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【一転急降下も?】絶好調テスラがこれから直面する“6つの高い壁”

一見順風満帆に見えるテスラ。このまま右肩上がりに成長!していければ良いのですが、そのためには「乗り越えていかなくてはいけない高い壁」が存在しています。

一転急降下もあり得る、テスラが立ち向かわなくてはいけない困難。これからのテスラを占ううえで、自動車業界の人だけでなく、投資先として「テスラ」を持っているor考えている人、必見です。ここでしか読めない情報を含んだ、どこよりも詳しいテスラ分析、スタートです。

立ちはだかる壁① : 時間を経るごとに遅れていく計画

成長を続けるテスラ。その道のりは順調に見えますが、実は発表している計画に対し、進捗は大きく遅れています。

建設中のベルリンのギガファクトリー https://blog.evsmart.net/tesla/elon-musk-at-european-conference-on-batteries/

一番の直近の例ではドイツ、ベルリンのギガファクトリー。こちらは21年夏から量産を開始する予定でした。しかしながら、国や地方の承認、森林、自然動物保護などの環境問題を要因として、建設が遅れ、2022年4月に生産が開始。計画よりも半年以上遅れる結果となりました。
新車の計画についても時間を経るごとに後ろ倒しになっています。2019年の発表当時、先進的なデザインから話題になったピックアップトラック「サイバートラック」

すでに予約を開始し、50万台を超える注文が入っているとされています。生産開始時期は当初2021年を予定されていましたが、2022年5月月現在量産には至っていません。最新の報道によれば、生産は2022年後半からとされています。(なぜか当初予定されていなかった4モーターかららしいのですが)。
電動車トラックの「Semi」。2017年にプロトタイプが発表され、2019年の生産開始予定でしたが、2年以上経った今でも生産は開始されていません。2021年初めにはには21年中には納入が開始できる見込みとの発表していました。イーロンマスク氏曰く

「現在、たとえばTesla Semiといった新型車の開発を加速できない最大の原因は、ひとえにセルの不足です」とマスク氏。「今すぐSemiの生産しようと思えば、すぐにでも簡単に始められますが、十分な数のセルが手に入りません」。

との状況でしたが、2Q決算発表時には2022年に変更することを発表。事あるごとに生産が後ろ倒しになっています。
イーロンマスク氏が積極的に発信を行ってきた完全自動運転もまだまだ道半ば。テスラのFSD(Full Self-Driving)は”完全自動運転”という名前ながら、まだレベル2、運転支援の段階。

 Teslaが2021年中に完全自動運転車を実現できるかは不透明だと、同社のエンジニアがカリフォルニア州の規制当局に対して認めた。Teslaの最高経営責任者(CEO)を務めるElon Musk氏は1月、決算発表の電話会見で、2021年中に完全自動運転を実現することに「大きな自信を持っている」と述べていたが、これとは異なる見通しが示されたことになる。

https://japan.cnet.com/article/35170459/

現在の技術を見ると、完全自動運転までの道のりは程遠く(テスラ以外の要因:法整備/対応規制なども進んでいないことも含めて)、5年かけてでも到達することは難しいでしょう。(一部地域のみのレベル4ならかろうじて可能性はあるかもしれません)
目標未達に対して「高い目標を掲げている」から仕方がないと考えることもできますが、同様のことを既存の自動車メーカーがすれば、株式や世間から厳しい批判を受けます。これまでは「テスラ」だから、位置づけがあくまでも「新興メーカー」なので、という点で許容されてきました。しかし、時価総額自動車業界TOP、生産台数も増え「量産メーカー」として認知されるようになった現状では計画の遅れへの許容はいささか厳しくなりつつあります。
現在の計画も後ろ倒しになっていかないのか。そして、果たして計画の遅れが許されるのか。今後テスラは自身の計画を予定通りにこなせるか、その壁を越えていかなくてはいけません。
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立ちはだかる壁② : 既存の自動車メーカーの本格参入

現在、世界で最もEVを販売しているテスラ。しかし、既存の自動車メーカーが本格参入を始め、その地位は揺らぎつつあります。
まず本格参入を最初に開始したのはVWです。ビートルやゴルフシリーズを世界でHITさせてきたVWは、EVとして独自のプラットフォーム・MEBを導入し、「ID.」シリーズの開発を進めてきました。

