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イギリスのインテリジェンス機関は積極的な広報活動に乗り出す(RUSIの記事)

写真出展:Mary_R_SmithによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/mary_r_smith-1903007/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1143631

 2021年12月7日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、イギリスのインテリジェンス機関の広報活動についての記事を発表した。内容は、これまで秘密主義に徹してきたイギリスのインテリジェンス機関(いわゆるMI5やMI6など)が、組織に関係する情報をメディアにて公表する、SNSで発信し始めたことに関する背景を概観し、今後の展開を示すものである。
日本はまともなインテリジェンス機関が存在しないが、今後組織が創設された場合における取組の参考になると考えられることから、本記事の概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(‘More Open to Stay Secret’: UK Intelligence Agency Openness and the Public)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/more-open-stay-secret-uk-intelligence-agency-openness-and-public

1.RUSIの記事について
 ・イギリス秘密情報部(SIS)長官のリチャード・ムーアは、BBCラジオのインタビューで、「秘密を守るために、より開かれなくてはならない。」と語った。彼は、中国、ロシア、イラン、国際テロ組織をSISの最優先するべき相手であるとし、更に最新技術の必要性にも言及し、人工知能や合成生物学などの民間イノベーションを活用する必要があると述べた。その他、職員の採用もより開かれたものにしていくと述べ、メディアからも大きく注目されることになった。
 ・2020年10月の就任以来、ムーア長官は積極的に情報発信に努めており、2021年4月にはタイムズラジオのインタビューを受け、ツイッターで定期的に省庁の歴史や採用、興味関心などの考えを共有しており、このような取り組みをした初の長官である。無論、彼だけではなく、フレミング政府通信本部長官は、暗号関係の会議でランサムウェアの脅威について講演し、マッカラム内務省保安局長もThe Sunの独占インタビューを受け、職員の採用について訴えた。その他、インテリジェンス関係の話も出てくるようになっており、例えば保安局の高官が匿名で、敵国の工作活動について言及し、法改正の必要性を訴えた。
 ・イギリスのインテリジェンス関係省庁は、伝統的に秘密主義に徹しており、フィクションがまかり通っていた。このことの危険性が指摘されるようになっており、2019年のハンサードソサイエティの研究によると、33%の国民しか政府を信用しておらず、その他の調査でも大きく変わる所がない。個々の省庁についてはわずかに信頼度が上がるが、公開情報にあまりアクセスしておらず、個々の業務についてもそれほど理解していないという指摘もある。受動的な情報発信だけではもはや有効に対処し得ず、より能動的かつ創造的な方法を見出すしかない。
 ・SNSは有効な手段の一つであるが、アメリカに大きく後れを取っている。SIS、GCHQ、MI5などは単なるブランドでしかなく、その内実が理解されていない。CIAは歴史の公開に取り組んでおり、こういった事例に学ぶことで、ジェームズボンドシリーズのイメージを打破し、省庁の理解を促進することができるだろう。
 ・ただ、この取り組みには限界がある。ムーア長官は職員のIDを決して公表しないという原則を維持するとしている。取り組むべきは、歴史、採用、文化、任務、安全保障上の脅威などについての広報である。等身大の省庁の姿を示すことにより、民主主義社会における作戦上の免許を得ることができるようになるだろう。また逆説的ではあるが、こういった情報を公開することにより、本業である隠密行動について注目されなくなり、機密性を高めることが可能になるだろう。

2.本記事についての感想
 イギリスは、アメリカのやり方をまねようとしているようだ。これまでもテレビドラマなどでインテリジェンスコミュニティへの支持を高めようとするなど、裏側ではいろいろとやってきたようだが、政治の大衆化に伴い、ある程度分かりやすさが求められるようになってきたということだろう。この手の試みは失敗しやすいのだが、今回の記事を見ている限り、その危険性をわきまえているようで、おそらく適切に対処しながら組織体質改善に努めていくことになるだろう。
日本が模倣するのであれば、イギリスのやり方の方がなじみやすい気はする。優れた職員が見どころのある人材を連れてくるという、特殊なルートと一般採用を組み合わせることで、良い意味での相乗効果が期待できるように思われる。この取り組みにとって最大の障壁は、組織の縦割り的体質にあるだろう。横断的な連携を欠いており、最低限の情報共有すらしようとしない、業務の在り方を調整しようとしない、科学技術の導入について大きな格差があるなど、是正しなくてはならない部分が多々あるように思われる。
 私個人としては、日本人の能力は高い方であり、国際的なレベルの情報機関を創設するには、組織的に人材を活用できる体制を整備できれば十分だと思っている。警察の無線関係の職員や情報本部などの職員は、サイバーや科学技術には精通している方であり、こういった方々が先導する形で組織の枠を構築し、個々の人材は各省庁から優れた人を選抜していくといったやり方が一番早いように思われる。
 国際政治等の情勢もあり、こういった構想を公表し、実践していくことは困難と思われることから、秘密裏に、強かにこなしていくしかないだろう。また長期間かかることも覚悟しなければならないだろう。

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