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まぼろし

まぼろし 



さくらがちってからは、ラッパ水仙が咲いてちって、
おおいぬのふぐりも咲いてちって、しゃくなげも咲いてちって、
アヤメもさいたかとおもったらちって、菜の花は長持ちしてた。
フリージアもさいてちって、そういえばチューリップもながもちしてた。
紫陽花がぼーぼー。
かき分けてみたら、花の形のうす緑のあじさいのはなのかたまりのようなものがあり、
しーんと咲くのをまっていました。
まっていたと思ったら、いつの間にやら
ひらいてちって
葉っぱだけがのこって、葉っぱだけが、のこって、
葉っぱだけがのこってしまった。

そのうち棒みたいな枝だけになるんでしょう。

いま窓の外には、ほんの少しの、
サルスベリの小さなピンクのフリルが雨にぬれ、風にゆられて
チアリーダーみたく手をふっている。
ハロー!また来年会おうね。
花々たちは、まぼろしのようにひらいて、ちって、ひらいてちってしている。
花たち、しばしの別れ、あばよ、花たちよ、草たちよ。
あたたかくなって、じめじめして、汗いっぱい。陽にやけて、皮むけて、涼しくなって、寒くなって、あせもかかなくなって、白くなって、凍えて、かたくなって
またあたたかくなって、ゆるんでほどける。ひらひらひら。


それでね、あなたが今見ているこの まぼろしのつくり方はこうです。

目を一度つむって、次にそのまぶたをあけるまえに、まぶたの先に浮かぶもの、
まだ見ぬ宝ものの景色を願います。
空から呼んだ雨みずやあなたの今までの涙をたっぷりためた小さなビンに筆をさして
さまざまなその、景色から採取してきた色たちを、溶かして紙の上に泳がせるのです。

それから、ちっていった花たちの亡霊にはひとつひとつ、細い糸をとおして、
むすんで首かざりにします。
そうすると、いつでも胸もとに、光っているんです。
わすれたらなくなって、思い出せばいつでもあらわれるすぐれもの、
うつくしくて、おかしな首かざり。これもまぼろしでできています。あたたかい。

フラッシュ。



まぼろしのさなかにいたら

花たち草たち生きものみんなとびはねて、花粉や菌や土や埃、文字も光も色彩もとび交って、種もまきちらしてね、
笑うし泣くし、太るしやせるし、ピンクの月はほほえんで、ラブレターはちゃんと届く。

ちらかりカオスのそれはそれは見事、完全無敵のパーティーです。
わたしは、はじけるようなちからもち あなたも、あなたも、あなたもどうぞ、ホイホイ。
なんでもできちゃう手のひらに手品のように現れては 消えてゆく。
ここへきてまたいなくなる、いなくなってもここにいる、亡霊よ、
ささやかでいとしい自由なまぼろしよ。
さああそぼう、ゆっくりしよう ピンクのお茶のもう、カルダモンのコーヒーのもう

それから

口の中に何か飛び込んだかと思うと、あまく、溶けていってしまいました。
ありがとう!
また、ラブレターを書くよ。




2021.Oct / まぼろし / Karin Okamoto /at John


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