学士論文 自傷関連

特定のストレスが友人関係に与える影響について
もし友人が自傷行為をしていたと仮定して

はじめに

• 自傷行為はもともと、異常心理学の分野であった。
• 近年では、上記以外の分野でも注目されている。
• 先行研究のほとんどは自傷行為者の性格特性や共通性を焦点に充
てている。
• 「自傷」という定義が曖昧である。

本研究の目的と意義

自傷行為の実態調査や経験者の性格特性などの研究が多く なされているが、まぜ異端視されているかなどの理由が明確ではなく、先行研究の大部分が 「自傷行為」=「異端」⇒「死(自殺)」という印象を筆者は受けている。しかしながら「自傷行為」は将来的なリスクだけではなく、日常生活にも少なくない影響を及ぼしているのではないかと思われるが、先行研究では病理的な知見はあるが日常生活への問題などは、ほとんど指摘されていない。
上記の内容を踏まえたうえで、本研究では「自傷」をストレスの特定要因とし、「自傷行為」非念慮群と経験 群、非経験群の 3 者の『友人が「自傷経験がある」と初めて認知した関係』の変化の違いに ついて検討することで、「自傷行為」が友人関係にどのような影響を与えるかについて調査する。

方法

• 関東私立大学生への質問紙配布による調査を行った結果、
有効回答205 名(男 性 50 名、女性 155 名)、平均年齢は 20.03 歳
(SD1.63)(男性:20.00 歳、女 性:20.04 歳)
・質問紙構成
1フェイスシート
2友人関係尺度
3自傷行為に関する質問紙
4友人関係尺度

自由記述について
• 回答者の自傷行為経験者は34名(男7名、女27名)
自傷行為念慮者は16名(男3名、女13名)

• 「自傷行為」という単語を知った場面は身近な場面が大多数
• 経験群の「自傷行為」へのイメージは・・・・・・
男性:具体的な方法が多い
女性:心情的な内容が多い

友人関係尺度の分析

1.前半と後半を比較
⇒1%水準で 有意差がみられた(t(204)=2.885,p<.01) 後半↓
2.直接群と間接群の前後差の比較
⇒差がない(t(203)=-1.633,n.s)
3.性差による前後差の比較
⇒差がない(t( 203)= 0.778, n.s)
4.友人との交流期間の高低群での比較
⇒(t(54)=-0.29,n.s)
5.「自傷行為」非念慮群、念慮群、経験群の比較
⇒非念慮群と経験群に有 意な差が確認された(t(101.68)=-2.02,p<.05

友人関係尺度の因子分析

• 19項目全体α=.929
• 主因子法、バリマックス回転での結果、4因子が抽出
• 第1因子(作用因子):α=.876 5項目
• 第2因子(友好因子):α=.859 6項目
• 第3因子(援助因子):α=.829 5項目
• 第4因子(絆 因 子 ) :α=.773 3項目

因子の比較

• 前後差の比較
⇒第1因子(t(204)=2.22,p<.05) 後半↓
第2因子(t(204)=5.42,p<.001) 後半↓
第4因子(t(204)=-4.19,p<.001)後半↑
• 自傷行為と第2因子の前後差の比較
⇒非念慮群、経験群の比較(t(93.56)=3.45,p<.001)
経験群、念慮群の比較(t(17.45) =-2.84,p<.05)
• 間接群・直接群と第4因子の前後差の比較
⇒(t(203)=-2.611,p<0.01)
• 交流期間高低群と第4因子の前後差の比較
⇒(t(54)=-2.136,p<.05)