ID.3のエクステリア

最初に発売されたのはコンパクトカーの「ID.3」。航続距離は短い(330~550km)、価格は少し高め、3万5,574.95ユーロ(約450万円)~ものの、先進設備や補助金優遇措置もあり、販売台数を伸ばし、欧州受注が14万4000台を超えたと発表されています。
ID.3」以外にも2021年9月にはSUVの「ID.4」の販売開始を発表(納入は2021年末から)、E-SUVクーペの「ID.5」も2022年から販売が開始される予定です。

ID.5(右)とID.5 GTX(左)

日本メーカーも2022年にはEVのラインナップを拡充させます。今最も人気のあるカテゴリー、ミドルクラスSUVにトヨタからは「bZ4X」、日産からは「アリア」、SUBARUからは「ソルテラ」が販売予定。

トヨタ「bz4X」

EVの先達として、独壇場を気づき上げてきたテスラ。しかし、今後は大手メーカーの参入により「EV」としての独自性は薄れていきます。テスラの魅力はEVであることだけではありません。しかし、重要な要素であったこともまた事実。
EVの選択肢が拡大されていく中でテスラは選ばれ続けるのか。販売台数を増やしていけるかは大手メーカーとの競争に勝てるかどうかにかかっています。

立ちはだかる壁➂ : 「量産」メーカーになる重み

テスラは販売台数を伸ばし、2022年1-3月期ではおおよそ30万台。2022年には年間150万台近いる生産/販売台数になるでしょう。

テスラ販売台数推移 「https://blog.evsmart.net/tesla/tesla-q3-2021-production-and-deliveries/」より引用

もはや「新興メーカー」ではなく、既存の自動車メーカーと同様の「量産メーカー」。購入するのは一部のイノベーターだけでなく、アーリーアダプター、そして、アーリーマジョリティの段階へは入りつつあります。テスラが販売を計画している2万5,000ドルの最廉価モデル、モデル2が発売されればよりその普及は「一般人」まで広がっていくことになります。
その「量産メーカー」として、アフターサービスをいかに構築するのかという問題があります。車は購入して終わりではありません。高額で長期間所有するものであり、定期的なメンテナンスや修理、補修が必要となります。これまで既存の自動車メーカーではその販売店がアフターサービスの多くを担ってきました。アフターサービスが充実していなければ、購入後の満足が下がり、ユーザーが離れていくことになります。
テスラではサービスセンターが少なく、いかにこのアフターサービスを充実させていくのかという問題があります。テスラはソフトウェアに関しては非常に先進的であるものの、ハードウェアに関していえばけっしてレベルの高い会社ではありません。(アメリカのコンシューマーリポートでも信頼性は下位)。販売台数の少ない日本でも定期的にテスラの故障が話題になり、(TwitterなどのSNSにテスラユーザーが多いこともありますが)故障後のサポートは欠かすことが出来ないと言えます。

サービスセンター「東京ベイ」

ただ、修理の拠点、販売店の少ないテスラがいかにアフターサービスを充実させていくのか。現在はアプリで出張サービスとして呼べるモバイルサービステクニシャン機能もありますが、入庫が必要になるレベルの故障になると「修理できる店舗が限られる/部品の納期が長い/費用が高い」とかなりハードルが高くなります。テスラを購入できる、お金にゆとりがある/テスラへの信頼が高いユーザーなら良いのかもしれませんが、これから一般化、大衆化し、台数も増える中では同様の対応は購入者の満足を下げていくことにつながるでしょう。改善しようと販売店などの拠点を増やせば、固定費が増えることになり、業績の圧迫につながります。
個人的にテスラで一番注目しているのは実はこの「量産メーカーとしてアフターサービスどうしていくのか」問題です。この問題を超えることが出来なければテスラは大衆化は難しく、あくまでも限られた層のみとなって、台数の伸びは止まると思っています。
新興メーカーではなく、量産メーカーとして、質の高いサービスを多くの人に提供できるのか。テスラがどのような判断をし、乗り越えていくのか注目です。


