パワハラ防止対策義務化。企業がやるべき5つのこと。
2020年6月1日より、企業に対してパワハラ防止対策を行うことが義務づけられることになりました。(中小企業は2022年4月1日から)
※なお「パワハラ防止法」という法律はありません。「労働施策総合推進法」の中で、パワハラ防止対策しなさいよ、と義務付けられた、ということになります。
人事担当の皆様が気になっているのは「で、何やればいいの?」ってことだと思います。
厚生労働省からは次のサイトにて詳しく情報提供されています。
・・・がしかし、詳しすぎてわからない(涙)。
という方のための、意訳版です。
あるあるどハマリ例は、「これってパワハラなの?パワハラじゃないの?」のところで迷宮に入りこみ、お腹いっぱいになって終了してしまうことです。
■事業主がやるべきこと(厚生労働省より)
パワハラ防止対策でやるべきこととして、厚生労働省からは次の4つが示されています。
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
④合わせて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取り扱いの禁止等)
何だか分かったような分からないような気持ちになります。これをかみ砕くと次のようになります
■事業主がやるべきこと(意訳版)
1.「パワハラはいかん!」と社長が宣言すること
2.何がパワハラなのかを明らかにすること ⇒周知もね!
3.相談窓口を決めること ⇒周知もね!
4.パワハラが起きた場合の対応方法、再発防止策を決めておくこと
5.相談しても不利な扱いはしない、秘密は守る、と決める ⇒周知もね!
具体的に説明していきましょう。
1.「パワハラはいかん!」と社長が宣言すること
まずはこれが大切ですね。何事もトップの意志表示から。
会社としてパワハラは許さないよ、という意志を示すことです。
2.何がパワハラなのかを明らかにすること⇒周知もね!
パワハラはいかん、と言われても、何がパワハラなのかが分からなければ何もしようがありません。ですから「パワハラ」って何ですか?を知る必要があります。
パワハラについてはこれまで明確な定義がありませんでしたが、今回「パワハラ」が公式に定義されることとなりました。
「職場において行われる」次の3つの全てに当てはまるもの
①優越的な関係を背景として言動として
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの
具体的にはどんな行動が当てはまるのかということについて、
厚生労働省は、6つのパターンに分けて具体例が挙げられています。
パワハラ防止対策の義務化、パワハラに悩む労働者にとっては一歩前進とも言えますが、一方会社側からは「まともな業務指導ができない」「こんなこと言ったらパワハラと言われてしまうのではないか」と怯える上司の声も聴きます。
これに関しては「客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指導」はパワハラに該当しない、とされています。
ほっと一安心?
しかし「客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲」って何でしょう?
また、パワハラの判断にあたっては「平均的な労働者の感じ方」を基準とするとされています。「相手が嫌と感じたらパワハラ」ではない、ということですね。
しかし「平均的な」って何でしょう?どの程度?
これがパワハラ防止対策の難しいところです。ある人にとって「客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲」「平均的な労働者の感じ方」でも、別の人にとってはそうではないかもしれません。10人のうち9人が「それはパワハラじゃない」と言えば、行為者とされた人は安心かもしれません。しかしそれは本当に「問題なし」なのでしょうか?
「青」は進め。「赤」は止まれ。のような明確な基準がないため、人の感じ方に左右される部分が生まれてしまうことは否定できません。そこが問題が生じやすいところです。
ですので、この過程では、まずは
①まずは基本の考え方を学び、知らないが故に起こる行き過ぎた言動、または、必要以上の萎縮が起こらないようにする
②その上で、個別の事例について、それがパワハラに該当するかどうかの考えを深める
という一般的知識を会社全体で身につけることを目指します。
これを行うためには、教育研修を行うことが効果的です。
①で基本を学んだら、ぜひ実際の事例に基づいて、②をやってみてください。自分たちの周りで起きた実例にあてはめてみることで、やっと「なんとなくぴんとくる」状態になります。
ロールプレイングなどを活用すると効果的でしょう。
3.相談窓口を決めること ⇒周知もね!