Iはじめに
I-1:自傷行為の定義
まず、精神疾患の診断基準書ともいえる DSM-5 日本語版では軽度から中度の自殺企図のない身体への直接的な損傷を与えることが第一の基準案としてある。しかし、DSM-5 に記載されている Non‐Suicidal Self-Injury(NSSI)は暫定的な対応に過ぎないと言われている。自傷行為を単体の病理として扱うのかという議論もなされ、今回記載されている内容が自傷行為と定義するという統一化もまだなされていない。また、自傷行為とはどのようなものかという明確な線引きもなされていない。広義においての自傷行為で解釈すると、上記の DMS-V、それまでの自傷行為で報告されていた精神病者の四肢切断,眼球摘出,自己去勢などの重篤なものから飲酒,喫煙,ピアッシングなどの日常生活に浸透しているもの、また、摂食障害などのほかの病理などといった多種多様な行為が存在してしまう。そのため本邦での現在の研究段階ではどの程度が問題なのかを調べている最中でありながら、近年の心理学においての自傷行為の研究においては、各報告によって自傷行為の定義が相違しており、各報告同士の関連性をみるとしても注意しなければならない。しかし、Pattison etal.(1983)による「自傷行為は故意に自分の身体に対して致死性の低い損傷を与えるのもので、明確な自殺の意図のあるものや、薬物やアルコールによる間接的に自分の健康を害する行為を除外したもの」、本邦では松本(2014)は「自傷とは、自殺以外の意図から、非致死性の予測をもって故意に、そして直接的に自らの身体に対して非致死的な損傷を与えること」というようにある程度の共通のキーワードを含んだ定義がなされ、DSM-Vでも今まで曖昧であった自傷行為の大まかな線引きはなされた。しかし、自傷行為自体が独立した病理なのかどうか議論がなされている状態であり、上記はあくまで目安であり、明確な線引きではないと言えるだろう。
そして、近年では NSSI ともう一つの概念(Deliberate )Self-Harm((D)SH:故意に自分の健康を害する行為:※欧米では自傷行為者からの批判があり D(故意に)がつかない場合もある。)が存在している。また、本邦では「自傷行為」という単語が使われているが、「自傷行為」を表す外語が存在していない。海外では Self-mutilation:故意に自分の身体を傷つける行為(Emerson:1933 他多数)、Wrist-cutting/slashing、Injury to wrist:切ることに注目(Graff&Mallin:1969、Grunebaum ら:1969)、Wrist-cutting Syndrome:手首自傷症候群(リストカット)(Rosenthal ら:1972)というようにこれ以外にも様々な見解、概念が存在しており各概念によって自傷行為に含まれる行動、また自殺企図との違いなどが異なっていることを留意してもらいたい。
そして、DSM-Vのような診断基準、心理学などの定量調査による予防のための研究、入院患者や教育現場の生徒などの対応マニュアルなど用途に合わせた基準案が必要ではないだろうかと思われる。

I-2:自傷行為~なぜ再び注目を~
近年、若年層の自傷行為が問題視されているが、自傷行為そのものは様々な様式で確認されていた。精神医学では、自閉症スペクトラムのような発達障がいや統合失調症、うつ病、境界性人格障害などの重篤な精神疾患などに凄惨な行為がみられる傾向であった。また、うつ病患者などの自殺企図の一環としてもみられるようになっていたが、自傷行為は異常行動の一種として解釈されていた。しかし、1960 年代アメリカで流行し、西欧、そして本邦
でも流行していると言われる、上記のような重篤な病症ではないと思われる、比較的健常とされる人たちの自傷行為も確認され始めてきた。問題となった自傷行為とは、西園・安岡(1977,1978,1979)が本邦に紹介した Wrist-cutting Syndrome:手首自傷症候群である。
本邦では、西園・安岡(1979)、牛島(1979)が国内の患者の症例を報告している。しかし、しばらくは入院患者らの症例(安岡 1979、柏田 1988、大島ら 1991、大西ら 1991、服部ら1993)などを中心とした類型化ばかりであった。しかし、今日ではリスカ(リストカットの略語)という言葉が世間にだいぶ浸透していると思われる。様々な契機があったとは思われるが、契機の一つとしては南条あや(卒業式まで死にません:2000)の存在であったと考えられる。南条あやの慰霊碑のような公開 HP(南条あやの保健室)も存在するようにインターネットを通じて多くの共感者が存在していた。
それ以外にも、リストカット・シンドローム(ロブ@大月、20001、2002)や映画「終わらない青」など本や映像、さらにはインターネットといった情報媒体に数多くの手首自傷を題材(目的)としたものが存在している。自傷行為のサイトではないが勝又ら(2009)の調査によれば中高生の自殺関連サイトのアクセスに 6.2%が経験有と答え、アクセス経験有と無では自傷経験、自殺念慮に差があり、中高生のサイトアクセス経験の差はみられなかったといったという報告がある。今日では、自分の知りたい情報にインターネットでダイレクトにいくことができ、携帯、さらにスマートフォンのような多機能型携帯電話の普及により手軽に知ることができるであろう。

