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ファイブアイズ拡大の危険性について(RUSIの記事)

写真出展:Clker-Free-Vector-ImagesによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/clker-free-vector-images-3736/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=42691

 2021年10月20日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が、昨今のファイブアイズ拡大の議論に関する記事を発表した。内容は、ファイブアイズ構成国と日本、ドイツ、インド、韓国などの拡大対象の国家が、インテリジェンスや外交で適切に協調していくことができないという点を指摘し、安易な拡大に警鐘を鳴らすものである。本件について日本は大きく期待しているが、ファイブアイズ構成国の意識とは合致していないという現状が良く分かる内容であることから、本記事の概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(The Hazards of Expanding the Five Eyes)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/hazards-expanding-five-eyes

1.RUSIの記事について
 ・最近アメリカがファイブアイズに日本、ドイツ、インド、韓国を加えることを構想しているとする報道が賑わっている。これは2022年国防権限法案の条文の草稿に、国家情報長官に国防長官と共同で、ファイブアイズの拡大に関する国益を2022年5月20日までに報告することを求めるとする分が含まれていたことにより、このような憶測がされることになった。
 ・国家間の機密情報の共有には、高度な信頼関係がなければならないことから、二国間の枠組みが基本となる。その点でファイブアイズは非常に特殊なものであるが、それは歴史的な経緯が関係している。
 ファイブアイズは、1941年にチャーチル英国首相が、アメリカに機密情報を共有することを決定したことに端を発しており、1946年には正式な英米合意が締結され、その後カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが英連邦内の国家として合意に加わることになった。南アフリカ、インド、パキスタン、セイロンが加わらなかったことから、アングロサクソンの集団と見なされているが、ファイブアイズの構成国が国際化している現状において、今やこのような見方は的を射ているとは言えない。
 ・しかしながらファイブアイズは世界観が共通しており、朝鮮戦争、冷戦、テロとの戦争などの危機に対して緊密に連携してきた歴史があるものの、歩調を合わせられない場面も多々あった。スエズ危機において、アメリカはイギリスへの支援を拒否し、イギリスはベトナム戦争を支持しなかった。諜報活動やインテリジェンスについても論争があり、例えば2003年のイラク戦争につながる機密情報に関する誤りなどがあったが、それでもこの枠組みは維持され続けてきた。 
 ・中国への脅威に対処するため、ファイブアイズの拡大は政治的に魅力的な提案であるものの、構成国の合意は得られそうにない。まず拡大対象の4か国は、インテリジェンスのレベルが低い。韓国は北朝鮮に遠く及ばず、ドイツと日本はインテリジェンスコミュニティの役割が脆弱であり、政治への影響力が低い。インドはファイブアイズに類似した組織体制になっているが、パキスタン対策に注力しすぎており、他の分野に十分な資源を割くことができない。
 ・また外交政策においても協調することができそうにない。ドイツはロシアと良好な関係を築いており、インドもロシアの兵器を購入するなどしており、更にクアッドを反中同盟に昇華させることに抵抗している。韓国は中国に逆らおうとせず、日本とは協調できそうにない。この状況においてできることは、各国との個別の情報共有の深化である。

2.本記事についての感想
 ファイブアイズの拡大については、過去に何度かニュースになっているが、そのたびに立ち消えになるというか、一過性の盛り上がりのみで具体的な進展がない。これはファイブアイズの構成国がなかなか一致団結して協調できない状況が存在しているということが主な要因なのだろうが、個別具体の部分で実行に移すのが困難ということも大きい。
 日本がファイブアイズに加盟するためには、2つの要件を満たす必要があるだろう。第一にスパイ防止法などの法整備、強化である。外為法や産業スパイを取り締まる法令はあるものの、スパイ一般に対する法律がない、また既存法令がそもそも十分に適用されていないといった問題がある。私が伝え聞いているだけでも、政治家などの介入により警察の捜査が妨害されているといった事例がそれなりにあることから、スパイ防止法が成立しても、実効性を担保できない可能性が高い。まずはこういったおかしな状況を改善していく必要があるだろう。第二は、サイバー防衛の強化である。日本は機密保持に難がある国と見られており、特にサイバー防衛の脆弱性は懸念材料となっている。自衛隊や警察などの個別の組織の防御は優れているものの、社会全体のセキュリティ意識の低さは目に余るものがある。セキュリティは最も弱い所が基準になってしまうことから、ラインなどを平気で利用している人間があまりにも多いというITリテラシーの低さを考えると、重要な情報を共有したくなくなるのは仕方がない。
 現在の日本人の意識からすると、こういった問題を短期間で解決することは絶対に不可能であり、ファイブアイズへの加入など望むべくもないということを強く認識しておく必要がある。今するべきことは、絶望的なまでに低いセキュリティ意識を向上させ、情報管理の重要性を普及啓発することである。地道な活動を20年ぐらい継続して初めてファイブアイズ加入の資格を得られるかどうかといったレベルに達することになるだろう。

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