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pink sun pink moon pink you

pink sun, pink moon, pink you
ピンクのお日さま、ピンクの月、ピンクのあなた



どこからか、
下手くそな歌のような、おんがくのようなものがきこえてきました。
足をふんばりながら、急な山道をおりていて、 なんとなしに目を横にむけると、草のかげにささっと何かがかくれた気がしました。 立ち止まってじっと見て見ても、なんにもありません。 気のせいか、と、また足をうごかしおりていると、 やっぱり目の端のほうに、なにか動いている。 けれど、葉をよけてみても、なんにもいません。 変なの、ね。たくさんのクエスチョンマークのかんむりをかぶって、 スタスタスタ、と、おりつづけてました。
あ、そうだうちに帰ったら、 猫のプウプウがよろこんでしっぽ立てて飛んでくるだろうなぁ。 そんなこと思い出していたら、クエスチョンのかんむりは風船みたいに、 気づかないうちにこっそり、バラバラと空にむかって飛んで行ったみたいです。
何時間も地面を交互にふみしめていた足のうらはジンジンとしびれて、 熱い白と、しろい白が点滅しはじめました。
少しずつ、雨がふってくると、
体は雨をすいこんで半とうめい。 重くって動けないし、あたまの上にはにごったブルーグレーの雲がうかんでいます。
するとまた、さっきのクエスチョンたちが猛スピードで飛んできて、 どこぞの暴走ギャングのように、ウワンウワンとエンジン音をふかして雲をめちゃめちゃにけちらし、 パラリラパラリラって鼻を鳴らしながら まあるい大きな、おおきなピンクのお日さまを、両手で(はい、どうぞ。)ってくれたのです。 そういうことで、私はピンクの光をあびて、ピンクの私になりました。 雨はすぐそこで少しばかりくやしそうに、きらきらきら、きらきらきらと 粉みたいなこまかいひかり、とばしながら、とってもしずかにしておりました。
ピンクの私は、ピンクのお日さまと一緒に歩きだしてみました。 しばらくすると、草むらから、カサコソと音がしたとおもいましたら そのひかりに照らされた小さなひとたちが、すがたをあらわしたのです。 彼らは一緒にぞろぞろと、葉っぱや花々のかげに隠れながら私のあとをついてきました。
私はあんまり知らないふりをして、たかい草をかき分けて前へすすみました。 私は彼らの大きいバージョンみたいでした。 そして彼らは、私の小さいバージョンでした。
気づけばみんなおんなじような色に染まって、ピンクのお日さまは、ゆっくりとオレンジに、 そして、ジーン、ジリジリ、ジューンと地面を焦がしながら 落っこちた火の玉みたいに土の中にくるくるとしずんでゆきました。

空気らは、それを察したのか、はっと息をのんで、すかさずうつくしいブルーの息をぷうっとはき出し、 この世界をまたたくまにうつくしいブルーにしました。
ピンクのお日さまはいなくなったはずなのに、 私のハートはいつまでもピンクに染まってしまったままでした。 彼らもまた、ピンクの彼らのままでした。
彼らは、水たまりに映ったピンクのじぶんにほれぼれとしてしまって、 おしゃれをしたくなって様々なもようのはいった生地を すごいスピードでこしらえはじめました。
わたしが、わたしがピンクを忘れたら、わすれたならば、この色はいなくなるのかな
彼らも、お日さんも、お月さんも、ピンクをわすれたなら。らんらららら。
わたしと~あなた~ あなたがピンクで~わたしもピンク 鏡みたいね~ ピンクのお日さま ピンクのお月さん ピンクのわたし ピンクのあなたね~
わたしはひとりで、ちょっと歌うみたいにして、 だれにも聞かれないくらいちいさいかすれた声で、 青くさい草みたいなにおいのかぜにゆれながら、リサイタルをひらいていました。 だれにも聞かれていないと思って気持ちよくうたっていたら、 あの小さな人たち、すてきな服をまとって、湯船のような一体感でゆれています。 はずかしいと思いつつ、いい気分になって、なんだか楽しくなってめちゃくちゃにうたって、 そしていつまでもうたって、どこまでもうたっても、うたは終わらなかったのでした。
そうしたら、向こうから突風がふいてきて、 あわててそこにあった木にしがみついて、わたしは旗みたいにたなびいて、 うたはみんなして、ずいぶんとおくまで飛んでいったようでした。
ピンクのお月さまはしずかに山の向こうからのぼってきて、 「ばかな子、ね」と、いい声でほほえみながらつぶやきました。 (じつはね、お月さまは、わたしのピンクを反射して、ピンク色になったのですよ。)


おしまい



2021.July “pink sun pink moon pink you” Karin Okamoto At fabric camp