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新疆ウイグル自治区の人権侵害に関する中国の情報工作(4)(ASPIの報告書)

写真出展:Y. C. LOによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/y_c_lo-6285324/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=2686061

新疆ウイグル自治区の人権侵害に関する中国の情報工作(3)(ASPIの報告書)の続編である。前回までの記事は、以下のリンクを参照。

2.本報告書読後の感想
 今回は新疆ウイグル自治区に関する中国の情報工作を取り上げたが、これは中国の情報工作に騙されないようにするためだけでなく、今後の展開を見通すための参考となるよう考えてのことである。
 今回提示した情報工作は、かなり稚拙でありこんなものに騙される人間がいるのかと思えるような内容だったかもしれない。ただ、中国の目的が何かを十分に理解していなければ、工作の本質が見えてこない。考えておくべき事項について、以下に列挙する。

 ① 情報工作の対象がイスラム諸国である
  アラビア語やトルコ語でのコンテンツ拡散が多く見られるということは、主な対象がイスラム諸国であるということだ。特に中国がテコ入れしやすい中央アジア諸国に拡散しているようであり、まずは外堀を埋めようということなのだろう。イスラム諸国の中でも外見で見分けのつかない人々が一番の脅威であろうと考えられることから、こういった所を足固めすることで、当面の危機を乗り越えようとしているのだと考えられる。
  中東は若干手に負えない(不確定要素が多い、政治家のレベルが低い)部分があるのだろうが、そこはお金の力で黙らせるということなのだろう。
  西側諸国については申し訳程度に対策しているようだが、こちらは半ば諦めている可能性が高い。むしろ主流メディアによる正攻法や経済方面で何とか対抗しようとしているのだろう。

 ② プラットフォーム上の作戦の目的
  こちらは偽情報で世論形成するというよりは、情報を多数拡散することで、本物の情報を探しにくくするのが主たる目的だろう。動画の例を見てもわかるように、字幕のレベルは低く、リツイートやシェアの方法も稚拙である。インフルエンサーの活用にしても、色が付きすぎた人ばかりでかえって怪しまれる状況になっている。多くの国は多様な情報源があるわけではなく、主流メディア、インターネット、周囲の人々とのコミュニケーションを対比して情報を検証することができない。そういった意味では、中堅国以下の情報源に乏しい国には効果覿面と言えるだろうが、先進国には到底通用しないことから、当面の脅威にはならないだろう。
  ただ本報告書でも指摘されているように、作戦が洗練化されれば、作戦それ自体を見抜くことが困難となり、情報工作の餌食になる可能性も否定できない。今後も中国の動向から目を離すべきではなく、データによる分析を継続するべきだろう。

 ③ 中国共産党の組織対応
  今回の報告書により、地方組織や地方政府発のものが多いということが判明した。地方組織の功績争いという側面が強く、効果よりも忠誠心を示すことに注力されていることから、今のところ大きな脅威にはなっていない。しかし技術の進歩により、地方間の連携、巧みな情報操作、情報の氾濫などの手段が拡大し、作戦の稚拙さを補ってなお余りある成果が出る可能性もある。独裁国は組織間の連携の悪さのために作戦の有効性を損なわれることが多いが、これは希望的な観測でしかなくなってくる。大規模AI
によりランダム化してアカウントを作成する、適度な件数でリツイートやシェアする、多彩な言葉遣いをするといった技術が洗練されてくれば、人間の投稿と見分けがつかなくなり、騙されることになりかねない。今後も動向を注視していく必要があるだろう。

 全体としての感想は、中国の情報工作は情報過多にするということが基本であり、情報の内容や質にはあまりこだわっておらず、自己主張を繰り返す性質のものが多い。これは、言論の自由が制約されている国特有の在り方のように見受けられ、多様な情報が存在する環境を十分に意識しきれていないのだろう。ただ受動的に情報を受け取る人間が多いことも事実であり、このレベルの工作であっても一定程度成功してしまっているのは残念である。
 その他、中国に味方していると思われる国々もある程度絡んでいるというのは興味深い。パキスタンや中央アジアなどは当然として、韓国は自国のコンテンツを利用させている、もしくは、利用されている状態である。韓国がいかに中国の属国となっているかが分かる事例だろう。積極的に情報工作に参加しているという解釈も成り立ちうるが、あまりにも韓国の評判が落ちるような内容になっており、これは強要されていると見るほうが自然だと思う。

  インターネット上の情報が大量かつ高速に拡散する状況において、情報を見抜く目の必要性がこれほど求められている時代はないだろう。こういった報告書のような視点を参考にして、下らない情報に騙されない目を養うことが重要である。

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