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プライバシー保護技術を巡る動向(Foreign Affairsの記事)

写真出展:Gerd AltmannによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/geralt-9301/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=895556

 2022年1月19日にForeign Affairsは、プライバシー保護技術に関する記事を発表した。内容は、データの共有とプライバシー保護の相反関係を克服する技術として注目されているプライバシー保護技術の現状と今後の政策的方向性を概観するものである。社会のデジタル化においてデータの共有は非常に重要であるが、同時にプライバシー保護の問題を克服する必要があり、プライバシー保護技術はこの問題を解決するものとして注目されている。日本においては滅多に見られない優良な議論が展開されており、今後のデジタル化社会を考えるうえで参考になると考えられることから、その概要について紹介させていただく。

↓リンク先(Privacy Is Power)
https://www.foreignaffairs.com/articles/world/2022-01-19/privacy-power

1.本記事の内容について
 ・インターネットの黎明期において、今日のようなプライバシーが侵害されるという問題を予見し得た者はいなかっただろう。プライバシー保護技術(PET)は、診療情報から投票システム、メッセージプラットフォームまで幅広く応用されている。プライバシー保護技術により、研究者がプライバシーを侵害することなくビッグデータを取り扱うことも可能となっている。
 ・プライバシー保護技術は、民主主義国家と権威主義国家を区別する境界線になっている。昨年の民主主義サミットにおいてバイデン大統領はプライバシー保護技術の推進を表明しており、民主主義の運命にとってこの技術が重要であることを示している。
 ・プライバシー保護技術により、データ分析とプライバシー保護の相反関係が解消されつつある。例えば、アメリカ労働統計局は企業のロボット整備状況についての情報を収集し、アメリカ国勢調査局は失業者情報を収集しているが、お互いに情報を共有しない。もしプライバシー保護技術が十分な水準に達すれば、データを転送することなく情報を共有することが可能になるのである。
 ・プライバシー保護技術を可能とするものの1つは、「連合学習」である。この機械学習の技術は、中央集約的なデータベースではなく、個々のデータを用いてアルゴリズムを訓練するものである。もう1つの手法は「差分プライバシー」である。この技術は、データにノイズを加えるなどの方法により、個人情報を曖昧にするようランダム化するものである。この技術はタイプミスの修正などに応用されている。
 ・2016年に商用データと国勢調査データを組み合わせることで個人の特定が可能であることが判明したことから、アメリカ国勢調査局は2020年の国勢調査データの一部を差分プライバシーで保護することとした。またマネーロンダリングを防止するため、貿易当局が流用された製品を特定したり、銀行が帳簿情報を安全に共有したりすることにも応用が期待されている。
 ・中国のような権威主義的国家は、プライバシー保護技術に反発している。5Gの技術基準や中国が提案するインターネットプロトコルは、インターネット管理、顔認証技術基準などを含んでおり、これはプライバシー保護技術にとっての大きな課題である。またデジタルネットワークの独占や寡占という問題もある。ビッグデータを有する巨大企業はデータを共有しないことにより独占力を発揮することが可能であり、プライバシー保護技術により情報を隠すことが可能になれば、この独占力はますます強化されることになる。
 ・プライバシー保護技術を適切に発展・運用するためには、以下に示す国際的な取り組みが必要となる。第一に民主主義国家は、優先順位を共有し、プライバシー保護技術を成熟化させるための技術基盤を整備するべきだろう。このためには、全米科学財団などの組織によるクラウドコンピューティング認証制度などを設けるべきだろう。第二に科学基金を提供する機関が、プライバシー保護技術の規範を整備するために、民間企業の競争を促すべきである。NISTなどによる基準策定、政府による官民パートナーシップなどの取組がある。第三に、プライバシー保護技術の責任ある活用に関する法制度を整備するべきである。適切な規制を課しつつ、技術の試行に際して一部例外を設けることにより、より良い実践的な応用がなされるようになるだろう。第四に、データ共有の倫理規範を再検証する新たな手続きを定めるべきである。例えば大学間でデータが共有されるという事例を考えると、各大学で個別の倫理規範を検証するのではなく、共通規範を整備・検証するべきである。最後に、民主主義国家は適切なプライバシー保護技術の活用及びその危険性について、国民に情報共有するべきである。現在はデータの共有とプライバシー保護は相反関係にあるが、プライバシー保護技術の進展により相反関係が解消され、公共の福祉に資することを示すことが重要になるだろう。


2.本記事読後の感想
  プライバシー保護技術で先行しているのは、NTTと言われている。この技術があれば、情報にノイズを混在させたり、改変するなどして、プライバシーを侵害することなくデータを取り扱うことが可能である。この技術は、飲食店に例えるとわかりやすいかと思う。飲食店ではオープンキッチンの店舗とキッチンが見えない店舗があるが、料理を食べるのに調理の過程を見る必要はない。これと同じ感覚で、データから必要最低限の情報を引き出せるように仕組みを構築してしまえば、プライバシーの侵害を恐れる必要はないのである。政府が個人情報を預かることを信頼してもらうには、プライバシー保護技術が必要不可欠であり、政府はこの技術に深くコミットするべきである。
 ただ、日本人の無駄に意識の高いプライバシー感覚がこのことを阻害する可能性がある。日本人は、マイナンバーカードにはやたらと反発する割に、オンラインショッピングやスマートフォンアプリなどには極端に無頓着である。マイナンバーカードに入っている情報は極めて少ないものであり、データがばれたとしてもそれだけではほとんど脅威ではない。しかしLINEなどに代表されるアプリはアドレス帳などの情報に簡単にアクセスすることができ、しかも情報を韓国政府に流しているとされているが、利便性の高さからか安易に利用している人が多い。政府が何かしようとするとむやみやたらにマスコミをはじめとして批判の大合唱となるが、こと中国や韓国のこととなるとおとなしくなる。また日本人はこういった情報に流されやすく、政府に反発することが正義であるかのように考えている人が多いようである。しかしコロナ禍において、社会のデジタル化の遅れが国民にとって大きな不利益となっていることが白日の下にさらされ、多くの人々が政府のデジタル化を望むような機運が生まれているはずである。確かに政府にはいろいろと至らない点があることは確かだが、すでに多くの機微に触れる個人情報をあらゆる場面で預けている現状において、政府だけを敵視することは無意味である。eコマースサイトやプロバイダーから個人情報が漏洩しない保証はなく、機密性の低い情報しか有さない政府にある程度情報を預けてもそれほど問題はないはずである。こういった言い方は適切ではないが、我慢してある程度腹をくくるということが、社会のデジタル化には必要になるだろう。

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