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ロシアのインテリジェンスの失敗について(RUSIの記事)
写真出展:Hans RohmannによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/hrohmann-848687/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=701008
2022年5月20日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ウクライナ紛争を巡るロシアのインテリジェンスに関する苦境についての記事を発表した。内容は、ロシアのインテリジェンスコミュニティーが、最新の状況に対応しきれなくなっており、このことによって状況判断や情報の選択を誤るといった事態になっていることを提示するものである。
参考として本記事の概要を紹介させていただく。
↓リンク先(No War for Old Spies: Putin, the Kremlin and Intelligence)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/no-war-old-spies-putin-kremlin-and-intelligence
1.RUSIの記事について
・ウクライナ戦争では、ロシアのインテリジェンスの失敗が目立っている。ウクライナ側の士気の高さ、西側諸国の結束、対外諜報作戦など枚挙にいとまがない。ロシアの政権幹部はKGBなどの情報機関出身者により占められているが、権威主義的体制のために、その潜在的能力をうまく活用できていない。具体的には、正確な評価を無視した諜報活動への性向、独裁者が好む情報を上げなければならないという重圧などが要因になると指摘されている。
・このような説明はもっともらしいが、これは正確ではない。真の要因は、ロシアのインテリジェンス関係者が古い価値観に縛られて現代の状況に対応しきれなかったことである。対して西側諸国のインテリジェンスコミュニティーは、「革命」とも言えるような変革を遂げ、現代化に成功したのである。
・プーチンとその側近は、いずれも1970年代にKGBの門をくぐった。この年代はカウンターインテリジェンスに傾注しており、特別作戦を重視していた。特別作戦における第一の任務は、国家の秘密警察としての活動である。国内外の敵対勢力から国家を防衛することを最優先事項とし、時には準軍事的行動にも従事していた。
・エリツィン政権下において改革の動きがあり、KGBがSVR、FSK、FSOなどに解体され、イギリスのGCHQをモデルとしたFAPSIというシギント専門部隊も創設した。(改革の手を逃れたのはGRUのみであった。)ただこの改革の流れに逆らうように、第一次チェチェン戦争でFSKは徐々に権力を回復し、1995年にロシア連邦保安庁(FSB)に改組された。
・プーチンはソビエト連邦圏においては、海外諜報活動に従事する二級市民としてキャリアを開始し、FSB長官としてアルファ部隊やヴィンペル部隊といった特殊部隊を組織に組み込むことに成功した。プーチンが第一副首相となった後もFSBの組織強化は推進され続けており、大統領就任後の2000年には軍事カウンターインテリジェンスの権限を強化した。2003年にはFAPSIを廃止して再編すると共に、2004年には海外インテリジェンスの部門も創設されることとなり、ほぼKGBが復活した状態となったのである。
・この同時期、西側諸国のインテリジェンス機関は、劇的に現代化を遂げることとなった。重要な変化は、(1)開かれた政府、(2)「必要最小限」から「必要な情報共有」、(3)情報収集・処理能力の向上、(4)オープンソースインテリジェンスの4つである。
・1970年代中盤からインテリジェンス機関が政府の中核となるに伴い、徐々に開かれた組織へと変革してきた。インテリジェンス機関の活動は、よきにつけ悪しきにつけ、政府の戦略や安全保障にとって必要不可欠なものとなってきた。NATOやファイブアイズといった枠組みで情報を共有する経験を蓄積し、9/11以降の対テロ戦争では同盟国や同志国間での情報共有が推進されてきた。情報収集を支える技術も発展し、センサーやデータプラットフォーム、オープンソースによる情報収集などが登場してきた。
・ロシアはこのような外部的変革から取り残されてきた。主に注力してきたことは、秘密作戦、情報工作、純軍事的活動といった特殊任務であり、外的環境への関心が低かった。結果として21世紀の衆人監視環境への対処が不十分となり、情報を隠蔽することができず、カウンターインテリジェンスに失敗した。これがロシアのインテリジェンスの失敗の本質である。
2.本記事についての感想
今回の記事は、若干イギリスのプロパガンダが過ぎる部分があるのではないかと思う部分があった。確かにロシアのインテリジェンスのあり方は人的側面が強く、シギントなどの電子的な部分についてはそれほど進んでいないが、さりとてインテリジェンスのレベルが低いというわけではない。
ロシアは陰謀論の生産国であり、ロシア発の情報は信用できず胡散臭い感じがするものの、英語メディアでは触れられない情報については時に優れたものがあり、中東やアフリカの情報でも見るべきものもある。また人的側面の強みが無くなったわけではなく、イギリス国内で暗殺行為が行われているなど、工作活動に際してはいまだに人的側面が強いのではないかと思う。
ただロシアのインテリジェンスの失敗は、いびつな独裁的体制にあるということは間違いない。優秀な人材が集まっていても、プーチン大統領に気に入られなければ十分に活躍することはできず、気に入られるために無理を通してしまうことにもなる。また、政権を守るために内外の粛清に注力してしまい、肝心の正確な情報分析やその他の活動に力を割くことができなくなってしまうという欠点もある。今回は、プーチン大統領のウクライナを侵攻したいという欲望が生み出した誤りということだろう。
日本ではこういった議論ができないほどインテリジェンス機能が貧しいが、いつかはこういった議論が普通にできるような、そんな時代がやって来ることを望むばかりである。
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