次に、相談窓口を決めます。
人事の担当者が窓口になることが多いですね。男性女性、別々に選ぶとよいでしょう。
社内の担当者では相談しにくいということも考えられますので、外部の相談機関を利用する例もあります。
パワハラ相手が相談窓口、という可能性もなくはないですし、相談窓口になる人には、高度な話を聴くスキルや人間関係調整力も必要になるため、外部機関の方が好ましいという考え方もあります。
窓口を決めたら周知しましょう。知らなければ使えませんので。
4.パワハラが起きた場合の対応方法、再発防止策を決めておくこと
ざっくり言えば、パワハラの相談があった場合にはこんな対応をしましょうね。ということです。
・事実を確認しましょう
・パワハラだったら・・・
⇒被害者保護しましょう(配置転換、メンタルヘルスケアなど)
⇒行為者に罰を与えましょう、謝罪させましょう
・パワハラでもパワハラでなくても
⇒改めてパワハラ教育をしましょう
さらに、これらは問題が起きる「前」に具体的な手順や担当者をきめておきましょうね、ということです。
具体的には、双方からのヒアリングの担当者やフローを決めておくこと、パワハラが事実かどうかを判定する方法を決める、就業規則等で懲戒等の手続き定めておく、などの仕組みの整備を行うこととなります。
5.相談しても不利な扱いはしない、秘密は守る、と決める ⇒周知もね!
パワハラを相談する場合、相談する側はかなりの勇気をもって行動を起こしている状態といってよいでしょう。ですから「秘密は守るよ」と決めること、そしてそれを周知して安心してもらうことが大切であることは言うまでもありません。
真のパワハラ防止対策とは?
どれだけ事前に教育を行っても、厳しい罰則を作っても、パワハラによるトラブルは起きえます。なぜなら、パワハラが人と人との間で起きる問題である以上、一つの行動に対する感じ方には差があるからです。
もし本当にパワハラを解決したければ、問題が発生した際にいったん「パワハラ」という言葉を使わないで解決策を考えてみることをお勧めします。
私が気になっているのは、「パワハラ」という言葉を使うとどうしても「パワハラか否か」の判定と罰則に議論が集中してしまい、本質的な問題が見えなくなってしまう様子が見受けられることです。
会社は裁判所ではありません。
パワハラ防止対策の目的は、ある行為に裁きを与えて魔女狩りすることではなく「パワハラ」と呼ばれる状態が発生しない組織をつくることであるはずです。
仮にある行為が「パワハラに該当しない」という結果だった場合は、何もする必要がないのでしょうか?
いいえ、誰かが「パワハラを受けた」と感じる状態が起きていることそのものが、組織として改善すべき課題がある、ということには違いありません。
「パワハラに該当する」こととなった場合は?適切な対処を行うことはもちろん必要です。しかし、罰を与えたらパワハラはなくなるのでしょうか?
該当の行為と全く同じ問題は起きなくなくなるかもしれませんが、別の事例で同じような問題が起きるでしょう。または、現場上司に委縮を招いてしまうかもしれません。
チョコレートを食べ過ぎるとニキビができるかもしれません。薬をつければ一旦表面上は消えるかもしれませんが、食生活そのものを改善しなけば再発しまうのと同じです。問題は今目に見えているニキビそのものをどうにかすることだけではないのです。
パワハラ防止対策もそれと同じ。パワハラ問題解決の鍵は、実は目の前で発生している問題そのもの以外のところに答えがあります。
パワハラの基準を決めることや認定することや罰を与えることについては、基本的な知識を身に着けることや仕組みを整えるうえでは必要なことではあります。しかしそれはインフラを整備しただけにすぎません。
2人以上の人と人が集団の中で気持ちよく働くためにはどのようにふるまうべきなのか。これらを、日頃の業務の中で培っていくことが、遠回りなようでいて本質的なパワハラ防止対策となります。
そのためには、日頃からのコミュニケーション教育や、組織の関係性の質を高める取り組みを行っていくことが求められます。
そうは言ってもね、
「パワハラ防止っていっても何やっていいかわかんないよー」
「パワハラって言われたけどどうしよう」
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そんな場合は下記にご相談くださいね。
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http://officerole.jp
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