シカのウンコを食う人生


「あ〜知りたいな〜」



「ウンコの味、しりたいな~」




初めまして。はらまちこくよと申します。
突然ですが質問です。皆さんはウンコを食べたことはありますか? 私はないです。

 ウンコって不思議な物体だ。健康的な生活をしている人間であればほぼ毎日目にしているにも拘らず、その味を知るものは伝説のAV男優しみけんを筆頭とするスカトロ界隈の方に限られるのではないか。
 
一般的に、茶色などの暖色系の色は食欲を促進させる効果があるといわれている。というか見た目はほぼチョコみたいなもんだし味も意外といけるのでは???美味しそう…。食べてみたい…。食べてみたいよ……。


まあ、夢物語だな。どうせ食えるわけがない。

 しかし、ウンコを食べるということは健康的にはもちろん、社会的にも大きな影響を及ぼす。ウンコを食うという非常識な行為に対する、心理的、社会的ハードルは尋常ではない。一度ウンコを食べてしまえば、食べる前の身体には戻れない。ウンコを食べた人間がどう思われるか、とても小さなことを気にして、私は今ひとつ殻を破る勇気を持てなかった。



 ーーーーそんな悶々とした思いをいつも通り抱えていたある日。このままウンコを食わない人生でいいのか?と囁くもう一人の自分。この時、布団で寝転びつづけることもできた私は、ある大きな決断を下す。きっかけが何だったかは、思い出せない。いや、きっかけなどなかった。


「食おう!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「行け行け行け行け!!!」
「出せ出せ出せ出せ!!!」
「…食えねえな」


何故人がウンコを食わないのか。私はその理由を、便器に相対した瞬間5秒で理解した。その醜悪なフォルムと見た目、匂い。我々は、コロコロコミックでみるようなポップなウンコに余りにも毒され過ぎていた。


一度食糞を試みると、ますますウンコの魅力に取り憑かれる。ウンコとは、冗談抜きにこの世で一番面白い存在であり、言葉だと思う。 うんこミュージアム、うんこドリル、うんこのソフトクリーム。うんこは市民権を獲得しているのだ。しかし、それと同時に人々はうんこをひどく忌避する。道にうんこが落ちていたら目をそらし、出した瞬間トイレの水流に流し無かったことにする。触るなんてとんでもない、食べるなんてなおさらだという感情が一般的だ ろう。なぜ人々はうんこを嫌うと共に、好いているのか。その矛盾は、うんこが特別な存在であることの証明だ。

人々にとって特別な存在のウンコを食うことで、何か人生に劇的な変化が起きるのではないか…。


(ウンコを食べてみたい…。でも人糞はきつい…。でもウンコを食べれば何かが起きるかも…。)
そんな葛藤と予感を胸に、ウンコを食べる夢を諦めきれずネットサーフィンを続けていると、私はとあるベストマッチ・ウンコに出会った。ウンコとしての魅力と、ポップな見た目を兼ね備えた存在。それは--

「…シカのウンコ????」


ということで、

シカのウンコ採集にやって参りました。

ウンコを食いたいという積年の願いを叶えるべく、仲間数人を引き連れ、とある関東の森にやってきた。食糞計画は、以下の通りだ。


単純明快

ひとまず、この森では食糞するにふさわしいシカのウンコを探そうという算段だ。



まあそもそもウンコが見つかるかどうかも----

発見!
発見!!
!!?


シカのウンコ

意識して森を歩くと、そこは魅力的なウン掘場であった。左を向けばタヌキのウンコ、右を向けばイタチのウンコ。果ては絶滅危惧種と思われるニホンカモシカのウンコまで発見した。想定以上の収穫に正直ドン引きした。このままいくと人糞さえ発見しかねないと判断した筆者は、クーラーボックスいっぱいのウンコを手にし、足早に森を後にした。



STEP2 食糞!


