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サイバーに関する国際標準化団体の取り組み(CSCの記事)

写真出展:Gerd AltmannによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/geralt-9301/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=2676366

 2021年8月25日にサイバー空間ソラリウム委員会は、サイバーに関する国際標準化団体への取り組みに関する記事を紹介した。内容は、先日上院で可決したイノベーション及び競争法の内容について紹介し、今後の取り組みについて提言するものである。あまり話題になっていないが、今後のデジタル社会の推移を占ううえで重要な内容であることから、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(What the U.S. Competition and Innovation Act Gets Right About Standards)
https://www.lawfareblog.com/what-us-competition-and-innovation-act-gets-right-about-standards

1.記事の内容について
  ・先日上院で可決されたイノベーション及び競争法では、国際標準化団体への取り組みについて各種政策を盛り込んでいる。主に着目するべき事項は、以下の通り。
① 基準の価値
  技術基準は経済的利益をもたらすだけでなく、技術支配による戦略的優位性ももたらされることになり、国家安全保障に直結する。このため、基準設定には国家の価値判断が含まれることになり、例えば中国の国際標準化団体への注力は、顔認証や監視技術に関係しているのである。
② 国際標準化団体の状況
アメリカは国際技術標準化のリーダーであるが、中国は果敢に対抗しようとしている。国際標準化団体はそれぞれ固有の構造を有しているが、一般的に合意を形成し、任意の団体となっている。しかしWTOは、技術障壁に関する合意については国際標準化団体が設定した基準にできうる限り準拠するとしており、国際技術基準の重要性が増している。
中国は基準設定に積極的に関与しており、質より量で基準を提案し、拒否権を発動することで、産業界が先導する団体をけん制している。この結果、2010年から2020年にかけてISOの重役は58%増加し、特に技術委員会においては、アメリカを凌駕している。一方でアメリカの取り組みは区々となっており、ISOやIECでは重役を多く占めているものの、ITUはほとんど議長や委員長などを輩出していない。アメリカは全面的に中国に対抗していかなくてはならない。
③ イノベーション及び競争法の展望
 超党派で可決した本法案では、国際標準化団体への取り組みについて、4つの政策が提示されている。
  ・本法案は、中国の台頭とアメリカの取り組みにおける障壁の理解を促進するとしている。中国は国内企業が国際標準化団体に参画するための補助金を拠出しているが、このことは十分理解されていない。本法案のセクション3207において、国務長官と国家情報長官が協調して、中国の戦略について分析した報告書を提出するよう求めている。
更にセクション2517は、商務副長官にアメリカの国際標準化団体への取り組みにおける障壁に関する報告書を提出するよう求めている。特に注目されている団体はITUである。ITUはその対象を拡大し、新しいIP規格まで提案している。民間部門からもこのことを懸念する声が寄せられており、本報告書には、このようなフィードバックも含めるべきである。
  ・セクション3210において、各省庁横断グループを創設することとされているが、既に存在する機関の有効活用も模索するべきだろう。NIST、ICSPは長年の経験を有しており、セクション2306においても言及されている。
    その他、連邦通信委員会、国立科学財団、国家情報長官室、国際貿易委員会などはまだICSPに代表を出していない。ICSPに登録されている36団体のうち、1団体は標準化に関する高官がおらず、7団体は代表が登録されていない。議会は代表を出していない団体に迅速に対応するよう指示し、国家サイバー長官も加え、既存団体を活性化するべきである。

  ④ 民間部門の参加への奨励
    アメリカはこれまで民間部門を中心とした基準設定を行ってきており、国家規格協会(ANSI)が主導してきた。ANSIは民間部門との連携で重要な役割を果たしており、セクション3210でもこのことを強調している。セクション2520では、商務省が民間部門に国際標準化団体への参画のための補助金を拠出することを認めている。セクション2306では、NISTとエネルギー長官がデジタル経済技術に関する基準設定を先導することを求めている。
    特に基準設定には多額の予算を必要とすることから、財政支援が重要である。例えば、3GPPに参加するだけでも年間30万ドルも必要となる。これは中小企業にとって非常に重たい負担になることから、幅広く参加者を募るために財政支援事業を立ち上げるべきである。 
  ⑤ 同盟国及び友好国との連携
    アメリカ単体だけでは、国際標準化団体の取り組みを完遂することはできない。先進国は基準設定やサプライチェーンで重要なパートナーであり、基準策定に際し、これらの国々と緊密に連携するべきである。また途上国との関係も重要であり、中国に取り込まれた国々を、自由主義陣営側に引き込む必要がある。途上国は権威主義的陣営と自由主義的陣営に分かれており、今後のデジタル社会の基準設定は、どれだけ多くの国を取り込めるのかにかかっている。
   ANSIも政府にとって重要なパートナーである。ISOやIECの代表として、民間部門のみならず、各国とのやり取りの中心的な役割を果たしてきており、標準化システムの理解や能力構築事業を促進している。サイバー外交において、リーダー役となる組織を決定し、協調した取り組みを行うべきである。セクション3208では、政府、各組織及び同盟国などとの定期的な会合を開くよう求めている。
    サイバー外交において提言された、国際サイバー空間政策室は、この取り組みを行うのにふさわしい部署となるだろう。本法案は下院で可決されたばかりであるが、議会は世界各国に対する基準策定の能力構築事業を実施しつつ、ANSIやイノベーション及び競争法の取り組みを支援するべきである。

  ⑥ 各省庁の強化
    本法案とは別に、議会はNISTに十分な予算を配賦するべきである。2022年の予算要求では、45%増となっているものの、基準設定に関しては2.8%しか増額されていない。先端通信技術の調査及び国際標準化の多様化に関してわずかな予算しか割り当てられておらず、増員も含めた予算的、人的資源を割り当てるべきである。その他、官民の関係性についても配慮するべきである。各種団体は教育、能力構築で重要な役割を果たしており、基準策定の基盤形成のためにもこれら取り組みにも十分な予算を配賦するべきである。

2.本記事についての感想
  国際標準化団体については、過去に何度か記事にしたが、今回はイノベーション及び競争法における取組を紹介するものである。ヘリテージ財団の記事ではおおむね否定的な視点で論じられていたが、国際標準化団体への取り組みに関してはなかなか良いもののようだ。
  日本はあまり顔が見える対応をしておらず、おそらくアメリカに追随することだけが方針なのだろう。日本発の取り組みについては聞いたことがなく、総務省もあまり積極的ではないようだ。それでも、国際標準化団体の代表や委員長職などの重役の選出においては、アメリカと連携することができるし、クアッドなどの狭い単位では、アメリカの手の届かない部分を補完することができる。
  中国がややおとなしくなっているとは雖も、ITUなどでの取り組みは積極的であり、油断してはならない。あまり表には出てこない地味な論点ではあるが、こういったことも忘れないようにしたい。

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