I-3:自傷の変化
本邦においての手首自傷症候群としての症例報告は牛島(1979)であるとされ、同年の西園・安岡の報告は入院患者で手首自傷症候群がみられた患者の特徴を紹介している。牛島は発症年齢の幅は広いが、10 代・20 代が 7 割近くであり、女性が多いと報告している。しかし、鮎田ら(2002)は自傷行為を起こして入院した患者をカルテにより平成 8 年 1 月~平成 13 年 8 月までを調査した結果、前期(平成 8 年 1 月~平成 10 年)では 40 歳代が半数近くを占めているが、後期(平成 11 年~平成 13 年)では、後期のみにみられていた 10代、20 代が 6 年間の 29%であり、社会的変化などの要因によって変化しているのではないかと指摘している。牛島の報告のほうが昔であるのにも関わらず、鮎田らの報告と差異が生じているのではないかという疑問が生じる。両者とも自身が勤務する病院のみの報告となっているために患者の傾向が異なったのではないかということ、また、牛島は手首自傷としたのに対し、鮎田らは自傷行為とし、方法や部位の条件はしていなかったためではないかと考えられる。
鮎田らの報告や実際に治療行為を行った者などでは、若年層の手首自傷行為者は増加傾向であるのではないかという指摘がある。その疑問に対して岡田(2005)はある大学の女子学生の 2000-2004 年度入学者に過去 2-3 年までを対象に調査を行ったところ、増加傾向はみられなかったと報告している。しかし、喜田(2012)の調査で指摘された調査対象者、それ以外にも大学の偏差値、自傷行為経験者の大学進学率などが不明といったことを考慮すると鵜呑みにできないのではないかと考えられる。
本邦においてはここ 10 年近くで大学生や高校生といった入院患者ではない比較的健常とされる人らを対象に定量調査などが行われてきている。大学生を対象に調査した山口ら(2004)では、自傷経験者の平均年齢は 19.1 歳であったが自傷開始平均年齢は 13.9 歳であった。若年層の自傷行為が問題視されてきているが、自傷開始年齢が若年化しているかどうかの比較が困難であるため実際にどうかわからないではないか。牛島(1979)は 13 歳の女子の例を体験していると報告し、これは山口らの自傷開始時期にほとんど一致していることを考慮すると、我々が把握していなかっただけで実際には自傷行為に大きな変化はなかったのではないかということも考えられる。また、服部ら(1993)の入院患者のカルテによる分類調査では 1970~1990 までの時代による年齢の変化はみられなかったと報告している。岡田(2002,2003,2005,2010)が報告した自傷質問紙などは「過去~年以内に」という内容で各自傷行為を調査しているため、開始時期が不明瞭などであり、本邦において実際に自傷行為が若年化しているかどうかの比較データはないため定かではないというのが実情ではないだろうか。また本邦では表-1 のように定量調査目的のため「自傷」で含まれる項目が様々であるため本邦においての研究で「自傷が増加傾向である」と報告されてもどのような様式が増加傾向であるのかを把握する必要があると思われる。牛島(1979)は「わたしは、思春期と年齢のすすんだ成人例とでは、思春期の情緒問題を成人になるまで持ち込んだ例は別にして、その精神力動的意味は若干異なっているのではないかという印象をもっている。」といっている。しかしながら、定量調査はいうまでもなく、症例報告でも行動分析や成育歴などの分析が多く自傷行為者のエピソードが載っている報告はほとんどないと思われる。自傷行為の要因として頻繁に見受けられる概念が E.H.Erikson の「自我同一性の拡散」である。仮説の一つではあるが、自傷行為の若年化とは先ほど引用した牛島(1979)の「思春期の情緒問題」=自我同一性の拡散であり、そのような件数が増加しているだけであり自傷行為の本質は変わっていないのではないかということが考えられる。