ーーー都内某所
ウンコは新鮮さが命である。最近流行りの賞味期限0秒グルメなんて目じゃない。こちらは本当に時間が経てば経つほど命に関わる。都内某所にテントを立て、その中で人目を避けるように食糞の準備を始めた。



皆様ご存知かもしれないが、ウンコを食べることには、それ相応の危険が伴う。ここでざっとウンコを食べることで発症しうる症例を並べる。

〇セレウス菌、ウェルシュ菌食中毒
〇カンピロバクター食中毒
〇Q熱
〇E型肝炎
〇腸管出血性大腸菌感染症
〇エキノコックス等寄生虫症
etc…

…怖いね〜〜〜〜〜〜

とりあえず重篤な後遺症に繋がる危険のある病気の発症を避けるために、沸騰したお湯で湯煎してから食べることにした。78.1度を超えると大方の菌は死滅する。ウンコを食べてみたい方は是非参考にしてみるといい。

湯煎済みのうんこ

改めて湯煎した実物を目の前にすると不思議な感覚がする。あんなに家では食べれないと思い込んでいたものがいざ調理され目の前に出されると、思わず一瞬気圧される。匂いはかすかに土の香りがする程度だ。

ーーーーいざ、実食


「……」

「…味がしない!!!!」

まさかの無味!!!しかしよくよく味わうと、無味の奥にほのかに草と土の香りがする。人間と違って草食動物のウンコは想像以上に繊細な味わいだ。


予想外の結果に戸惑う。イニシエーションとしての食糞に期待をしていた私は、無意識にえずくような臭みや苦味を想像していたのかもしれない。ウンコへの歪んだ期待を抱いていたことを恥じる。しかしこのままじゃ食糞をした甲斐がないのも事実だ。そこで、とある名案を思いつく。


「カレーに入れよう!!」

ウンコとカレーは切っても切り離せない存在だ。「カレー味のウンコとウンコ味のカレー食べるならどっち?」論争は子供の好きなものランキング1位、2位を独占するカレーとウンコの人気っぷりを表す名議論である。

カレーにウンコを入れることで、この論争に一石を投じられるかもしれない。

「…美味い!!!」

読んでいる方の誰も信じていないだろうが、本当に美味しかったのである。草や土しか食べていないシカのウンコは、草の風味がするトッピングとして機能した。200円くらいの安いレトルトカレーにハーブの風味が加わることで、チープなカレーが複雑な味わいを持つ有名店の味に変化する。これは食べた者にしか分からない衝撃だろう。「カレー味のウンコ、ウンコ味のカレー論争」なぞ秒で吹っ飛んだ。強いて言えば、これからはウンコ入りのカレーが台頭する時代かもしれない。


「ウンコって、美味しいんだ…」

そんな衝撃を胸に、私はテントを後にした。食糞を達成した満足感を胸に抱きながら。



 ーーいざ食糞を終えてみると、そこまで劇的な変化があるわけではなかった。ウンコを食った後も人生は続いていく。当たり前である。食べた糞はとうに排出され、細胞も新陳代謝により生まれ変わり、私が食糞した記録、記憶、事実は日々の生活の繰り返しの中に薄れていく。これは、食べた糞がシカのフンだろうが人糞だろうが、そういうものだと思う。しかし、食糞による劇的な変化はなくても、食糞を試みるという行為によって私の気持ち、人生は大きく変化したように思う。世界は間違いなく広がったし、やろうと思えばウンコだって食えるという事実は、私の人生の可能性をこれからも大きく広げるだろう。(あと、エキノコックスとか普通に潜伏期間20年くらいあるらしいのでこの食糞が人生ごと終わらせる可能性も十分にある。)

まあウンコを食べた、という経験は今後間違いなく私の人生を彩るファクターになるに違いない。

帰り道に見る空は、いつもより青かった。



ーー終











「疲れた…。」
「カップ麺でも食うか…。」

「…。」



終わり。










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