【創作】「こんな日には」

いつからだったでしょうか、家族の意見に頷けなくなったのは
いつからだったでしょうか、家の中が息苦しい場所になったのは

今まで大した苦労も体験することはなく、生きてきました。
病気で体がつらい、学校生活が上手くいかない、欲しいものを買ってもらえない
それでも大病で入院することはなく、成績は悪くても中の下で、数か月経てばそれは特に欲しいものでもなくなっていました。
基本的には衣食住に不自由することなく、行事やイベントを楽しめて無理な生活は強いられませんでした。

昔は何をせずとも褒められていました。大人しいというだけで、少し自分の考えを言うだけで、少しニュースの話をするだけで、「よくできた子だね」と、色んな大人は評価をしてくれていました。
自分の話をすると「タイミングを考えて喋りなさい」
黙り込むと「愛嬌よく、要領よく思っていることを伝えなさい」
問答無用で見ているニュースに出ているコメンテーターにはたくさんの肩書があって、そんな人が言うことはきっと正しいのだろうと言葉をなぞっているだけなのに

「会社の部下に指導してやろうと思ったが、やめた。そんなことも今の子は分からないものか。」
「部下の一人が見ているだけで嫌な存在になっている。今日も他の部下の子と陰口を言ってやった」
楽しそうに意見を合致させて話す父と母が気持ち悪かった
私がいじめられていた時に全力で守ろうとしてくれたあなたたちはどこに行ったの?
世間の移り変わりに意識を傾けていた気持ちはなくなってしまったの?
私になんて言ってほしいの?
「そっか、そういう機会がなかったら分からないのかもね」
「何がそんなに嫌なの?」

「まぁ、社会に出てないからな。機会がなかったとかは言い訳にならんことを覚えておいた方がいい」
「なにがって、見た目とか雰囲気が気に食わない」

お前はそうはならないよな、とでも言いたげな目。
「そっか」
表情を取り繕いながら、その言葉だけを口から絞り出した。

悔しい
何も言い返せない
この空間の除け者にされたくない
自分を主張することで、何もかもを否定されるのが怖くて

自分一人でなんて生きていけるはずないから、所詮は養われている身なのだから
私の今の役目は、この2人を肯定して労うことであって、この2人にとっていい子を下手なりに演じることなんだと言い聞かせて、話に相槌を打つ。

気分の悪い
気持ちの悪い空間
そんな空間に馴染もうとしている私も気持ち悪いのか
そんなこと誰も教えてくれない
だれかそんなことないよって言ってよ

こんな日には、財布にある小銭を握って、暗い中自動販売機の炭酸を買いに行こう
誕生日に買ってもらったイヤホンをつけて、最近流行りの曲を聞きながら行き道とは違う道で遠回りをして帰りながら。
今の心だけでも躍らせながら。


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