しらすひじき

友達に彼女ができた。

東日本大震災の翌年に知り合った。
福島県在住の彼は震災の影響で持て余した時間をニコ生配信にあてたらしい。その配信を友達が見つけてきた日のことを覚えている。
「めちゃくちゃなクオリティのピカチュウを見つけた」
そう言ってきた本人が名乗っていた名前はミジュマルだ。ポケモンがポケモンGETしてんのかよって思った。楽しいことハンターのミジュマルが言うのなら、きっと楽しいピカチュウなんだろう。翌日訪れた配信で、すごいものをみた。ドンキに売ってるだろうピカチュウのつなぎを着て、顔を黄色に塗っていた。こいつマジか。しかもリクエストには何でも答えるという。「じゃ、タンスの物真似して」これが多分最初にしたコメントだ。センスない。ピカチュウは律儀にタンスになりきって引き出しを開け閉めし、その後他のリスナーに言われたハンガーの物真似もやりきった。こんなにミジュマルがつないだ縁なのに、二人が会ったのは2017年あたりだった。不思議なもんだ。私とピカチュウは関西出張に来るという時にご飯を食べた。ぐでたまカフェだとかふなっしーランドだとか、私がハマるものは必ず履修してハマってくれた。会えば彼が好きな女の子の話をよく聞いた。恋愛体質というか、好きな物に一直線な彼は私なんかよりよほど女子だった。チョコレートにハマり、うどんにハマり、カレーにハマっていた。そして彼は1725日、毎日カレー味の何かを食べている。毎日欠かさず。一緒にライブに行こうが、場所が大阪でも横浜でも仙台でも、絶対に一日一食はカレー味だ。私は友達なので慣れた。ピカチュウと一緒に過ごすスケジュールを決める時は、カレーのことが常に頭にあった。そんなもんだ。
好きな人に対してというか、ある意味彼は潔癖だった。浮気とか不倫に関しては憎んでるレベルだ。ライブ後みんなでホテルの部屋で呑んで話している時に、一人の男の子が実は彼女が夫持ちだと言い出したことがあった。私は秒でピカチュウを見た。しっかり酔って寝落ちしていたので安心した。見ると他の友人たちも同時に様子をうかがっていた。周知の事実として知られていたんだろう。みんなが心配するくらいには、愛される男でもある。
そんな12年だった。たくさんの話を聞いていたけれど、ひとりの女の子との付き合い以外は成就した恋を知らなかった。でも恋することをやめない彼だから、そのうちパートナーができるだろうとは思っていた。
「スパイスカレーを一緒に食べてくれる人」らしい。彼の生活の一部であるカレーを一緒に食べてくれることは、外せない条件だろう。とやかく言われないだけでも十分なくらい。でも一緒に楽しんでくれたら最高だよな。

きっとデレデレしてるんだろう。フットワークも軽いから、全国各地に旅行に行くだろう。美味しいものや楽しいこと。きれいなものやかわいいもの。どんな態度で過ごすのかも想像できる。家庭を作ることに憧れてたことを思い出して、なんだか嬉しい気分でひじきの炒り煮を作った。しらすと一緒にふりかけにするやつ。炒り胡麻をたくさん入れて、ニコニコで作った。

ミジュマルの家には3歳になる息子がいる。当時遊んでいた友人の子供は今年入園した。楽しそうに登園してる写真がかわいらしい。グループで遊んでいても、全員が仲良しな訳ではなかった。万事適当な私だけがみんなを何となくつないできた。今回のニュースでまた賑わいそうだな。
桜が満開になった今、はっぴーな知らせがきて本当に嬉しい。試しに作ったしらすひじきは美味しかったから、これからも量産するだろう。作る度に私は、今日のことを思い出すだろう。

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