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入門歯科保険診療-カルテの書き方-     「POMRと歯科保険カルテ」

歯科の保険診療のABCを解説する不定期連載です。カルテの記載方法、カルテメーカーでの入力方法などを解説していきます。研修医の先生や、新規、個別指導を控えた先生の参考になればと思います。

POMRと歯科保険カルテ

これまでPOMR(問題志向型診療録)を紹介してきましたが、その方法はどちらかというと理想的で原著に忠実なものです。原則通りにカルテを書くことは良いのですが、歯科の保険診療ということになると、まずは「歯科」の特殊性、そしてさらに「保険診療」という枠組みがあるので、不足する部分や逆に過剰な部分がでてきます。また、ガチガチのPOMRは記載が面倒で読むのも大変です。何より、この連載で目指しているのはPOMRの実践ではなく歯科保険診療のカルテですので、それに合致するように書式をアレンジしていく必要があります。

■問題リストと1号カルテ

POMRにおいて「問題リスト」は最重要な存在です。また、問題リストは固定されたものではなく、日々のSOAPを通して、複数の問題が収斂して一つの問題として認識されたり、逆に1つの問題が複数の問題からなってると判明したりします。個々の問題は解決して消えたり、新たな問題が発生して追加されたりします。

このため、本来問題リストはいわゆるカルテ(経過記録)の中に書くものではなく、問題リストだけを書いた別紙を用意してそこに書いていきます。

では、歯科保険診療カルテではどこに書けばいいでしょうか?

正解は、1号用紙の「傷病名欄」です。

POMRにとって「問題リスト」が最重要な存在であったのと同様に、保険診療カルテにおいて最も大切で重要視されている存在も、同じく、この1号用紙の「傷病名欄」です。

個別指導で最初にチェックされるのは、「主訴欄」とこの「傷病名欄」です。ここがしっかり書かれているカルテは大概中身もしっかりしたものですが、ここがいい加減なカルテは、ほぼ間違いなく保険診療を理解していないと思われるようなカルテ記載になっているものです。

ただしPOMRの問題リストと違い、ここの書けるのは歯科保険診療の対象となる傷病名だけです。社会的問題とか生活習慣等の問題、治療の対象外の医科病名などを書くことはできません。

そのような問題も一緒に管理する場合は、別紙の問題リストを用意するか、電子カルテの問題リストなどを活用するようにします。

■基本データ vs SOAP

最初の頃にもお話ししたように、初診時のカルテの記載方法としては、原法に近い基本データ(現病歴、現症、考察、初期計画)で書く方法と、いきなりSOAPで書く方法の2つがあります。

歯科の場合、問題(プロブレム)の切り分け(診断)は比較的容易ですので、原法に従わずいきなりSOAPで書き出しても全く問題ないかと思います。特に最近のカルテコンではSOAPで入力する方法に最適化されている場合もありますので、あえて基本データの項目を入れて入力するのは効率的ではありませんので、無理して原法に従う必要はないでしょう。

また、プロブレムの切り分けが十分できない状態でも、現病歴、現症、考察、初期計画の代わりにS、O、A、Pで記載してもなんら問題はありません。

■SOAPの順番や繰り返しにこだわらない

SOAPの記述の順序はS→O→A→Pであり、一つのプロブレムに対して1診療につき1回SOAP記述があるのが基本です。しかし、保険診療における必要条件(検査等の必要性の記録など)や歯科が外科系医療(時系列に沿った記録が必要など)である点を考慮すると、この基本に忠実に記載することは不可能です。必然的にSOAPの繰り返し、省略、順序の変更などが生じます。

具体的には、時系列に沿った記録を最優先し、それぞれの記録をSOAPに分類して記述するだけ、その記述順序、繰り返しは気にする必要はありません。

【S】ズキズキ痛む。昨日から眠れないほど痛い。
【O】咬合面に大きな齲窩
【A】う蝕の進行度、歯根の状態を確認するためにX線撮影が必要
X線撮影(デンタル)
【O】歯冠部遠心1/3に透過像、歯髄腔と連絡している。歯根膜腔の拡大。根尖部透過像はない。
【A】急化Pul
【P】麻抜
 浸麻(…
 麻抜…
 EMR…
 拡大…
【O】天蓋除去時に排膿と出血。根管はやや狭窄していた。
【P】麻酔の諸注意、抜髄後の疼痛の発生等の説明をする。

記述例

■補助的な分類を積極的に使う

既往歴、服薬履歴、指導、などといった補助的な分類を積極的に活用しましょう。格段にカルテが読みやすくなります。

【既往歴】
【基礎疾患】
【生活歴】【生活習慣】
【家族歴】
【服薬履歴】
【アレルギー】
【説明】
【指導】

忘れがちですが、患者さんに説明、指導した内容は【説明】【指導】等の分類を設けて簡単でもいいので必ず記録しておきましょう。

また、昨今インフォームドコンセントが重要視されていますので、特に抜歯などの場合、

【説明】抜歯の必要性を説明し、同意を得た

という記録がないと個別指導の場面だけでなく医療事故等の裁判時に非常に不利になります。
一般的に治療計画を立てた際には、

【説明】以上の治療計画を説明し、同意を得た。

という記録を残しておくだけで、トラブルを未然に防ぐことができます。(もちろん、ちゃんと説明して同意を得てくださいね)



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