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新疆ウイグル自治区の人権侵害に関する中国の情報工作(1)(ASPIの報告書)

写真出展:Xiaogeng YuanによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/xjaiwanke-22619502/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=6530541

 豪州戦略政策研究所(ASPI)は2021年12月2日に、新疆ウイグル自治区に関する中国の情報工作に関する報告書を発表した。内容は、SNSやYouTubeなどの分析を通じて、新疆ウイグル自治区のジェノサイド等に関する中国の情報工作を解明するものである。
中国にまずい情報が拡散すると、報道官が反論している映像がマスコミで報道されており、その他わざとらしい情報発信などでごまかしを演じているが、うまくいっていないという印象を持っている方が多いと思われる。確かに中国の情報工作が成功しているわけではないが、その手法について分析することで、情報工作の手段を狭めること、まやかしの情報により惑わされにくくなると考えられる。このため、今回は情報工作に関するリテラシーを高めること、人権問題について注意喚起すること、そして北京冬季オリンピックに冷や水を浴びせたいという考えから、本報告書の概要を紹介させていただく。なお長文になることから4回に分けて紹介することとする。

↓リンク先(#StopXinjiangRumors)
https://www.aspi.org.au/report/stop-xinjiang-rumors

1.本報告書の内容(1)について
 ① 中国の情報工作概観
  中国共産党は新疆ウイグル自治区の政策に関して積極的な情報工作に従事しており、既存のメディアだけでなく、インターネットにおいても作戦を展開している。戦略目標を阻害する可能性のある話題に関する情報を操作しようとしており、特に新疆の人権侵害について敏感になっている。
具体的には、BMLを活用してアメリカの人権状況を批判し、国際的な人権の議論を再定義しようとしつつ、新疆における政策の前向きなイメージを形成しようとしている。
  情報工作は、中国共産党の地方組織が中心となって実施している。これは中国共産党の評価構造に起因しており、地方政府の高官が、国際的なコミュニケーション業務への貢献に基づいて評価されるためである。
インターネット上の作戦では、親中のインフルエンサーとの協調、海外の報道や情報への反論、新疆についての前向きな情報の発信などの活動を行っている。

② 調査手法について
  本報告書は、インターネット上の情報工作を分析するため、ツイッター及びユーチューブを含むプラットフォームにおける新疆ウイグル自治区に関する言論に影響を及ぼそうとする、以下の2つの中国関係ネットワークについて分析している。

・データ1:2,046のアカウント及び31,269件のツイートから構成される「新疆オンライン」(CNHU)
・データ2:112のアカウント及び35,924件のツイートから構成される「昶宇文化」(CNHU)

   ツイッターは、2つのデータが中国政府のものであるとしており、特にデータ2は、新疆ウイグル自治区の政府とつながりがある、昶宇文化と呼ばれる企業に関連しているとする。(現在、この2つのアカウントはツイッター社により削除されている。)

   今回はデータの量的分析と共に、ツイート内容の質的分析も行っている。また、ツイッター、ユーチューブ、抖音(中国本土のTikTok)のアカウントやコンテンツを独自に解析している。動画コンテンツの処理には、AddAxisのSightGraphを活用した。(SightGraphは、偽情報を拡散する本物ではないネットワークを分析する人工知能と機械学習の能力群であり、複数言語の文字を抽出し、自動翻訳に活用した。)
    ツイッターは量的分析により、2つのデータ群が技術的かつ行動的証拠の組み合わせにより相互につながり関係していることを突き止めたが、ICPCは非公開データに直接アクセスできないため、その分析手法、中国の情報作戦の全体像については不明である。

 ③ 分析結果概要
   分析対象となっているツイッターのデータは、表1のコンテンツであ る。

どちらのデータ群においても、新疆における人権侵害を否定しようとするツイートの多くは、2020年前後に始まっている。CNHUネットワークにおいては、2021年1月に活動が急拡大しており、これはBBC報道に反論する作戦と時期を一にしている。(図1、図2)

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 また、CNCCデータにおける一部のアカウントは本来ビジネス用であるが、おそらくは2020年6月19日より前の時期(本データ群において新疆及びウイグル人について最初にツイートした日)に再利用され、新疆関係のコンテンツを投稿する方向に移行している。過去の分析により、2019年12月にツイッター上のスパムボットが、人民日報及びグローバルタイムズの記事を拡散していることが判明している。(図3)

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 2021年初頭には、「#新疆の噂を止めろ」というハッシュタグが、両ネットワークにて拡散された。また2021年2月に大量作成されたCNCCデータ内のアカウントは、ハッシュタグ「ポンペオ」というツイートを投稿し、続いてCNHUデータのアカウントにおいてもツイートが投稿された。タイミングや表現の類似性は、協調した行動であることを示唆している。以降、詳細について確認していくこととする。


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