立ちはだかる壁④ : 見直されるクレジット取引

これまでテスラの収益を支えてきたCO2排出権取引(クレジット)。

https://president.jp/articles/-/52580?page=3

作った分だけ丸儲け。このクレジット販売による利益は継続的に維持できるのか、先行きが不透明になっています。

https://president.jp/articles/-/52580?page=3

理由の一つ目は販売先の減少です。2021年5月テスラからクレジットを購入していたステランティスは、「欧州の環境規制に対応するためにテスラと結んでいたクレジット売買合意を解消する」と発表しました。これは自社で「欧州の二酸化炭素排出量目標を達成できる状況になった」ためであり、テスラは大きな販売先の1つを失ったことになります。

既存の自動車メーカーも電動化、EVシフトが進んでおり、排出権取引が不要となれば、テスラのクレジット収益は減っていくでしょう。(ただ一方で規制はより強まっていくのでまだまだクレジットは稼げる可能性はあります)

そしてもう1点あるのはクレジットの在り方そのものの見直しです。現在は完成車でのCO2排出をベースにしているため、テスラは排出ゼロとなっており、排出クレジットを得ることが出来ています。しかしながら、欧州を中心にLCA(ライフサイクルアセスメント)、製造段階を含めたCO2排出でクレジットを見直す動きが進められています。EVでは製造時にバッテリー生産などで多量の電力を消費するため、LCAでの排出になると、これまでと同様のクレジットを稼ぐことが出来ません。テスラのメイン工場はCO2排出の多い火力発電を主力とした中国、アメリカであり、もしLCAでのクレジット換算になればテスラはクレジットを得ることが難しくなります。
クレジットに関してはまだまだ未確定な部分が多く、本当に減るのかどうかわかりません。しかしながら、これまでのように単純に「作った分だけ丸儲け」は今後難しくなっていくでしょう。
テスラの収益の柱の1つ。クレジットを失ったとしても黒字を維持し続けられるのか。決算ごとにどれほど稼げているかを注視しておく必要があります。

立ちはだかる壁⑤ : グレーのままで良いのか。NHTSAとの緊迫した関係

既存の自動車メーカーでは異なる思想で、革新的なクルマを作ってきたテスラ。ただ革新的=「これまでにない」は法や安全性でのグレーゾーンを攻めることでもあり、安全を本当に担保できているのか、そのチェックを行う米幹線道路交通安全局(NHTSA)との関係は緊迫したものになっています。
一番揉めた例はMCUのリコール。MCUに使われているeMMCが書き込み上限に達し、寿命を迎えるとテスラの主要操作を司るディスプレイが使えなくなる欠陥。こちらは早期から欠陥があることがわかり、米幹線道路交通安全局(NHTSA)がテスラにリコールを行うよう警告を行ってきました。しかしながら、テスラは消極的でなかなかリコールに応じず、最終的にNHTSAが正式要請を出し、リコールに至りました。通常であれば、自動車メーカーはNHTSAから指摘を受ける、もしくは自社内で欠陥が発見されれば自主的にリコールを行います。しかしながら、テスラは他問題に関しても消極的な態度を見せており、NHTSAとの関係は良いものとはいえません。
テスラの代名詞ともいえる「OTA」や「運転支援システム:Auto pilot」についても、NHTSAが幾度となく調査に入り、問題を指摘しています。「OTA」や「Auto pilot」に関しては、実態に法規制が追い付いておらず、実際に法律に違反しているわけではありません。しかし、安全を保つ上で問題が出ていることもまた事実。(テスラの「Auto pilot」では夜間で緊急車両のライトや発炎筒、発光する矢印を用いた誘導灯、ロードコーンなどが存在し、通常とは異なる環境の場合、衝突事故が発生し、11件が調査の対象になっています。
また最近では「OTA」により、運転中であっても車内ディスプレイでゲームが可能になる更新がなされたため、NHTSAが調査を開始しました。
NHTSAの重要顧問にテスラに厳しいとされる人物が任命されたこともあり、今後もNHTSAと緊迫した関係が続きそうです。
また訴訟大国、アメリカ。テスラが何らかの異常で事故や車両不良につながった場合、集団訴訟が発生し、多額の賠償金を払う可能性があります。テスラはよくも悪くもグレーゾーンを攻めるクルマ作りを行っており、他メーカーと比較するとその訴訟リスクは極めて高い。かつてトヨタがプリウスの品質異常で公聴会に呼ばれる窮地にまで至ったように、テスラもこれほど大きくなれば注目されやすく、大きな品質異常を起こせば、その代償は大きくなりそうです。
グレーゾーンを攻め続けるテスラ。革新性共にリスクも抱えていることは覚えておくべきです。

