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第二の人生62

元旦の夕食は、河豚づくしだった。
これも、涼が事前に注文、予約していたのだが、
ふぐ刺し、ふぐの唐揚げ、ふぐちり、ふぐ雑炊…たまらなく美味しかった。

紗奈美は、私、ふぐをこんな風に贅沢に食べるの、初めてかもしれません。

へぇ〜、実家や前の旦那さんの家で河豚を食べた涼しなかったの?

ハイ…実家では蟹が多かったですね。元夫の家では夫が、魚介類が苦手だったようで、魚類が食卓に出ることはありませんてしたし、外食もほとんど洋食系だったため、こんな風に食べさせていただいたことはないです。

そっか…でも、美味しいって言ってもらえて良かったよ。
俺が河豚大好きで、まぁ美味いものだと肉だろうと魚だろうと、何だって好きなんだけどね(笑)

本当に涼さんは、美味しいのに目がないですもんね。

うん。でも1番嬉しいというか、ありがたいのは、紗奈美の味覚、美味しいと思ってくれるところが俺と近いって言うところだね。
例のあの食堂での茄子味噌!あれを一緒に食べて、美味しいって言い合えた時の喜びが、やっぱり大きかったね。

良かったぁ…あなたの味覚にちゃんと着いていけてて…。

いやいや…それは俺の方だよ…間違いなく紗奈美の方が美味しいものを食べて来ているはずだから…。

そんな…私は、そうでもないんですよ。
確かに色々な機会や場所で、高級な食事を経験したことは、ありますけど、食を楽しむというよりは、その場の体裁というか、見栄を張るというか、高級な食事ができるんだっていう事実を確認するというか…なんかそんな感じで、どんなに美味しくても、その美味しさを理解できなかった気がします。

やっぱり、こうやって好きな人と一緒にその食の美味しさを楽しむってことが出来てはじめて、本当の意味で美味しいって思える…それが、1番だと思います。
そういう意味で、私はあなたとこうして、色々な食事を共にして、初めて食事をすることの楽しみ、喜びを味わっています、

そっか…そう思ってもらえたら、俺も嬉しいよ。
これからも一緒に色々な美味いもの巡りしような。

ハイ!嬉しいです❗️

食後、仲居さんに教えてもらった元旦の夜も開いているという小料理屋に散歩がてら行ってみた。
宿から歩いて5分程度の場所にあった。

60歳近い女将さんが、地元の料理を肴に地酒や
焼酎を飲ませてくれるらしく、小ぢんまりした穏やかな雰囲気のお店だった。

お客さんは、2人もは別に2組、涼達と同様の旅行客っぽい感じの年配の夫婦が、刺身をつつきながらお酒を飲んでいた。

いらっしゃいませと優しい声をかけてもらい、涼は紗奈美とカウンターに座って、地酒の熱燗と湯豆腐を頼んだ。

2人で小さなお猪口で乾杯して、湯豆腐をつまむ。柚子胡椒とポン酢で食べる。

紗奈美が美味しい!と声をあげる。

女将さんが、ここはお水が美味しいですから、いいお豆腐ができますと教えてくれた。

柚子胡椒も自家製ですか?と涼が尋ねると、ハイそうですよ。と返事が返ってくる。

柚子の香りとピリッとした辛味からたまらなく美味い。

紗奈美が、ねぇあなた…帰っても、たまにはこうやって、近場でいいですから、飲みに出たいです。2人で…。

うん、そうだね。
今度引っ越す先は、ちょっと街中に近いから、歩いていけるところに、ちょこちょこいいお店があるよ。行ったことはないけど、色々開拓しないとね。

今から楽しみです。

そうだね。電化製品や家具も新調しないといけないから、ゆっくりと色々見て、決めたりするのも楽しみだ。

私、こんなに幸せでいいのか…たまに不安になります。

涼は、少し笑って、紗奈美はこれまで大変な思いをして来たから…今からその分を取り返さなきゃね。俺もやっとの思いで、あの苦しい日々から抜け出せたから…これからは2人で少しでも多く、幸せやなって感じる時間を作って行こうな。

はい…あなた…ありがとうございます。こんな私にこんなにも良くしてくださって。
私、一生懸命、あなたに尽くしますので、ずっと側に居させてください。

(笑)俺の側にずっと居てくれって、俺が頼んだんだから…居なくなってもらったら、俺が泣くよ。

どこにも行きません。ずっとお側にいます。
そう言って、紗奈美は、涼の手に自分の手を重ねた。

2人で2合ほど飲んで、店を出てゆっくりと歩いて宿に戻った。

2人は、ここに来て何度目かわからない露天風呂で身体を温めて、癒された。

この宿は、一生忘れることのない宿になったなぁ。

ハイ。私も…また来れたら来たいです。

そうだね。でも来年は、新しい我が家での年越しがいいかなって考えているから、次に来るのは、またその先だね。でも必ず一緒に来ような。

はい。さっき…お店でお話ししたように、ちょっとした先に、あれをしたい、これをしよう…何を食べよう、どこへ行こう…って言う目標っていうか、楽しみなことがあるって、いいですね。
こんなに先のことにワクワクしたこと、今までなかったので、嬉しくて仕方ありません。

そうだな…言われてみれば、俺も以前はこれから先、どうなるんだろうって、暗闇の中を手探りで進んでいた感じだったけど、今は紗奈美と2人で明るく楽しい先のことしかないから、大袈裟だけど、こういうのが生き甲斐って言うのかもしれないね。

風呂から上がると、酔いもあって、2人は抱き合ったまま、深い眠りに落ちていった。


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