、父の指示通りに車を走らせて、D市にある大きな日本家屋の前で車を止めた。
そこで車を降りると泰三と真一は、先ほどとは打って変わって、低姿勢となり、呼び鈴を鳴らして、丘野でございます…と挨拶した。
中からお入りくださいと、女性の声がして、屋敷内のお座敷に通された。
2人が正座して待っていると、1人の恰幅のいいいかにも威厳があるといった感じの男が現れた。

泰三は、頭を深々と下げて、岸田先生…いつも大変お世話になっておりますと挨拶した。真一も一緒になって頭を下げる。
岸田進は、65歳、県議会議員をすでに5期務めている県でも力を持っ人物だ。過去、何度か献金を行い、その上で何度か大森市議経由で大規模な公共工事を落札させてもらったことがある。

岸田は、で…少し大森君から話は聞いているが、私に何かお身内の件でお願いがあるそうだね…と。
泰三は、はい、先生…実は娘の件でして…私共が精魂込めて育てあげた愛娘をいいように弄んでいる者がおりまして、全くもって人の言うことを聞かないふざけた男で…こいつがA市の職員をしておりまして、ハイ…ちょっと岸田先生から叱っていただきたくお願いしたいのです。

ほぉ…娘さん…確かな紗奈美さんと言う方じゃなかったかな?

はい!そのとおりです!先生は娘のことをご存知で?…と。

うん、一度、挨拶を受けたことがあるよ…と、いうことは、そのA市の職員とはもしかしたら渋谷さんのことじゃないだろうね?

エッ⁉️ハ…ハイ…そのとおりです…渋谷何某という奴が、私の愛娘を弄び、たぶらかして軟禁に近いようなら状況にしているようで、先生から一言、解放するように言っていただけると…。

すると、岸田は、大笑いして、丘野さん…それは無理なお願いだよ…と。

丘野泰三は、エッ⁉️と驚いて、それはどう言うことでしょうか?先生ほどのお方が無理とは…⁉️

丘野さん…まず最初に聞くが、その愛娘の紗奈美さんだが、その愛娘をなぜに家から追い出したりしたんですか?
真一君…君もあんなに素敵な妹さんをどうしてもっと大事にされてこなかったのですか?と聞き返した。

泰三と真一は、額に汗を浮かばせて、いえ、決してそのような、私どもは天塩にかけて紗奈美を大事に大事に育てて来たつもりでありますが…と答えたが…。

丘野さん…あなたが、10数年前、娘の紗奈美がまだ18歳かそこらだった頃、うちの娘を嫁がせるからと言って、数千万円の融資を頼んで回っていたことを私は知っている。
その後、さすがに同時、未成年の娘さんを引き換えに融資をするなんてことは、人の道に反するだろうと言う話しになって、その話は無くなったが…その後、例の家に嫁いで、一億の融資を受けたはいいものの、娘さんの先天的な体質のため、後継が産まれないとわかった途端に、あのお宅を追い出され、実家に帰るもあなた方は、娘さんを用無しとして、家から追い出したんでしょ?

それからと言うもの、娘さんの存在自体、どこで何をしているのかも全く把握されていなかったんじゃないですか?

そして、最近になってA市に勤務している娘さんのことを知って、且つそのパートナーとなっている渋谷さんの情報を仕入れて…まぁ丘野家が所有する土地の件もあったのでしょうが、自社の資金繰りが厳しい中、まだ娘さんを出汁に渋谷さんから融資…まぁお金を引っ張り出そうと試みたんでしょうが、上手くいかずに私のところに、渋谷さんに言うことを聞かせようと頼みに来た…まぁそういうことでしょ?…と、岸田は静かに丘野泰三と真一の両方を見て問うた。

泰三は顔を真っ赤に…真一は蒼白ななって…沈黙した。
泰三は、苦し紛れに、だ…誰が、そ…そんな戯言を…と…。

岸田は、戯言?今、私が聞いた話しは、全て嘘偽りのことですか?

泰三も真一も…岸田には、何をどう取り繕っても無駄だとと言うことは、わかっていた。
物言いは、とても静かで穏やかではあるが、岸田の怖さは、人伝に十分過ぎるほど聞いている二人だった。
そして、岸田は丘野泰三と真一の二人に対して、トドメの一撃とも言える言葉を送った。

先ほど、あなたの娘さん…丘野紗奈美さんから挨拶を受けたことがあると言いましたが、それは東郷先生の政治報告会後の懇親会の場でのことです。

東郷先生と聞いて、泰三と真一は、エッ⁉️とさらに驚いた顔になった。
東郷先生とは、東郷兼顕と言って、現衆議院議員て、内閣官房長官を務める人物だ。

私は正直なところ、どう言った繋がりかは知らないが、東郷先生から呼ばれて東郷先生の側に行くと、そこに渋谷さんがいて、その横に紗奈美さんが一緒にいらっしゃった。そこで私は東郷先生から自分が個人的にお世話になっている方なんだと渋谷さんと丘野紗奈美を私に紹介してくださった。具体的にどういった個人的繋がりがあるのかまでは聞くことができなかったが、恐らく東郷先生と渋谷さんはかなり近しい間柄と思われる。
その場で、渋谷さんは東郷先生に対して、じゃあまた👋…あんまり無理しないように…と軽口を叩いたが、東郷先生は、当たり前のように、うん頼んだぞと笑って見送っていましたよ。
他の者に渋谷さんのことを聞くと、東郷先生は渋谷さんのことを単なる友人だとおっしゃったらしい…が、ただの友人ではないだろうと思う。

そんな渋谷さんに私が何か意見できると思うかね?人と人は、どこでどんな繋がりがあるかわからんものだ。
あなた方が、どう動いたところで彼をどうすることもできないと思いますよ。何か彼に圧力をかけたところで、恐らく倍…いや…数十倍になって返されると思います。
あなた方が株の投資に失敗して、不渡を何度も出しそうになって、その度に土地を売って埋め合わせをして、今やそれも限界に来ていることは、私の耳にも届いています。
だが、あなた方を助ける術は…ない。
私から言えることは以上です…お引き取り願います。と言って岸田は席を立った。

丘野泰三と真一は、2人とも顔面蒼白になり、黙ったまま何も言えなかった。
そして先に真一が立ち上がって、行きましょうと…父親の泰三を促した。


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