立ちはだかる壁⑥ :「イーロンマスク」というリスク

2021年、米誌タイムが発表した年末恒例の「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」はテスラCEOの「イーロンマスク」でした。
成長を続けるテスラを率いる実績もさることながら、スペースXやニューロリンクなど他にも先進的な開発を進めるイーロンマスク氏。Twitterのフォロワーは6600万人を超え、今世界で最も影響力のあるインフルエンサー、経営者であるといって間違いないでしょう。
テスラがここまで伸びてきた大きな理由はこの「イーロンマスク」のカリスマ性にあります。広告がなくても売れるのはイーロンマスク氏のTwitterやネットでの影響力が大きいからこそ。ただ裏を返せば、テスラは「イーロンマスク」、一人によって支えられている部分が多く、もし「イーロンマスク」に何かが起これば、テスラはそのポジションが危うくなります。
イーロンマスク氏は「エキセントリック」。Twitterでの発信は時に物議を醸し出し、そしてそれが株価に影響し、株主からは集団訴訟を起こされています。(それでもやめないのはツイ廃の鑑)
かつてのappleのスティーブジョブズ氏のようなイーロンマスク氏の圧倒的カリスマ。多くのファンを集める一方で、そのブランドは個人によって支えられています。唯一無二、替わる人材はおらず、もし個人に何かある/問題を起こせば、それは企業そのものの危機につながります。
(インフルエンサーになろうといった冗談ツイートもしていました
「イーロンマスク」はテスラのストロングポイントでありながらも、同様にリスクでもあるのです。

立ちはだかる壁+α :「テスラビジョン」は成功するか

最後に壁ではありませんが、今後の注目ポイントとしてテスラの自動運転システム、オートパイロット機能、FSDに採用されている「テスラビジョン」が成功するかどうか、この点を個人的にとても注目しています。

高性能なカメラを有効に活用するため、Teslaの車両には自社開発のパワフルなビジョン プロセッシング ツールが採用されています。ディープ ニューラル ネットワーク上に築かれたTeslaビジョンは、従来のビジョン プロセッシング技術では達成することのできない信頼度で車両の環境を巧みに分析します。

https://www.tesla.com/jp/autopilot

周囲の状況を「高性能なカメラ」で認知する「テスラビジョン」。他自動車メーカーが高性能レーダーやRidarを搭載する中でテスラはカメラによる認知⇒運転支援/自動運転につなげる思想でクルマの開発を進めています。カメラであれば、他部品よりも安価に生産ができ、また現在運転している人間も主に、目で周囲の情報を認識しているのであればカメラでも問題ない。こうした利点を考えればカメラの選択肢は妥当に見えます。
しかし自動車に運転を任すシステムとしてカメラだけで本当に問題はないのか。カメラの認識が人間と同様と言っても、より安全を志向するなら同様のレベルで良いのか。カメラは雨天時など特定の場合で、周囲の認知が低下するが運転に影響は与えないのか。
テスラ社の中でも揉めているのとの報道もあり、本当にカメラだけでテスラの目指す「自動運転」が可能になるのかは疑問符がつきます。
現在テスラは市場での走行データの収集も行っており、OTAでのアップデートもあることから、運転支援システムでは先行しているとされています(問題はいろいろ起きていますが)。しかし、今後他社がレーダーやRidarを使った運転支援システムの開発を進めた時、カメラを選択したテスラは果たしてそのリードを守り切れるのか。テスラビジョンの成否が数年後のテスラの運命を分けるかもしれません。

まとめ

これまで右肩上がりに成長し、特に直近では目覚ましい業績を残しているテスラ。今後これまで同様の成長を続けていくためには今回紹介した「壁」を乗り越えていかなくてはいけません。どの壁も決して低いものではなく、超えることが出来なければ急転直下、一気に業績が悪化する可能性もあります。今後、テスラのニュースが流れてきたら、今回のポイントがどうなっているのか意識して見ていただければ、「将来のテスラ」を先読みできると思います。

注:この記事は2021年12月に発行したニュースレター「モビイマ!」を2022年5月時点の最新情報に更新し改稿した記事です。
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