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新疆ウイグル自治区の人権侵害に関する中国の情報工作(3)(ASPIの報告書)

新疆ウイグル自治区の人権侵害に関する中国の情報工作(2)(ASPIの報告書)の続編である。前回までの記事は、以下のリンクを参照。

DJI-AgrasによるPixabayからの画像      https://pixabay.com/ja/users/dji-agras-12491421/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=4208872

  今回の分析対象は、データ群CNCCである。
  詳細な内容については、以下の通り。

 ① アカウント作成状況
   CNCCネットワークにおける多くのアカウントは、2021年に作成されており、大量のアカウントが一斉にされている証拠が見られる。(図21)

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 ツイッターデータにおいて、112ユーザーのうち10ユーザーのみが、プロフィールを表示しており、4ユーザーのみが居住地を表示していることから、実在の人物のアカウントとは考えにくい。このうち84アカウントが中国語のユーザー名であり、一部は2回使われている。(「採用後」、「代わりに」、「何かのために闘う」は、2回登場している。)ラテンアルファベットのユーザー名については、多くはランダムな文字列が使われているように見える。

② 活動状況
  ASPIの分析により、本ネットワークにおける情報工作活動は、2020年6月19日であると推測された。(「新疆」のリツイートが最初に登場し、2020年6月19日に@VisualsGalleryというユーザーにより返信された日である。)
  2020年6月19日以前のツイートを除外した後、2884ツイート(全データにおける8%)が残り、そのうち1129ツイート(39%)は、リツイートである。これらのツイートのうち、7%がリンク、78%がメディア、36%がハッシュタグであった。
 簡易体中国が最も利用されている言語であり、全ツイートの37%を占めており、これに続くは英語(29%)である。
CNHUデータ群と比較して、アカウント数が112件しかないことから、CNCCデータ群全体の活動量はかなり少ない。全ツイートのうち、83%はいいね及びリツイートが0件だった。最も件数が多かったツイートには、2224件のいいねとリツイートがあるが、このツイートはポルノを拡散するスパムアカウントのものだった。
 12アカウントを除き、全てのユーザーのフォロワーが0名である。フォロー数が多い12アカウント(表2)は、多くのスパムコンテンツを投稿しており、新疆関係のコンテンツを拡散するよう再利用される前に、フォロワー数を増加させていたと考えられる。

表2:CNCCデータにおいて1人以上のフォロワーがいるアカウント数

③ シェアしているコンテンツ
 ・CNCCデータ群には、相当量のスパム及びポルノ、韓国の音楽・テレビコンテンツへのリンクが含まれており、上位20件のハッシュタグのうち、13件が韓国のテレビ番組、特に「サイコだけど大丈夫」というタイトルのドラマシリーズに言及している。(スパム以外は新疆関連である。)
  CNHUと同様、新疆ウイグル自治区に関する批判に反論するようなコンテンツを多数提示しようとしており、中国における幸福な生活や新疆のCovid-19対応について語るウイグル人の「証言」を中心としている。
 ・ツイッターによると、これらのアカウントは、新疆地方政府に関係がある昶宇文化という企業と関係があるとされている。CNCCデータ群における少なくとも2件のアカウント(@dishapa65190266 及び @seo_yea_ji(図23))が、昶宇文化の名前をツイッター上で表示している。@dishapa6519026アカウントは、昶宇文化のロゴをプロフィール写真としており、組織の事務所を映していると考えられるバナー画像を表示している。(図24)

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 @seo_yea_jiアカウントは、ある時点から「昶宇文化」という名前を表示し始めた。このアカウントは2015年9月7日に作成され、2018年には投稿しなくなっていたが、2020年12月に簡易体中国語のツイートを再開し、昶宇文化のユーチューブチャンネルへのリンクをシェアしていた。
 ・本来の昶宇文化のユーチューブチャンネル(現在削除されている)の動画は、国際社会を相手とするため、様々な言語で字幕が付けられていた。また視聴率が高く、偽の視聴活動が確認されていないことを示している。例えば(アラビア語の)「美しき新疆」ユーチューブチャンネルには、本来の昶宇文化のユーチューブチャンネルで掲載しているアラビア語字幕の動画(図25)があり、「Güzel Sincan」(トルコ語の美しき新疆)というユーチューブチャンネルには、トルコ語のタイトルと字幕が付された動画が存在する。(図26)

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・本ネットワークは、ウイグルの人権侵害を批判する演説をした、マイク・ポンペオ元国務長官を特に標的としていた。@蓬佩奥もしくは@‘Pompeo’は、本データ群において438回登場(図27)しており、ポンペオ氏の主張に反論する動画が多数見られる。

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・中国政府のCovid-19対応についてのコンテンツも多くみられる。多くの動画は英語の字幕が付されており、新疆のパンデミック対応を支援する人々が登場する。一つの動画は、ウルムチ市公安局所属の疫病蔓延時の「医療監視所」の管理を担当する警察官が登場する(図28)が、翻訳の精度が低い。