I-4:自傷と自殺
本邦では自傷行為では、DSM-Vの Non‐Suicidal Self-Injury(非自殺自傷)や Wristcutting syndrome、Deliberate Self Harm(DSH)というように自殺企図のないものを指している定義がほとんどである。しかしながら、海外では自傷行為を自殺企図に含むものとして Self-injury、Self-injurious Behaviour(SIB)(Ballinger:1971 など)や自傷行為を自殺までの同一スペクトラムして考える Parasuicide(パラ自殺、局部自殺)(Krietman;1976)という概念がある。
だが、菊池(2013)が指摘しているように、自傷行為を繰り返している先に起こりうる自殺というのは自傷なのか自殺なのか判別は誰にも、当人にもわからないであろう。しかしながら、南条あやのように繰り返される自傷行為の先に自殺してしまうケースは往々にありうると思われるし、10 代の自傷経験は今後の人生においての自殺率を何百倍にも高めるという意見も存在し、『『自傷行為』における『自殺の意図の有無』を確認することは困難であり、自傷行為を自殺関連行動との明確な線引きが困難であることが明らかになってきた。すると、そこから「自傷行為は自殺関連行動の一部と考えるべきである」とする説と、「自殺の意図に関わらず、自分を傷つける(害する)行為を自傷行為とする」とする説とが生じ、定義に関するその後も混乱は続いている』と山田ら(2008)が述べているように、ここでも自傷行為に対する統一された線引きがなされていないことが伺える。角丸ら(2005)では、「自殺」「自死」「自傷」の認識を大学生対象に調査している。その結果では、自傷未遂が 14.5%、自傷経験有が 8.3%であり、自殺念慮は 30.6%であり、自傷、自殺念慮ともに人間関係における悩みが多くみられた。また、「自傷」(聞いたことがある 91.3%)と「自殺」の違うと答えたものは 65.7%であり、結果としての生死の問題だけでなく、自傷行為は「生きたい」「助けてほしい」(クライシスコール)など安心の材料や自己満足という意見が挙がっていた。松本ら(2009)の公立中学生への調査では、「消えたい」とうい内体験が男子生徒 27.1%・女子生徒 39.4%、「自殺念慮」は男子生徒 10.2%・女子生徒 20.5%、「自殺計画」は男子生徒 1.7%・女子生徒 7.0%、そして「自殺企図」は男子生徒 0.8%・女子生徒 3.9%で確認された。自傷様式では、男女ともに最多は「殴る」であり、「切る」は 8 様式中男女生徒ともに 6 番目であった。DSH と自殺念慮との関係では、男子生徒の「消えたい」と「自殺念慮」の双方に共通して関連している自傷様式は「頭を打ち付ける」であったのに対して、女子生徒では「消えたい」と「自殺念慮」の双方に共通して関連している自傷様式はなかったが、「消えたい」では「刺す」「殴る」「噛む」であり、自殺念慮では「頭を打ち付ける」「掻きむしる」「つねる」であった。男女生徒ともに「刺す」という身近な文房具を使う場合を除いて「原始的」と言える方法を選択する傾向があることからこの調査からわかった。
しかし、松本らはこの調査で本邦の研究は Cutting に固執しすぎている感を覚えているが、この調査のように、Cutting の選択する前段階があるのではないかと指摘し、また被調査者らが Head Banging や Hitting などを暴力行為と認知し、自傷行為とは認識していない可能性も指摘しているが、この研究でも自傷行為と「消えたい」(自殺念慮)とは別であるという確証は得られなかった。
赤澤(2012)の高校生を対象とした調査では、自傷行為(Cutting 限定)単独経験者は11.9%、過量服薬(故意に自分を傷つける目的)と併せて体験している 3.3%であり、両者に共通して死生観尺度は「人生における目的」であり、これは自尊心と有意な関連があると報告しており、「人生における目的」の高さ≒自尊心の高さであり、自殺念慮や自殺行動を取ったりする青年は自尊心が低いという報告も踏まえると自傷行為単独経験と過量服薬と併せて経験と自殺関連行動は関係を示唆していると赤澤は報告している。しかし、自傷行為単独経験と過量服薬と併せて経験が同じような死生観をもっているわけではないらしく、死生観尺度と自傷行為単独経験では「死とは何か」とよく考えたりするなど「死への関心が高いといった関連がみられたのに対し、「死人生における苦痛からの開放である」いう考え、死を恐れない傾向がみられたというように自傷行為単独経験と過量服薬と併せて経験では死に対する意識の差がみられたと報告している。
以上、これらの報告を考慮すると自傷と自殺では被験者に誤解を与えないように別として扱うものとして調査を行うとしても、本質的なところでは同一線上存在している問題であるということを念頭に置いておく必要があると判断することができると思われる。


