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第二の人生58

カフェを出て、一旦部屋へ戻り、紗奈美はブーツに履き替え、ロングコートを羽織り、俺はダウンを着て、外へ散歩に出掛けた。

小さな温泉街の古い街並みは、落ち着きがあってとてもいい。
大晦日と言うこともあり、大きな買い物袋を持った人達もそれなりに行き来しているが、都市部のような慌ただしさはない。

冬の空は青く澄み渡り、山々の雪化粧と街並みと路面を覆う雪景色が、陽の光を浴びて、キラキラ輝いている。

紗奈美は、寒いけど、とても気持ちいい寒さです。と言う。
確かにそんな感じだ。
俺は、夏の暑さは大の苦手だが、寒さには強い。

紗奈美に、寒いの平気?と聞くと、暑いのも寒いのも苦手ですけど、どちらかと言うと、寒い方がいいです。

どうして?

ハイ…こうして好きな人と引っ付いていられるから…と言って、組んでいる腕にギュッと力を入れた。
だって夏は引っ付いたら暑苦しいでしょ?

まぁ確かにそうだな。汗でベタベタだからなぁ。

だから冬の寒い方がいいです。
パートナーがいない冬は、寂しいだけですけど、今年の冬は、あなたが側にいてくれるので…と言って、紗奈美は、顔を赤くした。

小さい温泉街ながら、観光地であるため、大晦日でもお土産屋さんがいくつかあって、営業している。
そんな店を冷やかしながら、見て回る。
途中、漆器のお店に立ち寄り、そこで見つけたセットのお箸がイイ感じだったので、購入した。

紗奈美は、嬉しいと言って喜んでいる。

少し路上を入った奥に、小さな小料理屋が営業中の看板を出していて、店の佇まいの雰囲気が良くて、ちょっと覗いてみることにした。昼時と言うこともあって、ランチにちょうどイイかもと思ってのれんを潜った。

いらっしゃいませ。と、落ち着いた声の年配の女性から、笑顔と共に歓迎された。

自分達以外には、もう1組の高齢のご夫婦と思しき2人がテーブル席に着いていた。

俺は迷わず、紗奈美にカウンターでもいい?と聞くと、ハイ。いいですよ。と賛同してくれる。
俺は、紗奈美のこういうところが好きだ。

なぜカウンターか…と言うと、全く知らない土地で、しかもちょっと気に入ったこの街のことをもっと知るためには、地元の人の話を聞くに限る。

当然、ここは、カウンターに座って、この愛想のいい女将さんっぽい女性と話しながら、食事を楽しみたかったと言うのが理由のひとつ、もう一つは、カウンターの前に大皿が並べてあって、そこに色々な料理が陳列されてあったので、近くで見たかったのだ。

カウンターに座ると、早速、何か飲まれますか?と聞かれ、ひとまず瓶ビールとグラスを2つ頼んだ。
目の前の大皿にも目を引いたが、それ以上に心惹かれたのが…。

すみません…おでんをいただいてもいいですか?

どうぞ、何をお取りしましょうか?

紗奈美を見ながら、えー…スジを…紗奈美が頷く…2本、大根…また紗奈美が頷く…この調子で、こんにゃく、厚揚げ、しらたき、玉子を頼んだ。あとは、俺だけ巾着も追加。

ひとまずビールで乾杯して、おでんを摘む。

美味かった…味が染み染みだった。
紗奈美と正解だったな!と言い合いながら、おでんを摘みにビールを飲んだ。

遠方からお越しですか?と言う問いかけに応える形で、女将さんと色々話して、初詣に行くならどこの神社が最寄りだとか、場所を教えてもらったり、近くにあるパワースポットだったり、色々な情報を収集したい。

ちなみに俺らが泊まっている旅館は、街の中でもかなりいい宿らしい。
金額とかではなく、食事や接客、清掃レベル、総合的なレベルが高く、安心して宿泊できるとのこと。

女将さんと話をしながら、大皿料理の肉じゃがや高野豆腐、ひじき、里芋の煮物など、色々摘みながら、途中、ビールから地酒に変えて、2人で2合ほど空けて、店を出た。

紗奈美とほろ酔い気分で、美味かったな。
ハイ、とっても美味しかったです。女将さんもお話が上手で…。
やっぱこういうのが旅の醍醐味だよなぁ。
本当にそうですね。奥様って言われちゃった(照れ)
(笑)…まぁ側から見るとそう見えるってことだね。
あなた、否定しませんでしたね(笑)
否定する必要もないし、悪い気はしないから、ちょっとくすぐったいけどね。
そう言ってもらえると安心しました。
俺は結婚って形に拘っているわけじゃないけど…まぁ数年後、俺がもう少し、歳を取った時に、それでもまだ紗奈美が俺と一緒にいたい…極端な話をすれば、俺を看取ってもいいってその時に思ってもらえるようなら、籍を入れてもいいかなって思うよ。

エッ?どういうことですか?

要するに、俺が大病を患うとするだろ?その時、垢の他人だと、面会謝絶となったり、集中治療室に入院した場合、付き添いは当然だけど、面会すらできないってなる。でも配偶者ならOKってなるからね。

先々、数年後、紗奈美が俺の側にまだいて、俺の骨を拾ってもいいって思ってくれたら、その時は籍に入ってもらおうかね(笑)

あなた…そんな…私は、これから先もずっと…あなたさえよろしければ、お側にいます。
あなたに万が一のことがあれば…私はすぐにあなたの後を追います…。

紗奈美…、ありがとう…。

そう言って涼は、紗奈美の肩を抱いて、歩きながら、紗奈美のおでこにキスをして、2人は寄り添ってゆっくりと歩いて宿に戻った。



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