狂犬病の検疫のニュースについて思うこと

ちょっと気になるニュースが流れてきた。

海外からやってくる生きものの検疫の特例を設けるという、かなりリスキーな決定をしたというニュースだ。もしこれが前例として成り立つことになれば、検疫をすり抜けたことで狂犬病が広がり、管理しきれないところにまで広がってしまうということもあり得るからだ。特に、「抗体の量が一定量確認できれば」という点に関しては、「感染時における抗体反応によって量が増える」という可能性もあるからこそ、それによって感染した個体が流入してしまうということもあり得る。

近年の色々なペットブームによって、日本には様々な生きものが持ち込まれてきた。メディアによってエキゾチックアニマルが取り上げられ、「飼いたい」と思う人が増えたという事例も多くある。そういった需要が増えたことで生きものの密輸入や信用性の低い証明書による流入が発生してきているからこそ、より一層の検疫の重要性が求められているというのに、だ。

それなのに、いくら海外から避難されてきた方のためであるにしても、こういった形で検疫の特例を設けることに関しては懸念の思いを抱いてしまう。もしも仮に病気が流入してしまって、管理しきれないところにまで入り込んでしまうと、状況によってはかなり危険なことにも繋がりかねない。

あくまで、個人的な懸念点としては、検疫の特例を作ることで、これから先に作られる特例によっって漏れが発生してしまうのではないかという点である。そして、その漏れは、場合によってはかなり致命的なことになりかねない。大切にしている生きものを戦火から守るために連れていきたいという思いは否定できないが、特例が前例となってしまうことをなによりも懸念してしまう。日本の行政システムでは前例を重視する傾向が強いからこそ、こういった前例を作ることへの強い懸念を抱いているのだ。

特に、狂犬病は一度広まってしまえば惨状につながる。そしてそれは、生きものの数が多い山間部だけの問題にならない。首都圏や都市部においてでも、大変なことになり得るのだ。

最近では、東京都の23区などの都市部に、アライグマやハクビシンなどの生きものが入ってきているという状況になりつつある。これは2018年の記事だが、それを見ても東京におけるアライグマの捕獲数が上がってきているのは理解できるだろう。タヌキも、かつては都心部では数を減らしていたが、最近では見かけやすい状況になりつつある。

もしそこに狂犬病のウイルスが入ってしまえばどうなるのか。

特にアライグマは牙が鋭く、かむ力も強い。そこに人と距離が近いということになれば、狂犬病の媒介者になると被害を拡大する大きな要因になりえる。狂犬病の症状等についてはここでは割愛するが、もしも狂犬病が流入してしまえば、防除のことも考えると、感染者が増えてしまう恐れも強いのだ。

さらに、最近では、アライグマだけではない。タイワンリスの都心部への進出も懸念されている。タイワンリスは人をあまり恐れず、むやみな接近を行えば、現在でもダニによって感染症を媒介されるという恐れもある。こういった外来生物の進出と狂犬病の流入が重なれば、一気に汚染国へと逆戻りするだろう。それだけではなく、どこに狂犬病の媒介者がいるのかわからないという状態になれば、日本にいる在来種の野生動物への被害も考えられるのだ。そうなってしまえば、犬の散歩ができるような環境にはならなくなるかもしれない。管理できなかった人間の責任によって、他の生きものへ被害を押し付けてしまうということは、あってはならないことだ。

ペットとして飼育されているのなら、ワクチン接種などの予防もされているとは思われる。しかし、必ずしも予防処置を行っているとは限らない。もしかしたら、予防処置がされていない生きものが流入してしまうかもしれない。仮にそうであっても管理範囲にとどめられるというのが検疫を行う上で重要なことであるからこそ、生きもの、植物やキノコ、動物の移動の際の検疫は、重要な意味を担うのだ。

我々は、すでに人の移動を抑えきれなかったこと、管理範囲にとどめ切れなかったことでの感染症の拡大というのを間近で見たはずだ。それなのに、その失敗から何も学ぼうとせず、前例となりうることで将来にリスクを伴うようなことをしてしまうのは、さすがに危険ではないかと思われる。

あくまで特例としてであり、この事例を前例とせずに一回限りとするならばまだ将来におけるリスクは低くなるだろう。しかし、この特例を前例にしてしまうことで、将来の検疫の規制緩和につながることになれば、少しの穴から大きな亀裂が生まれることもあるからこそ、あまりにもリスクの高い選択であると思えて仕方ない。

だからこそ、検疫の重要性をきちんと把握しつつ、その上で過度な負担が発生しないようなことになることを願う。

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