I-5:自傷行為を統計的に
表-2 に筆者が把握している本邦においての自傷行為を測定するための尺度と質問紙に関する論文をまとめた。また、各質問紙の因子を表-3 にまとめたので合わせて紹介する。自傷行為を質問紙によって統計的に調べるには質問紙が必要であるが、本邦において質問紙が作成されたのは、荒川(2001)が自傷行為者へのインタビューをもとに作成し、岡田(2002,2003,2005,2010)が紹介した自傷行為尺度が初めてと思われる。その後、横山ら(2005)が作成した自傷行為をスペクトラムとして捉えるために岡田(上記)の質問紙を改良した自傷行為親和性尺度、自己への攻撃性の一部として捉える山口(2006)、Walsh の概念に則って心理的背景に注目し、自傷行為へは間接的に問い、被調査者への負担を配慮した自傷行為尺度が存在する。しかし、各質問紙では自傷行為の定義が異なっているため、各質問紙の結果を照らし合わすことは困難であると思われる。表-3 に各質問紙の因子を記載したが、例で挙げるならば、岡田(2002)の質問紙の因子は自傷部位であるのに対し、土居らの質問紙は心理的背景が各因子として表れている。そのため、調査者は自身の研究テーマをもとにこれらの質問紙の特徴を考慮して扱うことを推奨する。
また、上記の自傷行為質問紙以外の方法としては、フェイスシートに記載、オリジナルの自記式質問紙や攻撃性尺度、非行行動尺度などが使用されるケースが多い。これらは故意に喫煙・飲酒・摂食などと組み合わせることが容易であるためと思われる。調査の際、特にフェイスシートなどで項目を作る場合では、先ほどから何度かふれているが調査したい自傷様式と自殺企図との連続性、調査対象時期などを考慮する必要がより求められているのではないかと思われる。


I-6:自傷行為者の心理特性と養育歴、成育環境など
松本(2006)の中高生と少年院施設入所者の調査によれば、一般生徒の自傷経験(男子:7.5%、女子:12.1%)に比べ施設入所者(男子:18.1%、女子 54.8%)は一般生徒と比べ高率であり、特に女子の割合が著しい。両者に共通している特徴としては、Cutting 経験者はHitting、Head Banking、根性焼きなど他の様式の自傷行為を行っている者が多く、またアルコールや喫煙、薬物の経験者や勧誘を受けた経験、知人が物質使用の問題をもっている者が多く。将来的に物質依存の危険性をはらんでいると示唆している。また、男女問わず、摂食障害の傾向や自殺念慮を抱いたことがある者、自尊感情が低いなどと報告している。
現代社会の大きな特徴として、パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレット端末からインターネットを通じてダイレクトに知りたい情報にたどり着くことができる。このような現代社会において勝又ら(2009)の調査で中高生の 6.2%が自殺関連サイトを閲覧した経験があり、中学生と高校生においての有意差はなく、自殺関連サイトの閲覧経験がある群では未経験群と比較し、自傷や自殺念慮(企図)を経験しているという報告もある。

II-1:本研究の目的と意義
以上の先行研究の整理から、自傷行為の実態調査や経験者の性格特性などの研究が多くなされているが、なぜ異端視されているかなどの理由が明確ではなく、先行研究の大部分が「自傷行為」=「異端」⇒「死(自殺)」という印象を筆者は受けている。しかしながら「自傷行為」は将来的なリスクだけではなく、日常生活にも少なくない影響を及ぼしているのではないかと思われるが、先行研究では病理的な知見はあるが日常生活への問題などはほとんど指摘されていない。
そのため、本研究では「自傷行為」が友人関係にどのような影響を与えるかについて検討する。DSM-5 の B-2 において、「人間関係の解決」という項目や自傷行為とストレスの関係についての研究(喜田裕子ら:2012、松本俊彦:2012、上河邉力ら:2011)はあるが、「自傷行為」経験者のみを対象とした研究であり、「自傷行為」が他者にどのような影響を与えうるのかについての研究はほとんどない。
また、「自傷行為」は伝染性がある可能性もある(松本:2014)という指摘もあり、「自傷行為」非経験者においても、経験者との交流は先行研究の見解からではリスクがあると考えられるだろう。
そのため、本研究では「自傷」をストレスの特定要因とし、「自傷行為」非念慮群と経験群、非経験群の 3 者の『友人が「自傷経験がある」と初めて認知した関係』の変化の違いについて調査することを目的とする。「自傷行為」とは忌避するものであるのであれば、単純に考えると友人関係は悪化するであろうが、友人との関係は人それぞれであると思われるが、人間関係はそのように単純ではないということを仮説にし、前後差の違いの特徴などを
調査する。また、柏田(1988)の分類した「他者操作要因」についてではないということに留意してもらいたい。
また、『友人が「自傷経験がある」』という情報の開示・隠ぺいの影響を確認するため、質問紙は 2 種類用意する。

ここから先は

5,606字 / 3ファイル

¥ 100