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・本ネットワークの特徴は、中央アジア諸国の高官による新疆に関する発言や中央アジア諸国の人々を対象とした動画に着目したコンテンツをシェアしていることである。中国語とウイグル語で新疆の生活についてのユーチューブ記録動画を共有しており、動画の字幕はトルコ語に翻訳されているが、コメントの多くは英語である。(図29)

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・2021年2月25日、2021年2月23日に作成された10のアカウントが2時間の間に、ウズベキスタン議会の元議員である、エルドア・チュリャコフの公式アカウントである@Tulyakovをタグ付けした。図30は、データ群には存在しないものの、@Tulyakovを対象としたあるアカウント(現在ツイッターにより停止中)を示しており、このアカウントもランダムな4文字コードを使用している。

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④ CNCCネットワークの戦略概要
  このネットワークにおける全体としての作戦は、昶宇文化が制作した動画及び広範囲に拡散するためのウイグル人の「証言」動画を拡散する目的で為されている可能性が高く、特に以下の4項目が顕著な特徴となっている。

・再利用されたアカウント
  CNCCデータ群におけるツイートの多くは、2020年6月19日以前は様々なスパムコンテンツがシェアされており、最近の作戦において再利用されるまでビジネス系に所属していた可能性が高い。例えば2番目にフォロワー数が多い@chaoticeveelは、2015年までほぼインドネシア語でツイートしていた。このデータ群において、現在削除されている「真実の」新疆における生活に関するツイートをリツイートする2020年6月まで、このアカウントの他のツイートは登場していない。そしてこのリツイートは、現在停止されている@ValeriaZombies’のアカウントのツイートである。このアカウントは「マフムート・トニアズ」という人物のものとされており、プロフィールで「若き勤勉なウイグル人」で、居住地を「中国新疆」としている。(図31)

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 他のユーザーである@MinBoxRadioは、CNCCデータ群において2万2728件以上のツイートを投稿していたが、2016年以前はフランス語で投稿していた。219年4月4日から2020年9月11日まで活動しておらず、それ以前はフランス語、インドネシア語及び韓国語でツイートしていた。(図32)

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黒の×は、アカウント作成日を示している。縦線はツイート日を示しており、色はツイートした言語を示している。灰色の線は、最初のツイートと最後のツイートとの期間を示している。

・一括作成されたアカウント及び協調した投稿
 フォロワーがいない他の100アカウントは、2021年に作成されている。また、アカウントは一斉に作成され、同一日にツイートしている。(図33)  例えば、2021年2月25日に英語で投稿された全てのツイートは、@Tulyakovをタグ付けしている。
 その他、2021年1月30日から2月7日の間、CNCCデータのアカウントは同じハッシュタグ(#StopXinjiangRumors 及び #蓬佩奥 (Pompeo))を用いており(合計で438件)、ウイグル人の証言を取り上げた動画をシェアする傾向が見られた。

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 各行は、1つのアカウントの時間軸を示している。黒い×は、アカウント作成日を示している。縦線はツイート日を示しており、色はツイートした言語を示している。灰色の線は、最初のツイートと最後のツイートとの期間を示している。

・ユーチューブ(特に昶宇文化のユーチューブチャンネル)、ツイッター上に投稿された動画コンテンツを含む、動画のシェア
 CNCCデータ群において、動画のシェアが最も重視されている。102件のユーチューブへのリンク、ツイッター上でアップロードされた動画への直接リンクが734件ある。特にユーチューブ動画への全てのリンクは、現在停止されている昶宇文化のユーチューブチャンネルもしくは複製された動画を持つ類似チャンネルへのリンクとなっており、全734件の動画の最初の画像をPixPlotにより分類すると、多くが繰り返しシェアされていることがわかる。(図34)

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 シェアされている動画の多くは、ウイグル人の証言動画であり、しかも同様のフォーマットを用いた、類似のものとなっている。(図35)

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・リツイート
  CNCCデータ群においては、リツイート戦術による情報操作は重視されておらず、情報共有やフォロワー数の増加が主たる目的であるようである。ある時点から、プロフィールに表示する名称を昶宇文化に変更した@seo_yea_jiは、Kポップや韓流ドラマに関係するアカウントをよくリツイートしており、韓国女優のソ・イェジを繰り返し紹介することでフォロワー数を増やした。アカウントの返信の多くは、このアカウントが女優により運営されていることを認めるようなものとなっている。
  その他2つのアカウントは、中国外交部の趙立堅副報道局長のアカウントやCGTNアフリカ及びフランスのような中国の国家メディアの公式ツイッターアカウントをリツイートしている。(図36)

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⑤ CNHUネットワークのデータ
  今回分析したデータの結果については、以下の表のとおりである。

データ2:CNCCのハッシュタグベスト20(2020年6月19日以降)

データ2:共有されたサイトベスト10

データ2:共有されたURLベスト20

データ2:リツイートされたアカウントベスト20

データ2:CNCCで使われているツイッタークライアント


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